
ロンドンからわずか100kmほどのイングランド南部には、ストーンヘンジに代表されるような自然豊かで風光明媚な景色が数多く存在している。
頂上を目指してようやく最後の登頂に挑めるかと思った矢先、また新たな苦難に直面した先週のオーストリアGPのあと、角田裕毅(レッドブル)は南イギリスを訪れて大自然のなかでリフレッシュしてきた。
「チームからの勧めでフィジオセラピストと南イギリスに行ってきました。新鮮な空気を吸ったりしてリセットして、またリズムを立て直すのにかなり役立っていると思います」
4月のレッドブル昇格以来、3カ月。マシンに対する自信が深まっていくのにつれて、一発の速さは徐々に高まってきている。しかし予選のここぞという場面で、結果に結びつけられていない。それが第7戦のイモラから続いている。
イモラは自分の不用意なミスによるクラッシュ、モナコはチームとしてのアタック戦略、スペインは週末全体の不調、カナダはFP3でのトラブル、そしてオーストリアではコンディション変化へのアジャスト──。
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ただし、一発の速さに関しては、もう見えてきている。マシンへの理解はいずれ一定のレベルに到達し、乗りこなせるようになる。角田自身はその手応えをつかみ取っているようだ。
「オーストリアでは(フェルスタッペンと)パッケージが違ったんですけど、それが僕らの考えていたよりも大きな差として出ていたんです。今回はそれを使えるかどうか、まだ未定です。
ショートランに関しては、マシンに対する自信のレベルの問題で、そこはいずれ到達できると思っています。予選で(Q3まで)戦えるポテンシャルがあることはわかっているので、あとはセットアップをうまくまとめ上げて、いいアタックラップを決めることだけと思っています」
オーストリアGPではマックス・フェルスタッペン車にのみ、新型のフロアエッジウイングが投入された。リアタイヤ前方の気流を強化して、そこでのダウンフォース発生量を安定させるという意味で、チームが想定していた以上に大きな効果をもたらしていたようだ。
【ロングランは常に苦しんでいる】
マシンへの理解度の差だけでなく、そういったマシンの差もわかっている。だからこそ、0.263秒差という予選結果に対しても、理解不能だとパニックに陥る必要はない。以前から話しているとおり、マシンへの理解度と自信については、時間と周回数を積み重ねることでしか解決しないこともわかっている。だから、焦りはない。
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それよりも、オーストリアGPの決勝で顕著に表われた「タイヤのタレ」のほうが、今の角田にとっては深刻な問題になってきている。
予選でQ3に進み、8位や6位のグリッドから臨むレースはいずれやってくる。しかしレースペースが遅ければ、上位勢と戦うことなどできないからだ。
「ハッキリとした原因は正直に言ってわからないんですけど、改善できそうな部分はあります。それはオーストリアだけの問題ではなくて、前のレースからロングランは常に苦しんでいるので、オーストリア後の数日間もそこをどれだけ改善できるか、かなり懸命に取り組んできました。今週末はいくつか、今まで考えてもいなかったようなこと、普通のレースではやらないようなことをトライするつもりです」
チームもその点を改善するために、角田に対して協力的な姿勢を見せている。ファクトリーでもレース週末でも、通常ではやらないようなレベルまで手間暇をかけて、試行錯誤をすることに協力してくれているという。
「たとえば僕が『こういうことをやりたい』と言えば、普通の状況ならなかなかOKできないようなこともOKにしてくれたり、マックスだけでなく僕のリクエストもかなり聞いてくれていたり。そういうサポートはすごくしてくれています」
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今週末はFP1で、ジュニアドライバーのアービッド・リンドブラッドにシートを譲ることになる。各車とも年間2回義務づけられている新人走行枠の消化であり、第4戦バーレーンGPではフェルスタッペンが岩佐歩夢にシートを譲っている。
【前任者も陥った負のスパイラル】
来季のF1昇格が期待されるリンドブラッドだが、もしフェルスタッペン車に乗れば否が応でも並行して走る角田と比較されることになり、レーシングブルズのリアム・ローソン車に乗ればイザック・アジャと比較されることになる。そういう意味では、余計な詮索をされずどのドライバーにもプレッシャーを与えないという意味で、角田車をドライブするのが最適解なのかもしれない。
角田自身は着実にマシン習熟を進め、次々と立ちはだかる課題にひとつずつ取り組み成長している。ただ、予選でわずかでもつまずけば、下位グリッドに沈み、決勝でも実力どおりの結果に結びつけることはできない。そんなレースが続けば、結果という表層しか見ることのできない人たちからの雑音はどうしても大きくなる。
しかし角田は、そういった結果に惑わされないよう、自分の力を信じている。前任者たちが陥った負のスパイラルにならないためにも、それが重要だ。
「レースごとに(結果が出ていない理由は)違いますし、前のレース結果が悪かったことも考えないようにして、自分のフィーリングを信じるだけです。安定した走りができるように、チームと一緒に改善のための努力をしています。今週末はすべてをうまくまとめ、僕の速さを皆さんに証明したいと思っています」