テレビ東京『ディアマイベイビー』公式ページより 25年以上前に放送されたテレビドラマと現行作品が、はからずも結びつけられることがある。1999年放送の『週末婚』(TBS系)と2025年放送の『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(テレビ東京系、以下、『ディアマイベイビー』)がまさにそう。
いずれの作品にも松下由樹が出演している。それも恐ろしいほどの執念で動くキャラクターを演じる。さらに注目すべきは他の出演者。『週末婚』沢村一樹と『ディアマイベイビー』野村康太である。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、沢村一樹&野村康太が結びつける新旧ドラマを解説する。
◆沢村一樹が出演する『週末婚』
ガラス張りのシャワー室で男女が抱き合い、熱いキスを交わしている。シャワー室外に置かれたカメラがその様子をねっとり捉える。湯気で曇ったガラスが男女の恥部にうまくモザイクをかける……。
というのが1999年に放送されたドラマ『週末婚』第1話冒頭場面なのだが、令和のドラマではなかなか考えられないセクシャルな描写である。男女を演じていたのは、撮影当時31歳の沢村一樹と28歳の永作博美。
沢村と永作が演じるアツアツ男女は結婚を固く約束している。でもいきなり冒頭場面から激しい濡れ場が裏打ちする幸せメロメロデレデレが描かれるということは、それを阻もうとする圧倒的敵キャラがすぐに登場することが予想できる。
◆松下由樹が目を剥く世紀末感
永作演じる妹・浅井月子の姉・浅井陽子である。高学歴で翻訳家。でも実は行き詰まっていて男遊びを繰り返している。それを何とも涼しい顔で演じているのが松下由樹である。
陽子は妹の婚約者である大森豹(沢村一樹)の兄である大森純(阿部寛)に目を付けて計画妊娠を遂行する。姉妹揃って同じ兄弟と結婚するのは世間体が悪いということで、陽子は月子に身を引くよう説得を試みる。もちろん従うはずがない。第1話中盤以降はもうひたすらドロドロ展開。
第2話冒頭、新婚の陽子と純が旅館の客室で身体を重ねる場面があるのだが、カメラ側に向かってひとり自分の世界に入り込んだかのような陽子が目を剥いて「月子、やられる前にやり返すわよ」と独り言。恐ろしい。本作の放送年が1999年だからか、松下由樹が目を剥く世紀末感が画面上を支配している。
◆新人俳優役を演じる野村康太という配役
純に抱かれる陽子が目を剥く瞬間はそのあとの自宅キッチン場面にもあるのだが、これは自分の結婚式をぶち壊す発言を浴びせてきた妹・月子への恨み節の眼差しである。
松下は役柄の心情変化を表現するためにわかりやすく目を剥く演技をする。松下演じるキャラクターが同様な心情変化を見せるドラマが近作にもある。狂乱のマネージャー役を演じる『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』である。
同作第1話、脱け殻のような顔した主人公・吉川恵子(松下由樹)が街路を歩く。敏腕マネージャーである吉川は手塩にかけて国民的女優にした垣内麗奈(安達祐実)に裏切られた。
吉川が麗奈からシニカルな言葉を浴びせられる場面が回想として描かれ、これが心情変化の起点となる。吉川は街路ですれ違った森山拓人(野村康太)に一目惚れしてスカウト。異常な愛情を注いで拓人を育てるのだが、新人俳優役を演じる野村康太という配役が何とも絶妙ではないだろうか?
◆父子俳優が結びつける兄弟作
どうしてかというとそれは極めて単純に、野村康太が沢村一樹の次男だから。『週末婚』で世紀末感をひたすら漂わせ、怪しい魅力と執念で月子と豹を追いつめた陽子役から、25年以上の時を経て今度は沢村の次男が演じる若手俳優をさらなる執心で囲い込む。
松下由樹が怪演する恐怖が、まるで沢村一樹&野村康太の父子俳優によって連鎖するみたいな。拓人に対して独り言のように目を剥く吉川役を演じる松下は、陽子役以上の演技を見せる。
松下由樹が25年以上前に演じ、あるいはまた現行作品で演じるふたつの役を沢村と野村がはからずも結びつける。その意味で『週末婚』と『ディアマイベイビー』は時をかける兄弟作と考えてもいいかもしれないなと思う。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu