三谷幸喜、田中圭は「すごい人」 12年ぶり人気シリーズ新作に「日本で最もふさわしい」と語る所以

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2025年06月28日 10:40  クランクイン!

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三谷幸喜  クランクイン! 写真:松林満美
 脚本家で演出家の三谷幸喜による、“完全ワンシーンワンカットドラマ”の新作『おい、太宰』(WOWOW)が放送、配信される。舞台、映画、ドラマと活躍を続ける三谷が、脚本と監督を務める同シリーズは、第1弾『short cut』が中井貴一、鈴木京香の主演により、第2弾『大空港2013』が竹内結子主演により放送され、人気を集めてきた。待望の第3弾『おい、太宰』は、太宰治をこよなく愛する平凡な男(田中圭)が歴史を変える(?)ノンストップ・タイムスリップコメディとなった。「ワンシーンワンカットの長回しドラマに、日本でもっともふさわしい俳優が田中圭」と言う三谷に話を聞いた。

【写真】キャリア重ねても“根っこ”揺るがず 貫禄たっぷりな三谷幸喜(7枚)

■舞台での田中圭の姿に「すごい人だな」と思っていた

――告知動画で「田中さんのためにこの役を書いたと言ってもいいくらい」とおっしゃっていました。

三谷:田中さんにお願いしたのは、ワンシーンワンカットの長回しドラマに、日本でもっともふさわしい俳優が田中圭ではないかと以前から思っていたからなんです。というのも2018年の舞台『江戸は燃えているか』で、僕が急遽代役を務めなければならないときがあって、そのとき、舞台上で右往左往している僕を田中さんがうまく誘導してくれたり、セリフが分からなくなったら見事にリードしてくださって、「すごい人だな」と思っていたんです。このドラマシリーズは、何が起こるか分からない。たとえどんなことが起こったとしても臨機応変に最後までできる俳優さんはそう多いものではない。そう感じるなか、田中さんに是非やっていただきたいと、ずっと思っていました。

――田中さんも本シリーズのファンで、もともと手を挙げていたとか。

三谷:プライベートで顔を会わせることがあって、会うたびに「ワンシーン、ワンカットやらないんですか? 俺、向いていると思うんです。やってみたい」とお話していて、「じゃあ、次にやるときはぜひ」と話していました。それで今回の企画が進み始めたとき、「まだどんな内容かもわからないんだけど、とにかく田中さんを押さえてほしい」と頼みました。

■シリーズ3作目の舞台は海 “言い出しっぺさん”の苦労も

――山、空(空港)と来て、今回は海が舞台。しかもタイムスリップものです。太宰治を愛する男(田中)が、妻(宮澤エマ)と迷い込んだ海辺で、暗い洞窟を抜けた先に太宰(松山ケンイチ)と恋人のトミ子(小池栄子)に遭遇します。この物語はどこから?

三谷:カメラマンの山本英夫さんとずっと一緒にやっているのですが、彼が「3本目は海がいいんじゃないですか。タイムスリップもので」とおっしゃったんです。だけどタイムスリップものって大変じゃないですか。そう言ったら、「海だったら現代でも過去でも大して風景が変わらない。海岸沿いだったらイケるよ」と。確かにそれはちょっと面白いなと思って、現代の浜辺と過去の浜辺があって、間にトンネルがある、そんな場所あるかなと調べていきました。

――タイムスリップものだけれど、景色が変わらない場所をと。逆の発想だったんですね。

三谷:それでいろいろ調べてもらって、南伊豆でベストのところを見つけました。写真を撮って、図面を引いてもらい、それを見ながら、話の展開を考えていきました。過去に戻るのであれば歴史上の人物がそこにいるだろう、海岸で歴史上の人物といったら、「太宰治か宮本武蔵しかいない」と。それで太宰になったんです。

――実際に海での撮影となると、大変だったのでは。

三谷:役者さんももちろんですが、カメラの山本さんが一番大変だったと思いますよ。一見分からないと思いますけど、山本さん、一度海の中に入ってるんです。海から撮っている箇所があって。足場が悪いので、一度カメラを落としてNGになったこともありました。『大空港2013』の大変さが高尾山だとしたら、今回はアルプス山脈くらい大変だとおっしゃっていたので、本当に大変だったのだと思います。プライベートの時間も使って、どう動けばいいか全部研究したそうですよ。でも言い出しっぺですから(笑)。

■“津軽弁の太宰”になった理由は松山ケンイチ

――松山さんの演じる太宰も、これまで見たことのない太宰で、非常に魅力的でした。しかも田中さんと松山さんは本格的には初共演だったんですね。意外です。

三谷:小池さんと梶原善、宮澤エマさんに関しては、何度も仕事を一緒にやって信頼している人たちなので、この人たちがいれば何が起こっても平気だという安心感がありました。でも太宰に関しては、何よりも独特な存在感が欲しいと思いました。今までいろんな映像作品に太宰が登場しましたが、みんなちょっとカッコつけてて、いけ好かないんです。

