
【写真】「木村達成」フォトギャラリー
挑発的、熱狂的でありながらも、美しい詩的なセリフが印象的な数多くの伝説的戯曲を生み出した劇作家・清水邦夫。本作は、清水が1969年に安部公房の推薦で俳優座公演のために書き下ろした作品だ。劇作を始めて約10年経ち、劇作家として一本立ちするのにふさわしいものを追い求めていた清水が、新しい世代の作家としての地位を確立した、まさに転機となる一作といわれている。
ピンクの照明が妖しげに光る娼家。大学教授と名乗る初老の男「善一郎」はここの女主人「はな」の客である。そして青年「出」は女主人のヒモで、ここから逃げようとしているが、彼女の優しさから逃れられない。この娼家には若い娼婦「愛子」もいて、彼女の客である若い男「敬二」もやって来る。
やがて彼ら5人はまるでここが一つの家族であるかのようなゲームを始める。初老の男が父親、女主人が母親、ヒモの青年が長男、若い娼婦が長女、その若い客の男が次男。ところがその家族ゲームとは…。
演出を務めるのは、2022年に上演された『加担者』と、安部公房作の『幽霊はここにいる』の演出で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞するなど、今最も注目を集める演出家・稲葉賀恵。若者が熱をもって物事に向き合うことが難しい時代と言われる現代。狂気の中にも不思議と人を引き付ける力強い魅力を持つこの戯曲を、現代の演出家が手掛けることにより、人は本来何を求めているのか、この戯曲の熱の正体は何なのか問いかける。
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さらに今回、主人公を取り巻く人々を演じる全キャストが決定した。娼婦で家族ごっこでは“長女”を演じる若い女・愛子に岡本玲。愛子の客で“次男”を演じる若い男・敬二に、本作がストレートプレイ初出演となる酒井大成。隠された秘密を暴くきっかけになる敬二の婚約者・めぐみに橘花梨。娼家の女主人で“母”を演じるはなに伊勢志摩。大学教授と名乗り“父”を演じる初老の男・善一郎に堀部圭亮。若手からベテランまで確かな実力を持つ俳優陣が集結する。
舞台『狂人なおもて往生をとぐ〜昔、僕達は愛した〜』は、東京・IMM THEATERにて10月11日〜18日上演。
※キャストのコメント全文は以下の通り。
<コメント全文>
■木村達成
自分と向き合う素晴らしいチャンスをいただきました。今回は自分が何度ぶっ壊れるか、楽しみです(笑)。みなさまに楽しんで頂けるように頑張りますので、ぜひ観にきてください!
■岡本玲
久々に日本の戯曲に取り組みます。それも、清水邦夫の作品を稲葉賀恵さんの演出だなんて。わくわくが止まりません! 狂気をはらんだ言葉たちが、妖しくきらきらと手招きをしてくる。戯曲を読んでいると、現実に戻れなくなりそう…。いや、ぜひその深淵をのぞいてみたい。
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■酒井大成
清水邦夫さんの歴史ある戯曲で、敬二を演じさせていただける事をとても嬉しく思います。台本を読ませていただく中で、単純な家族の話ではないと思いました。登場人物それぞれが必死に何かを求めてもがき、苦しんでいます。今の時代でも共感できる部分があると思うので、ぜひ足をお運びいただけたら嬉しいです。
素敵な時間をお届けできるよう、真摯に役と向き合っていければと思います。
■橘花梨
読めば読むほど、狂わしく美しい戯曲に心を奪われ、登場人物たちの底知れぬ狂気に圧倒されております。ですが、その狂気に臆することなく、共鳴し身体に秘め、抜かりなく「めぐみ」を愛し理解を深めたいです。
演出の稲葉さんをはじめ、素敵な座組のみなさまとのお稽古の日々が、今から待ち遠しくてたまりません。精いっぱいがんばります。
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1969年、この戯曲が書かれた年に私も生まれました。近年、時代が猛スピードで変化していますが、不安に思うことも常です。常識が非常識に、また逆も然り。この作品を演ることで、時代を超えた普遍が世の中には有るのだ、ということを実感したいです。
■堀部圭亮
稲葉さんの演出には、いつもハッとさせられます。思いがけぬ角度から光を照らされる如く、こちらの想像を超えてきます。我々は虚構の世界を演じますが、そこには必ず「真理」があります。この「疑似家族」を通じて、どんな真理に辿り着けるのか? そこに、どんな景色が広がっているのか? 稲葉さんに導かれながら、『狂人の旅』を楽しみたいと思います。