島根大学生物資源科学部の山口陽子助教らの研究チームは、長らく生態が不明だった原始的な脊椎動物「ヌタウナギ」について、「50年以上生き、エサの消化に2週間かかる」という独特の行動パターンを明らかにした。また繁殖頻度が従来の推定以上に低く、個体数が減少した場合の回復には長い時間を要することも分かった。
研究チームは、捕獲したヌタウナギに個体識別用のタグを装着し、1年半(一部個体は通算で約3年半)にわたり飼育。毎月の体長・体重測定に加え、摂餌量や排せつまでの日数も記録した。
得られた成長データと、島根県水産技術センターが蓄積してきた記録を組み合わせて解析した結果、(1)生殖腺が発達するのは最短でも4歳以降、(2)漁獲される個体の多くは6〜9歳、(3)寿命は50年以上に達する可能性があることが示唆された。摂餌行動の分析から、ヌタウナギは食べたエサを平均2週間かけて消化し、腸と同程度の太さのフンをまとめて排せつするという特徴も確認された。
ヌタウナギは「ミミズのように大量にいる」などといわれることもあるが、産卵数は1匹当たり20〜30個と少なく、孵化にも1年以上を要することから繁殖効率が非常に低いことは以前から知られていた。今回の繁殖観察では、2〜3年に一度しか産卵しないメスもおり、従来の推定以上に繁殖頻度が低いことが分かった。
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山口助教は論文において、「ヌタウナギは一見大量に見えても、個体数が減少した場合の回復には長い時間を要する。環境変化や乱獲に対して非常に脆弱な生物といえる」と指摘。
今後は、自然環境下における成長速度や年齢構成を明らかにするため、野生個体の長期モニタリングが必要だとしている。また、寿命や繁殖に関わるホルモン系など、生理学的な仕組みの解明も課題に挙げた。
山口助教は論文において、「持続可能な漁業を実現するには、海洋生態系というシステム全体を保全する必要がある」とした上で、「人間にとって価値のある種だけでなく、ヌタウナギを含む多様な種に研究を広げ、俯瞰的な視野から基礎研究を推進することが重要だ」としている。
研究成果は6月、国際学術誌『Zoological Science』に掲載予定。
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