
【動画】13歳の時に負ったトラウマが呼び覚まされる――映画『MELT メルト』日本版予告
映画には観る者に勇気や希望を与える作品がある一方、それとはまったく逆のネガティブな吸引力をみなぎらせ、おぞましい結末へと突き進む異端的な作品もある。俗に“胸糞映画”とも呼ばれるそれらの映画は近年、絶望的なバッドエンディングに打ちのめされた観客が、SNSにその衝撃体験を投稿し、密かな盛り上がりを見せるという現象が起こっている。
『オーバー・ザ・ブルースカイ』(2012)で演技を高く評価され、女優として20年以上のキャリアを持つベルギーのフィーラ・バーテンス監督が放った長編デビュー作『MELT メルト』は、まさしくその系譜に連なる新たなトラウマ映画。エヴァという主人公の13歳の少女を軸に、大人になったエヴァが忌まわしい過去を回想する形で物語が展開していく。
ブリュッセルでカメラマン助手の仕事をしているエヴァは、恋人も親しい友人もなく、両親とは長らく絶縁している孤独な女性。そんなエヴァのもとに⼀通のメッセージが届く。エヴァの少女時代に不慮の死を遂げた少年ヤンの追悼イベントが催されるというのだ。そのメッセージによって13歳の時に負ったトラウマを呼び覚まされたエヴァは、謎めいた大きな氷の塊を車に積み、故郷の田舎の村へと向かう。それは自らを苦しめてきた過去と対峙し、すべてを終わらせるための復讐計画の始まりだった…。
ひとりの少女の日常を容赦なく破壊し、ほぼ永遠に人生を狂わせてしまうトラウマとは、いかなる惨劇によってもたらされたのか。上質なミステリー映画のように巧みな構成で真実を明かしていく本作は、2023年のサンダンス映画祭で最優秀演技賞(ワールド・シネマ・ドラマティック部門)に輝き、ベルギーのアカデミー賞に当たるマグリット賞で最優秀フランドル映画賞を受賞するなど絶賛を博し、世界の映画祭を席巻。海外メディアからは「映画史に残る後味最悪<胸糞>の傑作」(Overseas Critics)、「まるで、ラース・フォン・トリアー×ミヒャエル・ハネケ×ヨルゴス・ランティモス!」(Edge Media Network)などと評されている。
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製作には『トリとロキタ』『CLOSE/クロース』のプロデューサーが名を連ね、新人監督のリスクを恐れぬプロジェクトをバックアップした。バーテンス監督は、不安定に揺らめくカメラワークを多用し、閉塞感が渦巻く映像世界を構築。トラウマを専門分野とする心理学者の協力を得て、人間の心の痛みや孤独という普遍的なテーマを探求した。観客に覚悟を求める救いようのない話でありながら、どこか共感をも誘うリアルなキャラクター描写が、いっそう不穏な胸騒ぎを呼び起こす。
近年のベルギー映画界では『CLOSE/クロース』のルーカス・ドンなど、新世代のフィルムメーカーが脚光を浴びているが、バーテンス監督もその流れをくむ新たな才能と言える。無邪気さと背中合わせの子どもの残酷さを生々しくあぶり出す過去のパートと、大人のエヴァが一心不乱に恐ろしい計画を進めていく現在のパート。両パートが共振し濃密な緊迫感を高めていく、儚くも美しいリベンジ・スリラーが誕生した。
日本版予告編は、エヴァが自転車に乗って無邪気な笑顔を見せるシーンから始まる。それから雰囲気は一転、「13歳の夏休みに起きた――人生を変えた出来事」といった不穏なワード、「女の子が必要だ」「シラケさせるなよ」といったエヴァと幼なじみが交わす意味深なセリフも飛び交い、ただならぬ空気が漂うなか過去と現在が交錯していく。当時、エヴァと幼なじみとの間で行われていた「ゲーム」とは何なのか。終盤では現在のエヴァが、大人になった彼らと再会を果たす様子も。果たしてどのような展開が待っているのか、緊迫感とともに引き込まれていく予告編となっている。
本ビジュアルは、涙を流す13歳のエヴァを大きく写し出したもの。何かに怯えたような目、不安と恐怖が入り混じった表情と併せて「溶けるまえに思い出して。」という意味深なキャッチコピーが添えられている。いったい何が溶けるのか?儚くも美しい、<復讐劇>とは?謎めいた不気味さが漂うビジュアルに仕上がった。
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また今回、作品をいち早く鑑賞した著名人からのコメントも到着。映画監督の内藤瑛亮は「理不尽過ぎる。でも現実だ。覚悟して観て欲しい」と、本作の衝撃の深さを強調。タレントのYOUは「あの頃ってとにかく眩しかったみたいに言うけれど、その眩しい光の影といったら、漆黒で残酷で怖かったんだ」と、エヴァの心情に焦点をあてたコメントを寄せた。
映画『MELT メルト』は、7月25日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開。
著名人コメント全文は以下の通り。
■YOU(タレント)
あの頃ってとにかく眩しかったみたいに言うけれど、その眩しい光の影といったら、漆黒で残酷で怖かったんだ。
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13歳の少女の心が破壊される。壊した者には居場所があるのに、壊された者は居場所もない。理不尽過ぎる。でも現実だ。覚悟して観て欲しい。悪い予感はすべて当たる。
■枝優花(映画監督・脚本・写真家)
子供たちのなかで繰り広げられる、大人には見えない地獄がジワジワと続く時間。そしてそれを例え心の奥底に葬ったとしても、水面下で時間をかけ、その人間の心も生活も蝕み溶かしていく様をこちらに刻みつけるような痛みがあった。これを反面教師、のような簡単な言葉では片付けられない。
■氏家譲寿/ナマニク(文筆業・映画評論家)
心の瘕は化膿する。癒えることはなく、膿を垂れ流しながら、瘴気を放ち続ける日々。壊死していく心の先にある、冷たい終幕。足元に感じた冷たさに、思わず指先がこわばった。
■ゆいちむ(映画好きOL)
思春期に刻まれた毒は、記憶の雪解けとともに現実を侵食する。これは復讐譚なのだろうか。むせかえるほどの孤独と絶望が、それすらも曖昧にしてしまう。