
Text by 今川彩香
Text by Desital Natives
2021年からバンド活動を一時休止していたSuchmosが6月21日と22日、5年8か月ぶりとなるワンマンライブ『The Blow Your Mind 2025』を開いた。2日間で約20万の応募が届きプラチナチケットとなったという、「復活」の横浜アリーナ公演。「修行の時期を迎えるため」とコメントし休止期間に入った彼らは、それぞれに音楽活動を続けていたが、この夜に「新生Suchmos」としての姿を見せたのだ。
今回は追加公演である2日目を、ライターの黒田隆憲がレポート。黒田は「『修行』の時期を経て個々に進化した彼らが『個』のまま再び連帯したからこそ、目の前の新生Suchmosはこれほどまでに不揃いで力強く、そして美しいのだろう」と評する。アンコールでは、バンドの中心メンバーだったHSU(Ba)の逝去について語った場面もあったという。MCの言葉も交えながら、あの夜のことを描き出したい。
「みんなで一つに、なりません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください、よろしく!」
Suchmosが、じつに5年8か月ぶりとなるワンマンライブ『The Blow Your Mind 2025』を6月21日と22日、彼らの地元である神奈川・横浜アリーナにて開催した。
この2日間の公演に対し、およそ20万人の応募が届いた事実からも、彼らの復活を待ち焦がれていた人がどれだけいたか想像に難くない。5年8か月といえば、たとえば中学生が「成人」になってもおかしくないほどの歳月だ。ライブの途中、MCでYONCEが「そのあいだにSuchmosを知ってくれた人もいると思うし、この5年間ずっと待っててくれた人もいる」と話していたように、駆けつけた1万2千人を超えるオーディエンスの年齢層は、じつに幅広かった。
彼らがこうして熱狂的な歓迎を受け復活を遂げられたのは、もちろんその輝かしい楽曲の数々がいまなお色褪せず、人々に聴き継がれてきたことにあるのは言うまでもない。さらにいえば、2021年2月に「修行の時期を迎えるため」とコメントを残し、バンド活動を一時休止して以降も彼らがその「歩み」を決して止めなかったことも大きいだろう。
|
|
そして今回、Suchmos復活の一役を担ったのが、サポートベーシストとして参加した山本連(Ba)の存在だ。
HSUと同じ洗足学園音楽大学のジャズ科に通い、メンバーの何人かとは10代の頃から知り合いだった山本(SLOWBASEにも参加している)が、ごく自然に、YONCEいわく「当たり前のように」ラインナップに加わったことで、この「復活の日」を迎えることができたと言っても過言ではないだろう。
筆者が観たのは、追加公演となる22日。暗転したステージに後光が差し込み、大きく手を振りながら登場した6人のシルエットが浮かび上がると、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がった。1曲目に演奏したのは“Pacific”。HSUがYONCEをボーカリストとして口説き落とす際に聴かせた楽曲“Miree”のカップリングとして、2015年6月にリリースされた初期曲だ。TAIHEIのメロウなエレピ(エレクトリックピアノ)に導かれ、まるで大海にゆっくりと船を漕ぎ出すような厳かな幕開けを、満員のオーディエンスが固唾を呑んで見守っている。
続く“Eye to Eye”は、7月2日にリリース予定のEP『Sunburst』に収録される新曲。ここでステージ脇の巨大なLEDモニターにメンバーの姿が初めて投影され、続いてバックスクリーンにSuchmosの巨大なロゴが浮かび上がると、会場のボルテージも一気に上がる。
|
|
「横浜アリーナにお集まりの皆さん。初めまして、お久しぶりです。いろんな方がいらっしゃるでしょう。梅雨を吹っ飛ばして初夏と言って良いようなこの季節。外が気持ち良くなっているこんな時間に、こんな暗い場所に集まって……変わってますね、あなたたちは。ありがとう」。そうユーモアたっぷりに挨拶したYONCE。
「俺ら勝手に楽しむから、あなた方も勝手にやってください。ここから見てます」
そう宣言した通り“PINKVIBES”では、独特のステップを踏みながら抑揚たっぷりのメロディを歌い上げる。さらに“Burn”“Alright”とヘヴィなファンクチューンを畳みかけ、ソロ活動を経てさらにパワーアップしたアンサンブルを「これでもか」と言わんばかりに見せつけた。
