KDDIは、7月1日に「au 5G Fast Lane」のサービスを開始した。これは、5G SAを契約しているユーザーの通信を文字通り“優先レーン”に乗せる仕組みで、混雑時に速度低下の影響を受けづらくなるのがメリットとなる。同サービスは、現在、新料金プランの「auバリューリンクプラン」や以前から提供されてきた「使い放題MAX+ 5G」での利用が可能だ。
データ容量無制限でかつ、料金の高いユーザーをコンテンツなどのサービスだけでなく、通信面でも優遇する取り組みといえる。では、実際、au 5G Fast Laneが適用された端末と、そうでない端末にはどの程度の違いがあるのか。東京23区の複数箇所でスピードテストを行い、その効果の度合いや今後のサービス設計に与えそうな影響を考察した。
●対象料金プランのユーザーを優先制御、混雑時の速度向上が見込める
au 5G Fast Laneは、対象となるデータ容量無制限の料金プランを契約し、かつ契約種別が「5G SA」になっている場合に適用される。端末側も、5G SAに対応している必要がある。KDDIによると、料金と契約種別、さらに端末がそろっていれば、実際の通信が5G SAである必要はなく、4Gとの組み合わせ使う5G NSAでも効果が発揮されるという。この条件がそろえた上で、別途サービスの申し込みが必要になる。
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優先レーンというと意味が分かりづらいかもしれないが、このサービスは、対象となる端末に無線のリソースを多く配分するという基地局側の制御で成り立っている。4Gや5Gでは、無線をリソースブロックと呼ばれる細かな単位に分割して、それを端末に割り当てることで通信が行われている。同じ基地局配下に複数の端末があると、1台1台に割り当てられるリソースブロックは少なくなる。
ただし、接続している端末が常時割り当てられた、リソースブロックを占有していたりするわけではなく、ダウンロードやアップロードが終わると開放され、別の端末に割り当てが増える。これによって、複数の端末が一斉に通信しても、それをさばくことが可能になっている。この制御がWi-Fiとの大きな違いで、一斉に複数の端末が接続しても、(ある程度までは)きちんと通信が継続できるのはそのためだ。
一方で、これまでは、どの料金プランでもある意味平等にリソースブロックを管理、割り当てていたが、KDDIはau 5G Fast Laneでここに手を加えた。あくまで相対的にだが、auバリューリンクプランや使い放題MAX+を使う5G SA契約のユーザーにだけリソースブロックを多く割り当てることで、通信の快適さを向上させる。同じようなトラフィックのデータ通信をしようとした場合、au 5G Fast Laneの方が作業は早く完結する。
“相対的に”というのが鍵で、非対応端末に割り当てるリソースをゼロにしてしまうわけではない。イメージとしては、5:5だったのを6:4なり7:3なりに変えるような形で、10:0になるわけではないため、au 5G Fast Laneに対応していなくても、通信自体は継続できる。正式提供に先駆け、KDDIが行ったフィールドトライアルでは、山手線乗車時の速度が1.8倍、大阪・関西万博会場での速度が2.2倍に向上する効果が得られたという。
●実機で速度差をチェック、その効果のほどは?
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では、実際にau 5G Fast Laneの効果はどれほどのものか。適用、非適用の端末2台でスピードテストをして、速度を比べてみた。まずは7月2日午前9時台に、KDDIの新本社が位置する高輪ゲートウェイ駅での速度をチェックした。ここでは、最も差がついたときで、au 5G Fast Lane適用端末が537.1Mbps、非適用端末が326.6Mbpsになり、1.6倍強の速度差が出た。
何度かテストをしてみたところ、差が縮まったこともあったが、いずれもau 5G Fast Laneの方がスピードは出ていたうえに、レイテンシ(遅延)も短くなっていた。高輪ゲートウェイは2020年に新設された山手線の駅で、コロナ禍に突入した直後だったこともあり、利用者はまばらだった。2023年度の乗降客数は、全30駅中で最も少ない。
ただし、3月に街開きを迎え、KDDIの移転も始まったことで徐々に人は増えている。渋谷駅や新宿駅、品川駅のようなターミナルと比べると人は少ないものの、多くの人が乗った列車が停車するため、ネットワークはそれなりに混雑していたようだ。一方で、非適用端末も300Mbpsを超えており、スマホ用のサイトを表示したり、アプリでコンテンツを読み込んだりする程度の実利用では差がほとんど分からない。これなら、優遇されていない回線の使い勝手が極端に低下しているとはいえないだろう。
