フジテレビ系ドラマ『波うららかにめおと日和』公式サイトより4月期に放送されたドラマがほぼ最終回を迎えました。この春クールもすべてのドラマをチェックしたアラフォー筆者が、特に心に沁みた3作品をご紹介します。
※以下、各ドラマの一部ネタバレを含みます。
◆しあわせは食べて寝て待て
『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合ほか)は、まさにこの春の癒しドラマでした。
38歳で独身の主人公・麦巻さとこ(桜井ユキ)は、「一生つきあわなくてはならない」病気(膠原病)にかかったことから生活が一変。正社員の仕事を辞め、週4日のパート勤務へ。築45年・家賃5万円の団地に引っ越し、大家・鈴(加賀まりこ)と、薬膳に詳しい司(宮沢氷魚)と出会います。
◆まさに薬膳のように心を満たしてくれた
心身を労わる薬膳料理と周囲の人々との交流を中心に、さとこの静かな日常が描かれました。名医に出会って病気が完治するようなことも、宝くじが当たってお金の不安がなくなることも、団地が抱える問題があっという間に解決することもありません。
人生が劇的に好転することなどない現実の厳しさが、とてもリアルに描かれていました。それでも“いまの自分”と向き合い、宿命を受け入れる。悩みながらも自分を、大切な人を、優しく労わり寄り添うことで、少しずつ不安が和らいでゆく。
そんな主人公の生き方に、ホッと癒された視聴者も多いのではないでしょうか。頑張り過ぎてしまったとき、疲弊したとき、傷ついたとき、何度でも観返したくなる温かな物語でした。
◆続・続・最後から二番目の恋
観ながら何度も涙したのは、人気シリーズの第3期となる『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)。
鎌倉を舞台に、テレビ局プロデューサー・吉野千明(小泉今日子)と鎌倉市役所で働く公務員・長倉和平(中井貴一)、そして長倉家の面々を中心とした——こちらも『しあわせは〜』同様に、すべてが好転するわけではないリアルな日常が描かれていました。
◆すべての“さみしい大人”たちへの処方箋
それぞれに魅力的な登場人物たちの誰もが、自分の人生を好転させようとしているのに、なかなか思うようにはいきません。年齢をどれだけ重ねても「不器用でカッコ悪い」「社会に必要とされていないと感じる」「どうしようもない不安に襲われる」。そんな厳しい現実が、今回も余すところなく描かれていました。
人生はままならないけれど、それでも自分が自分らしく生きようとする登場人物たちの姿には、何度も涙を誘われます。脚本家・岡田惠和の台詞がやたらと沁みるのです。千明と和平を中心とした会話劇には、自分の生き方を肯定してくれる温かな言葉が散りばめられているからでしょう。
第1期から一貫して千明のナレーションに登場する「さみしくない大人なんていない」というフレーズ。第3期となった本作も“さみしい大人”たちへの応援歌でもあり、処方箋でもありました。歳を重ねることが不安になったら、きっとまたこの作品のお世話になる。千明と和平、長倉家のみんなにまた会いたいです。
◆波うららかに、めおと日和
そして筆者がこの春、毎週の放送が待ち遠しかったNo.1が『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)。
昭和初期を舞台に、交際0日婚からスタートした新婚夫婦の甘酸っぱい心の交流を丁寧に描いた作品です。おっとりして可愛らしい主人公・なつ美(芳根京子)と、帝国海軍の中尉で真面目ながらも不器用な瀧昌(本田響矢)のカップルがとにかく愛らしい。ずっと観ていたくなるふたりでした。
◆心を通わせる幸せに溢れた夫婦の尊さ
不器用だけどピュアで素直なところがチャーミングな瀧昌となつ美の夫婦。一方で、ふたりとは正反対の深見(小関裕太)と芙美子(山本舞香)のカップルからも目が離せませんでした。互いに牽制し合っていた関係から、徐々に恋に落ちていく展開は、王道ながらもキュンキュンさせられます。
些細な日常の出来事を通じて抱く不安や相手への想いが一つひとつ丁寧に描写されているからこそ、誰もが彼らに感情移入してしまうのです。ただただ目の前にいる相手のことを想い、向き合い、言葉を重ね、絆を紡いでいく。
コスパもタイパも重視されない時代設定だったからこそ、改めて気づかされる人と人とが心を通わせることの大切さが沁みる尊いラブストーリーでした。原作(西香はち氏による同名漫画)は続いているので、シーズン2を期待したいところです。
◆ベスト3には入らずも、魅力的な作品たち
他にも、現代人の抱えるモヤモヤを丁寧に言語化することで多くの共感を呼んだ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』。内野聖陽が演じた時代錯誤な熱血漢の教官が印象的だった『PJ 〜航空救難団〜』や、真犯人の考察が盛り上がった『恋は闇』などなど。さまざまな視点で楽しめる作品が揃った春クール。皆さんのお気に入りの作品は何でしたか?
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201