トヨタGR010ハイブリッドの2025年ル・マン特別リバリーと、トヨタTS020 トヨタのル・マン挑戦40周年を記念し、かつてのTS020に施されていた赤と白の特別リバリーをまとって2025年のル・マン24時間レースに参戦した7号車トヨタGR010ハイブリッド。レース前週の公開車検開始以来、現地ではファンとメディアから極めて高い注目を集めていた。
日本のファンとしては、9月に富士スピードウェイで開催されるWEC第7戦でも、このカラーリングを見たいところ。トヨタGAZOO Racingの小林可夢偉チーム代表兼7号車ドライバーにその可能性を訊ねると、カラーリングに込めた思いを含め、いろいろと興味深い話を聞くことができた(※取材はル・マン決勝前に実施)。
■「運動したら脂肪が落ちて赤身になりました」は回避
1985年にル・マンへの挑戦を開始したトヨタ。2018年に初優勝をつかむまでは数々の悲劇に見舞われてきたが、今回GR010ハイブリッドに採用された1998年デビューのTS020(トヨタGT-One)もその1台。首位を走行していた29号車は、残り1時間強というところでギヤボックストラブルに見舞われリタイア。翌1999年も、予選でフロントロウを独占する速さを見せたものの、終盤のタイヤバーストにより総合優勝を逃している。
今回の特別リバリー選定にあたっては、過去のトヨタの参戦カラーリングをベースにしたいくつかの案があり、そのなかには「青もあった」と可夢偉代表は明かした。
「一時期はコンピューターとかプリンターの性能が上がって、それでしか出せないようなグラデーションがあるカラーリングが流行っていましたが、最近はどちらかというとレトロなリバリーが多くて、僕は結構そういうのが好きだから、昔のトヨタのクルマのカラーリングを引っ張り出すというのは、ひとつの案だなと思いました」
過去のさまざまなカラーリングを並べた結果、「やっぱりこの“霜降り”だな」(可夢偉)となったという。
「『昔のル・マンが好き』という人もいると思いますし、『過去があるから、いまがあるんだよ』というメッセージ性にもなります。そこで最終的には『過去(7号車)・現在(8号車)・未来(6月11日にル・マンで発表したGR LH2 Racing Concept)』というストーリーでやろうよ、という話になりました」
ただ、通常カラーの黒から赤へと7号車のリバリーを変更することは、各種調整が思いのほか大変だったよう。あまり大きな変化を望まない日本独特の風潮や、「40周年ではなく、やるなら50周年では」といった意見もあったようで、そのなかで可夢偉が奔走し、なんとか今回の特別リバリーが実現したという。これは可夢偉代表にとって、力を尽くした“大仕事”となったようだ。
「評判はいいですよ。他のチームのドライバーもみんな言いにくるんです、『カッコいいよな』って。ネガティブな意見はひとつも聞いてないですね。なかなかクルマのデザインで、みんながカッコいい、って言うことはないですよ」
現在は車両にカッティングシートを「貼る」ことでカラーリングを完成させるため、技術的にも若干のハードルはあった。とくに350km/hで走行するサルト・サーキットでは、風圧により細かな部分からシートの剥離が起きる可能性があり、「ラッピング技術も進化しているけど、24時間の過酷さはそいういうところにも表れる」と可夢偉代表も難しさを感じたという。
この決勝前の時点で可夢偉は、「どうします? 24時間走ったら白い部分が全部剥がれて赤身になって、『運動したら脂肪が落ちて健康になりました』とか言ってたら(笑)」と冗談を口にしていたが、結果的には24時間走破してもカッティングシートには大きな変化は見られなかったようだ。
そんな大好評を博した特別リバリーだが、現在のところはル・マン限定とされている。日本のファンが待ち構える富士スピードウェイで“復活”する可能性はないのだろうか?
「それは……アンケートでも取って、集計していただいて。そういうのをやってもらえれば、もしかしたら実現するかもしれない。そして、もしかしたら次は、7号車じゃなくて8号車でもいいですよね。ただもう、僕の力は使い果たしたので(苦笑)」
ちなみにこのカラーリング、日本では当時から一部で“霜降り”という愛称で親しまれてきたが、可夢偉はこれを「Wagyu(和牛)」という言葉に置き換えて、海外記者に説明していた。
「霜降りは英語で言ったら『マーブル』なんですけど、それでは外国の方には伝わらないなと。だから『ジャパニーズ・ワギュウだ!』としたんです。というわけで、ぜひ、日本の和牛ブランドのスポンサードをお待ちしております」
ファンからの声、そしてスポンサー獲得次第では、富士で特別リバリーが見られる可能性はゼロではなさそうだ。
[オートスポーツweb 2025年06月26日]