翌日向かったのは、午前10時台の渋谷駅。この時間帯は夜のような大混雑はしておらず、周辺のオフィスに出勤する人も減っているが、訪日外国人観光客で比較的にぎわっている。大混雑かと言われればそうではないが、そこそこ人がいる状態といえる。ここでも、au 5G Fast Lane適用端末と非適用端末で通信速度に差が出た。適用端末は167.3Mbps、非適用端末は108.7Mbpsになり、1.5倍強の速度が出ている。
高輪ゲートウェイと渋谷は、いずれもKDDIが実施したフィールドトライアルの1.8倍や2.2倍より数値は下回っているものの、実環境でau 5G Fast Laneが適用される端末が増えていることを踏まえれば、妥当な結果なのかもしれない。では、そんなに混雑しているようには見えない屋内ではどうなるか。
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次に向かったのは、原宿の交差点にできたハラカドという商業ビル。ここでランチを食べつつ、スピードテストを実施してみた。ハラカドは、インフラシェアリング事業者のJTOWERが屋内インフラを提供しており、複数のキャリアが相乗りしていることもあって、キャリア間の通信環境の差は小さい。ここでは、au 5G Fast Lane適用端末が268.8Mbps、非適用端末が223.3Mbpsだった。
高輪ゲートウェイ駅や渋谷駅に比べると差が小さく、1.2倍程度の違いしかない。ランチタイムを微妙に過ぎた2時ごろで、あまり混雑していなかったことがその原因かもしれない。ちなみに、アンテナはJTOWERが提供しているものだが、そこにつながって無線を制御しているRU(Radio Unit)から先はKDDIのもの。KDDIによると、この状況でもau 5G Fast Laneも、適用されるという。
●まったく差が出ない環境も、UXにどう昇華するかが課題か
一方で、混雑しているように見えても、思っていたほど効果が出ないことがあった。以下の写真は、21時に近い混雑した渋谷のスクランブル交差点付近で撮影したものだ。ここでは、au 5G Fast Lane適用端末が104.6Mbpsなのに対し、非適用端末が105.6Mbpsと、結果が逆転している。逆転といっても、その差は1Mbpsで誤差のようなもの。速度差はなかったと捉えることができる。
原因は不明だが、人が多いだけで、あまり通信していなかった可能性は考えられる。この時間帯のスクランブル交差点は、まさにカオス。信号が青になった瞬間ダッシュして交差点中央で撮影を始める観光客も多く、“歩きスマホ”をしていると、衝突してしまいかねない。ほとんどの人は、いったんスマホを使うのをやめ、横断歩道を渡っている。あくまで推測だが、比較的リソースが空いていた可能性はありそうだ。
また、同じ渋谷でも、筆者の事務所がある東急本店跡地付近は人がまばらになることも多い。ここでスピードテストを行ったところ、案の定、大きな差は出なかった。au 5G Fast Lane適用端末が49.1Mbpsだったのに対し、非適用端末は53.4Mbpsと、ここでも結果が逆転しているが、誤差の範囲といったところ。“混雑時”に相対的な速度が上がるというKDDIの説明が裏付けられた格好だ。
夜の渋谷で測定した結果はやや不可解だが、ある程度混雑していそうな場所では、速度差がしっかり出た。とはいえ、それぞれの結果を見れば分かるように、非適用端末が突出して遅くなるというわけでもない。au 5G Fast Laneを導入したからといって、安い料金プランを契約するユーザーがないがしろになっているわけではないといえそうだ。逆に、このぐらいの差であれば、実利用では適用されていることに気付かない可能性もある。
ただ、これだと、データ無制限プランにつく特典の1つとしてのアピールが弱くなってしまう印象も受けた。実利をどう伝えていくのかは、今後の課題といえる。auバリューリンクプランを発表した際に、KDDIの代表取締役社長CEOを務める松田浩路氏は、「将来的には5G SAにネットワークスライシングが入り、お客さまに応じた通信のプレミアムな部分をご体験いただき、対価をいただく形に持っていきたい」と語っていた。
au 5G Fast Laneは、その「試金石として入れている」(同)サービスになる。ネットワークスライシングであれば、クラウドゲームに最適化した通信環境や、混み合っている場所でも、最低限決済サービスだけは通すような通信環境を作ることが可能。au 5G Fast Laneを、よりきめ細かにした対応が実現できる。Opensignalの調査でトップに立ったKDDIだが、その優位性を生かし、ユーザーにとって分かりやすい体験に昇華させていくのが次のステップで必要になるかもしれない。
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