「俗にいうバンドスタイルですね、これは。一人ひとりはただのロクデナシ。でも、ひとたび集まるとなんだかすごい……かもしれない。そうじゃないかもしれない。あなたはいまどう思っていますか? 楽しいですか? 楽しいフリをしていますか?」と、バンドとしての矜持を表明しつつ、オーディエンス一人ひとりに問いかけるYONCE。そして飛び出したのが、本稿の冒頭で紹介した言葉だ。
「みんなで一つに、なりません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください。よろしく」
「修行」の時期を経て個々に進化した彼らが「個」のまま再び連帯したからこそ、目の前の新生Suchmosはこれほどまでに不揃いで力強く、そして美しいのだろう。
|
|
アコギをかき鳴らしながら〈結婚しよう〉と歌う“Marry”は、ジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass」を彷彿とさせる、フォーキーかつ雄大なSuchmosの新境地ともいえる新曲。さらに、メンバー全員でシャウトしてから始まる“To You”を経て、暗黒大陸じゃがたら“でも・デモ・DEMO”の歌詞〈思いつくままに動きつづけろ/思いつくままに踊りつづけろ/思いつくままにしゃべりつづけろ〉を引用し、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの“Sing a Simple Song”をサンプルネタに持ってきた“Latin”と、ライブ後半では『Sunburst』収録の予定もない新曲たちを次々と披露。“Latin”に至っては、曲の途中で照明をすべて落とし、まるで修学旅行の夜のようにメンバー同士でダラダラと(!)ダベる一幕も。
その後は“GAGA”“VOLT-AGE”と馴染みの曲を続け、「ファンク」というより「人力EDM」とでも言いたくなるような鉄壁のアンサンブルを見せつけ“YMM”で本編を締め括った。
アンコールでYONCEは、「あんまり重たい話にしたくないんだけど……」と前置きしつつHSUについて語り出す。「彼が死んだんだよね、4年前。あっという間の月日でした。本当にビビるよね。自分でもびっくりしています。とにかく、失ったものは帰ってこないということを、この4年間で嫌というほど理解しました。と同時に、実感がなかったりもするし、時々変な気持ちになるんだけど」と胸の内を明かした。
そして、「Suchmosとして、一つ区切りをつけたくて。昨日もみんなにお願いしたんだけど、今日もよかったら一緒に深呼吸しませんか、目でも瞑って」。そう言っておよそ20秒、1万2千人の観客とともに深呼吸した。
「来週は彼の誕生日です。彼には2人の息子がいる。彼らのおもちゃ代を稼ぐのが俺たちの仕事かなと思ってます。昨日は、そんなつるっぱげのクソバカな友達に捧げる曲(“Stand By Mirror”)をやったんですけど、今日は新しい命に捧げる曲をやろうと思います」そういって新曲“Boy”を披露。演奏の前にOKが、「俺に隼太(HSU)がくれた最後の言葉は、『1番好きだぞ』でした」と明かしてくれたのも深く心に響いた。
「なんせ5年半ぶりのライブで、その間にSuchmosを知ってくれた人もいると思うし、この5年間ずっと待っててくれた人もいると思う。そのどちらにも感謝の気持ちを伝えたくて、昨日と今日ここでライブをやりました」と、あらためて感謝の意を述べるYONCE。「あなたたちは、それぞれの仕事に都合をつけ、経済的な事情に都合をつけ、この薄暗い場所にわざわざ集まった『変な人たち』です。その自覚はありますか? そして私たちは、そんな『変』なあなたたちの前で、大汗をかきながら、やや酸欠になりながら必死こいて楽器を演奏したり、歌ったりしている『変な人たち』です。変な人同士、仲良くしよう。じゃあ、あばよ!」
そう言って“Life Easy”を演奏。ゆったりとしたジャジーな後奏に合わせ、YONCEがアドリブで〈出会いたい人/もう会えない人/全部、全部、俺だけのもの/あなただけのもの/誰かの幸せのために/生きているわけじゃない〉と歌い上げ、ゆっくりとこの日の公演に幕を下ろした。
たしかなルーツに裏打ちされたその圧倒的な演奏力と、カリスマ的な魅力を放つボーカルによってメインストリームの最前線にいることを宿命づけられながら、それでもオルタナティブであろうとする、そんな彼らの姿勢は5年8か月という「空白」と、HSUの逝去という埋めることのできない「喪失」を経てなお変わらない。そのことを、まざまざと思い知らされた一夜だった。