――(苦笑)。

三谷:だけど実際の太宰の若い頃の写真なんかを見ると、変顔で写っていて、ふざけて芥川龍之介の真似をしている写真とかもある。このお茶目な感じと、作品から感じられるような、どこか人間としての悲しみもある。そうしたいろんな面を持った太宰で、かつどこか太宰に似ていて欲しいと思ったとき、松山さんが浮かびました。

――本作の太宰は津軽弁です。

三谷:松山さんが「僕は津軽弁でいきたい」とおっしゃったんです。もともと松山さんは太宰のことがすごく好きで、しかも同県人。それで、もともと標準語で書かれていた台本のセリフを、ネイティブすぎない、程よい加減の津軽弁に、松山さんが直してくださいました。

■“シリーズ皆勤賞”梶原善、実は超忙しい役「老人にやらせることじゃない」

――本シリーズ3作のすべてに出演している梶原善さんは、今回、なんと1人3役。衣装を変えながら、現代パートにも過去パートにも登場し、大活躍です。

三谷:梶原善は、その大変さが画には映っていないのですが、相当大変だったんです。本編の現代の浜辺から過去の浜辺って、田中圭さん演じる主人公が通ってタイムスリップするトンネルしか、移動手段が実際にないんです。

――物語上、過去と現代をかなり行き来しますが、外から回り込めないのですか?

三谷:回れないんです。それだととても時間がかかって間に合わない。だから梶原善は、田中さんを撮影しているカメラマンのうしろにくっつきながら、一緒にトンネルを移動して、映っていないところでバーッと衣装を着替えて登場しています。昔の生放送のドラマみたいな感じです。

――そうなんですね! 先回りして着替えて待機しているのかと。それでももちろん大変ですが、一緒に移動して、すぐそばで着替えていたとは。ということは、田中さんは梶原さんの早着替えを横目に、芝居を続けていたと。

三谷:そうなんです。前回から10年以上経っているので、梶原本人も「老人にやらせることじゃない」と言ってました。田中さんも梶原善もすごいですよ。僕はワンシーンワンカットの一番の魅力とは、やっぱり俳優さんだと思うんです。今回も田中さんが疲れた芝居をしているのではなく、ぜひ本気で疲れている田中さんを見ていただきたい。これはドキュメンタリーです。

■「何を面白いと思うか」根っこの部分は変わらないし、揺るがない

――ワンシーンワンカットシリーズが12年ぶり、東京サンシャインボーイズは“30年の充電”期間を経て復活公演(『蒙古が襲来』)をしたばかりです。大きな復活劇が続いていますが、また大きな、久々の挑戦はありそうですか?

三谷:今年の夏にやる文楽(『人形ぎらい』)も13年ぶりです。ただ、このタイミングでこれを、という狙いは特になくて、たまたまというか、上がってきた企画を順番にやっている感じです。サンシャインボーイズの30年も、僕としては最初、そんなにすごい熱量だったわけではなかったんですが、当時やっていたものをまたやるのも面白くないし、それで新作をやることにしたんです。

――年齢やキャリアを重ねてきたことによる変化を感じることはありますか?

三谷:30代で書いていたようなコメディは、体力的なことだってあるし、やっぱり書けないと思います。単純に、徹夜仕事をしたら疲れる。今できるものの中で、一番面白いものを作るという方向に変わろうとしている感覚はあります。ただ、自分が「何を面白いと思うか」という根っこの部分は変わらないし、揺るぎません。自分が面白いと思っているものが、世間と乖離(かいり)したらと想像すると怖いですけど、今はまだそうではない気がします。でも、実は最近悩ましいこともあるんです。

――というと。

三谷:たとえば僕は昔からビリー・ワイルダーが大好きで『お熱いのがお好き』(1959)も何度も観ています。だけど、あの作品が現在に成立するのかというと、ちょっと難しくなってきている。マリリン・モンローの存在自体が、今の時代には難しい。ものすごく悲しいです。それとはまた違う意味で、シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(1957)も、あれを今の若い世代に推薦して観てもらうと、「何が面白いのかわからない。ただみんなが議論し合っているだけだ」と、そこに面白さを見いだせなかった人たちが出てきていて、それも寂しいです。

――しかし三谷さんの根っこに揺るぎはないと。エネルギーの源になるものはなんでしょうか。

三谷:俳優さんです。僕は俳優さんが好きですし、俳優さんの良さ、僕が知っている面白さをみんなに伝えたい。それが出発点です。新しい面白い俳優さんに出会ったら、その人と何かやってみたいと思うし、そこで「この人ってこんな面白いところがあるんだ」と発見したら、それをまた生かして次の作品を作ってみたくなる。その思いが僕を先へと進めてくれています。

(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)

 『ドラマW 三谷幸喜「おい、太宰」』はWOWOWにて6月29日22時放送・配信。

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