
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)『あんぱん』が放送を開始して3か月が過ぎ、ほぼ中盤に差し掛かったところだ。
視聴率に関しては、それほど飛躍的に上昇しているわけではないが、SNSなどでも《面白い》と評判はすこぶるいい。
しかし、ここにきて、視聴者からヒロイン・のぶに対して否定的な声が出てきている。SNSでは「嫌い」「苦手」「主人公に共感できない」「のぶはいらない」など、ヒロインに対して不満を示す書き込みが目につくようになった。
悲惨なシーンに「しんどい」
ヒロインのキャラクターがあまりにも強烈だからなのだろうが、今田美桜が演じるヒロイン『のぶ』は、小さいころから『ハチキン』(土佐弁で男勝りの勝気な女性)と呼ばれていた。幼馴染の崇を強い口調で叱責し、殴打したり、夫の二郎に対しても激高して反論するシーンはその性格を表現するためだと思うが、視聴者はそのあたりが不快に感じるようなのだ。
のぶのモデルとなっている漫画家やなせたかし氏の妻・小松暢さんも、実際に「ハチキンおのぶ」というあだ名があり、非常に男勝りな性格だったという。史実に忠実に描かれているとはいえ、そこはドラマ、当然脚色が入る。実際の暢さんは、教師の経験はなく、“愛国の鑑”と呼ばれることもなかった。
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また、戦時下の生活や登場人物が次々と亡くなる悲惨な戦争の描写が長く続いていることにも、「悲惨でちょっと見るのがしんどくなってる」などの声も。
民放でドラマ制作を担当するプロデューサーは、こう語る。
「主人公が苦難の末に、やがて一角の人物になる。これは朝ドラストーリーの王道で、日本の近代化が進む明治、大正、そして太平洋戦争突入から終戦にかかる時代では、戦時下の生活が描かれることになります。中でも太平洋戦争が始まり、日本の敗戦が色濃くなってきた時期は、兵隊はもちろん、市民の生活は悲惨極まりなくなってきます。
1日の始まり、出勤前や通学前に見ることが多い朝ドラでそんなシーンばかり見ていたら、しんどくなりますよね。ですから、戦時下の描写は長く続けないはずなんですが、『あんぱん』ではそうした方がいい理由があるんです」
『逆転しない正義』
のぶをそこまで“愛国の鑑”にし、戦時下や悲惨さを強調するシーンが長いのはなぜなのか。
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「それは、第12週のサブタイトル『逆転しない正義』にあります。小松暢さんはやなせ氏に“正義は逆転することがある。信じがたいことだが。じゃあ、逆転しない正義とは何か? 飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ”と言っていたそうです。『アンパンマン』の原点ですね。
『逆転しない正義』の対極にある『逆転する正義』が何かというと、典型的なのが戦争です。戦争の始まりはたいてい“正義”です。日本も、“欧米列強から解放するため”という理由を掲げて東南アジアに侵攻しました。国民は“日本は正義のために戦争しているのだ”と思っていましたが、敗戦で違った部分も浮かび上がり、価値観が変わりました」(前出・民放プロデューサー)
主人公・のぶも、戦争で愛する人たちを亡くし、その悲惨さを知って自分は間違っていたことに気づくことになる。つまり、『逆転しない正義』とは何かを伝えるために、のぶを“愛国の鑑”にし、戦争の悲惨さを強調しているのではないかという。
NHKの関係者は、
「視聴者は今田美桜さんじゃなく、のぶが嫌いなんですよね。それだけ感情移入するということは、ドラマに入り込んでいる証拠ですので、心配はしていません。もう少し待っててください。敗戦で、のぶは変わります。誰からも好かれるヒロインとなり、視聴者も気持ちよく朝、家を出ることができるようになりますから」
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と、のぶに対する視聴者の反応は、かえってありがたいという。
今後の展開に期待は膨らむ。この先、視聴者の反応も“逆転”するのか――。