バスケ男子日本代表 ホーバスHCが磨きをかける「速い展開」と若手中心の招集の意図

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2025年07月04日 18:10  webスポルティーバ

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前編:バスケ男子日本代表、2028年ロス五輪への船出

トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)の下、再び動き始めたバスケットボール男子日本代表。今年はパリ五輪以来の国際大会となる8月のアジアカップがひとつの目標となるが、2028年ロサンゼルス五輪に向かう過程においての重要な一歩となる。

代表合宿ではこれまでの常連選手の多くが不参加だったこともあり、アメリカの大学に在学中の選手も含め、高さを備えた能力のある若手が多く顔をそろえた。

果たして新生ホーバスジャパンはどんなケミストリーを醸成していくのか。

7月5、6日、有明アリーナで行なわれるオランダ戦に注目だ。

【代表合宿リスト18名中11名が若手主体の合宿からの招集】

 男子日本代表チームの将来への期待感を風船にたとえるならば、それはどんどんと大きさを増していきそうな予感がある。

 期待感とは、新たに入ってくる才能あふれる若い選手たちの数に比例すると言っていいかもしれない。

 同代表は8月、昨夏のパリ五輪以来の国際大会となるアジアカップ(サウジアラビア・ジッダ開催)を迎える。2027年のワールドカップ(カタール開催)、その翌年のロサンゼルス五輪での躍進を目指して始動をしているチームにとって、土台をつくっていく大会になると言ってもいいだろう。

 パリ五輪での日本は全敗を喫し、まだ世界との差が確実にあることを感じさせられた一方で、強豪・フランスを倒しかけるなど希望も示した。今後はこの差を縮めながら、差し込む希望の光をより強くしていく作業となっていく。

 強化においてもっとも肝要なことのひとつが、選手層を拡充させることだ。パリでは善戦もあったとはいえ八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)、渡邊雄太(千葉ジェッツ)、河村勇輝(昨シーズンはメンフィス・グリズリーズ2ウェイ契約)、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)といった主力に出場時間が偏った。このままでは試合感覚も短い世界大会で勝ち抜いていくことは難しくなる。

 アジアカップのあるこの夏は、「新顔」を求めていくことになる模様だ。6月下旬にはアジアカップへ向けての強化試合となる東京・有明アリーナでの対オランダ戦(7月5、6日)へ臨む第1次合宿の18名のメンバーが明かされた。多くが2023年ワールドカップ、パリ五輪を、またその選考段階をほとんど経験していない選手だ。また、11名が同月半ばに行なわれた若手主体の「ディベロップメントキャンプ」から残った者たちである。

 18名の名簿を見ると、隔世の感を覚える。バイレイシャル(両親の人種がそれぞれ異なること)である選手が幾人もいる。また、アメリカの大学でプレーをする者が5名もいる。当然、飛び交う言葉は日本語と英語である。アメリカでプレーをする選手たちは、秋からのシーズンのために再び日本を離れねばならず、トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)の敷くバスケットボールの習得ができるのは、夏の間に限られる。

 アジアカップには渡邊(昨シーズン故障が多かったことから身体づくりに専念する判断を下した)、比江島慎(宇都宮ブレックス/昨秋、代表からの勇退を示唆もこの夏発表の代表候補者名簿には名を連ねている)といった古参選手らは出場しない方向のようだ。ちなみに、河村や富永啓生(レバンガ北海道)、馬場雄大(長崎ヴェルカ、今合宿には途中まで参加していた)が7月中旬に行なわれるNBAサマーリーグ後に代表に加わる可能性をホーバスHCは排除していない。

「2月と11月のFIBAウインドウ(国際試合開催時期)には大学生だから来られない。だから今しかないんです」

 ディベロップメントキャンプの際、アメリカでプレーする者たちについてこう述べたホーバスHC。アジアカップにはそのメンバーのなかからどれほど連れて行くかを問われると「アメリカから来ている選手たちがこの合宿だけではもったいないし、経験させたほうがいい」としていた。少なからずこのなかのメンバーからサウジアラビアへ渡航することになりそうだ。

