アダム・クーパー「舞台の上で観客からの愛を感じたい」新演出『コーラスライン』への思い語る

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2025年06月26日 09:10  クランクイン!

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アダム・クーパー  クランクイン! 写真:平岩亨
 イギリス・ロンドン出身のバレエダンサーでロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして活躍、退団後も映画やミュージカルで活躍を続けているアダム・クーパー。2025年9月からは、傑作ミュージカル『コーラスライン』の新演出版公演で日本に来日し、演出家のザック役を熱演する。アダムはどのような想いをもって、この役に挑んだのか、話を聞いた。

【動画】アダム・クーパーが演出家・ザックに! 『コーラスライン』第1弾ティザー映像

■アイコニックな作品への新アプローチにワクワクした

 ミュージカル『コーラスライン』は、1975年にニューヨークのオフ・ブロードウェイで大ヒット。その後ブロードウェイへ進出した傑作で、15年間のロングラン公演を続け、トニー賞9部門、ピューリッツァー賞演劇賞などを受賞するなど高い評価を受けている。長らくオリジナル版で上演され続けてきたが、奇跡的に新演出と振付の許可が下り、オリジナルの精神を受け継ぎつつも、ドラマをより深く掘り下げて2021 年、レスターThe Curveで初演、そして2024年にはロンドンで上演、大成功を収めた。今回、日本で上演されるのは、その新演出版となる。

――『コーラスライン』を新バージョンで上演するというオファーを受けたとき、どのようなお気持ちになられましたか。

アダム:この新しいバージョンのオファーをいただいたとき、とてもワクワクしました。今、この作品にとても誇りを持っていますし、作品に参加していることに喜びを感じています。『コーラスライン』のことは昔からよく知っていて、映画は小さい頃に観ていましたし、12年ほど前にロンドンでリバイバル公演が行われた時にも観劇しました。このアイコニックな作品を新バージョンでやれること、新しいアプローチをするということを、とても楽しみにしていました。それに、演出のニコライ・フォスターをとても尊敬しているので、本当に興奮していました。

――以前にご覧になっていた『コーラスライン』をどのようにご覧になっていましたか。

アダム:もともと映画版がとても好きです。それぞれのキャラクターがすごく鮮明に描かれているところが気に入っていました。特に、マイケル・ダグラスが演じたザックがダンサーたちの話を聞き出そうとしているシーンが印象的でした。オリジナル版のミュージカルでは、ザックは舞台上に登場せず声だけなので、そこが映画とオリジナル版の違いだな、と感じていたんです。今回のバージョンでは、ザックも演出家として舞台上に上がってくるところがとてもいいなと感じています。オリジナル版のステージはすごく大きくて華やかだったんですが、今回はさらにそれぞれのキャラクターに入り込んでいきたいですね。

――今回のバージョンの魅力をどのようなところに感じていますか?

アダム:やはり新しいエネルギー、新鮮なエネルギーを持った作品になっていると思います。振付もとてもワクワクするようなものになっていますし、1人1人のキャラクターに感情移入することができるし、そこがすごくハッキリと描かれているので、とてもエキサイティングな作品になっています。

■葛藤を乗り越えていく人間の美しさは、全世界共通のテーマ

――演じられるザックとアダムさん自身では、キャリアに重なりがあるようにも感じられます。ザックについてどのように捉えていらっしゃいますか。

アダム:ザックは以前の作品ではとても厳しい存在として描かれていて、1970年代にこの物語が描かれた時代の演出家はそういう存在でした。ですから「怖い人」という印象を持っている人が多かったと思うのですが、今回の作品では親しみやすく感じられるんではないでしょうか。オーディションも雰囲気が温かい空気感になっているように思います。もちろん、作品のベースは1970年代ですので、役者が番号で呼ばれ、あなたはダメ、あなたもダメ、ダメダメダメ…とオーディションで切っていく厳しさはあるんですけども、ザックを掘り下げ、少し人間味のあるキャラクターにしていくことを、今回の新しい挑戦としています。ザックがステージに上がり、役者と関わることでザックも彼らから影響を受けていることが、今回のバージョンの違いだと思いますね。

――ザックを演じるにあたり、ご自身のキャリアで得た経験は活かされていますか?