【パリ五輪で証明されたホーバスHCスタイルの強みと課題】

 第1次合宿の選手の平均身長は196.9cmとなっている。パリ五輪でのそれが193.7cmだっただけにかなりの違いだ。ビッグマンには、ホーキンソン(208cm)、狩野富成(SR渋谷、206cm)、 山ノ内勇登(オーラル・ロバーツ大、210cm)、渡邉伶音(東海大、206cm)と206cm以上の選手が居並び、ガード陣も最も身長が低いのが ジャン・ローレンス・ハーパー・ジュニア(SR渋谷、181cm)で、全体的に大きい。

 身長196cmながらアウトサイドからのプレーを主とするベテランの馬場は、「今まで代表の練習で同じようなポジションでがっつり自分よりサイズがあって、身体能力が高い選手はそこまでいなかった」と時の流れを感じている様子だった。

 代表常連の選手がいないという理由があるにせよ、注目の選手は少なくない。パリ五輪に最年少として出場したジェイコブス晶(フォーダム大)はたくましさを増し、若手のリーダー格となっている。川島悠翔(シアトル大)や渡邉も、やはり昨年と比べて体躯も自信も大きくした印象だ。

 今後の代表の強化において比江島の後のSG(シューティングガード)を誰が担うかは課題のひとつとなっているが、それについて問われた際のホーバスHCはPG(ポイントガード)登録の湧川颯斗(三遠ネオフェニックス)の名前を即座に挙げた。

「湧川は面白い。身長は194cm。PGのメンタリティだけどシュートもきれいです。この合宿で、彼に言いました。もっとアグレッシブにシュートをしていいですよ、と。PGとしてはやれていますが、コンボガードになってもっと彼の3Pシュートが見たいです。すごく頑張っていますよ」

 福岡大学附属大濠高校を卒業後、大学へ行かずにBリーグ入りしプロの世界で揉まれてきた21歳の湧川自身も、ホーバスHCから中へドリブルで切り込める選手を求めていると聞かされ、「比江島さんのポジションが薄い」とSGとしての意識を高めるようになったという。

 公開練習の際には馬場、西田優大(シーホース三河)、テーブス流河(ボストンカレッジ)らが佐々宜央アシスタントコーチの指導の下、スクリーナーを使いつつ、いかにシュート機会を創出するかの練習に取り組む場面があった。今回、合宿に名を連ねるメンバーに比江島や河村のような個で得点機をつくり出せる者は、総じて多くない印象だ。

 サイズのなさをチーム力で補うことを基本理念としているとはいえ、個の力で打開できる者もなくてはならない。アジアカップに限らず今後、そうした力量の持ち主を探していくことはかなり重要になるだろう。

 ホーバスHCの敷く日本代表のスタイルに大きな変更はないものの、細かい課題の修正の積み重ねが肝要だ。攻守の切り替えを速く行なうトランジションは、サイズで不利な日本にとって生命線となる。

 7月1日、日本バスケットボール協会より公開された2024年度日本代表チームの報告書『テクニカルノート』によると、日本のパリオリンピックでの全攻撃に対するファストブレーク(速攻)の割合は大会4位の16.8%と上位で、ホーバスHCも『(2023年の)ワールドカップも(パリ)オリンピックもすごくよかった』と強調してきた速い展開のゲームに対しての手応えを語っている。

 ただし得点を効率よく挙げるという点では、改善の余地がある。テクニカルノートでは、ファストブレークにおけるPPP(ポインツ・パー・ポゼッション/攻撃1回あたりの平均得点)では1.022(同9位)と効率よく点を挙げられているとは言い難い数字が紹介されている。

「これからもっとファストブレークを出していきたいです。そういう練習を今、やっています」

 ホ―バスHCはこのように話した。

 しかし、手駒によって見せるバスケットボールの中身は少なからず変わるということもできよう。

 アジアカップのあるこの夏は、日本代表を底上げする選手をいかに見つけられるかというのがひとつの大きなテーマとなる。

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