アダム:そうですね。1つは自分の経験と照らし合わせて、自分が役者として演出家に厳しくされた経験を思い起こして演じているところはあります。特に最初のほうのシーンで、どんどん役者を落としていかなければいけない場面では、そういう昔のことを思い出しながらやっています。一方で、役者たちの中には、前から知っている人も居れば、関係があった人もいて、その1人1人との歴史もあるんですね。ザックと彼らのキャラクターを考え、そこにチャンネルを合わせつつも、
ちょっと厳しさを取り入れることをしてみています。

――『コーラスライン』はとてもファンの多い作品です。オリジナル版のファンに、新バージョンの魅力を伝えるならば、どのようなところになるでしょうか。

アダム:オリジナル版をご覧になっていた方は、とても驚かれると思います。まったく新しいエネルギーを持った、現代版の作品になっていて、ドラマをもっと感じ取っていただけると思いますし、1人1人のストーリーにより注目していただけたりするんじゃないかと思っています。逆に、初めてご覧になる方は、素晴らしい歌や振付、ストーリーに惹きつけられるんじゃないでしょうか。人間性や生き様がとてもリアルに描かれていて、1人1人違ったバックグラウンドがあり、それぞれに葛藤している苦悩が見えてくるので、観てている方が銀行員であれ、学校の先生であれ、どんな方であっても何かしらの共感を得られると思っています。それぞれの葛藤があって、それを乗り越えていく人間としての美しさは、全世界共通で共感できるテーマではないでしょうか。あとは…私が出ていることですね(笑)。

■役者はやっぱり、舞台の上で観客からの愛を感じたい

――それはとても重要で、大きな魅力ですね(笑)。アダムさんは、オーディションで選ばれる側も、選ぶ側もたくさん経験されているかと思います。ご経験の中から、たくさんの人の中で抜きん出て選ばれるには、どのようなことが大切だと考えますか。

アダム:イギリスにも素晴らしいダンサーはたくさんいて、抜きん出て素晴らしい人もたくさんいます。ただ、私がオーディションをするときは、その人が人として興味を惹(ひ)かれるかどうかを大切にしています。多くのダンサーが前に出てきて、私を見て! と出てくるんですが、私はそういう人よりも、後ろの方でちょっと恥ずかしそうにしている人のほうに惹かれることが多いですね。逆に、前に出てくる人たちには、なぜ前に出てくるのかと、その理由を考えてしまいます。静かなる自信がある人は、前に出てくる必要性を感じていないんですよ。もう、自分には自信があると思っている人たちなんですね。あえて自分を必要以上にアピールする必要がない。あと、私が人に教えるときにいつも伝えているのは、オーディションをする側の人に質問をしなさい、ということです。その質問によって、選ぶ側は人となりを見ることも出来るし、言われたとおりに動くことだけをしている人たちの中で、この人は考えて動いているんだな、ということがわかるので。もちろん、良識ある質問をする場合ですけどね。

――舞台を志す人はもちろん、多くの人にとってヒントになる言葉だと思います。今回の公演では、東京から始まり、仙台、大阪をめぐってまた東京に凱旋します。日本のツアーで楽しみにしていることは?

アダム:まずはシンプルに、日本に来るのが大好きなんです。日本のみなさんに会えることは、とても楽しみです。あと、仙台に行くのは初めてなので、そこも楽しみですね。日本に来ると、私自身がすごく受け入れられていると感じることができるんです。日本ではバレエやコンテンポラリーダンス、演劇にも出演させていただきましたし、ミュージカルコンサートに出させていただきました。そのどれに出演したときも、たくさんの人から愛されていると感じることができました。ちょっと自分勝手な気持ちかも知れませんが、役者としてはやっぱり、舞台の上で愛されていると感じたいんです。日本の皆さんからは、いつも愛を感じることができるので、それがとてもうれしいんですね。

――日本のオーディエンスの特徴的なところはありますか。

アダム:日本の皆さんはリスペクトをもって観てくださるので、すごく静かに観てくださる印象がありました。私が日本で初めて公演に出たのは36年ほど前ですし、特にバレエの公演ではそういう印象がありましたね。ただ、日本でもいろいろな公演があってお客さんもたくさんご覧になられていることもあってか、以前よりも声を出して盛り上がったり、拍手も大きくなったりして、そこは変化を感じますね。特に『雨に唄えば』では、何度か公演をさせていただいたので、日本に来るたびに観客の皆さんもどんなふうに反応すればいいのか学んでいってくださったのか、変化を感じましたね。私たちへのリスペクトを感じられながらも、声援をいただいたり、笑ってくださったりして、役者としてはそういう反応がとてもうれしかったです。

――私たちもまた日本に来てくださることをとても嬉しく思っています。公演を楽しみにしている日本のファンに、メッセージをお願いします。

アダム:ぜひ観に来ていただきたいです! この新しいバージョンはすごくエネルギーに溢れていますし、感情的にもとても揺さぶられると思います。そして何より、素晴らしいダンスと音楽でお届けしますので、たくさんの皆さんにお会いできるのを、とても楽しみにしています!

(取材・文:宮崎新之 写真:平岩亨)

 ミュージカル『コーラスライン』は、東京建物 Brillia HALL にて2025年9月8日〜22日に日本プレミア公演、仙台、大阪での地方公演の後、再び東京に凱旋する。
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