
生まれたときからネットが身近にあり、SNSが生活の一部にもなっている“デジタルネイティブ”なZ世代。便利なツールを悠然と使いこなしながらも、スマホを開けば常に比較対象がいるその環境は、若者の自己肯定感にも大きな影響を与えているといえる。
デジタル社会の波にもまれ、学校や社会は効率重視や成果主義。コロナ禍や長引く不況で将来への見通しも不透明となれば、“ありのままの自分”に自信を持つことは容易ではなく、Z世代の自己肯定感は「低い」傾向にあると考えるのも無理はない。
自己肯定感とは、言い換えれば自分への“好き度”。Z世代は果たして、自分を好きになれているのだろうか。今回、週末のにぎわう渋谷の街なかで、道行く若者に街頭インタビュー。Z世代のリアルな本音に迫る。
「いいね」数が指標? デジタルネイティブ、令和の自己肯定感スマホ1台で気軽に投稿でき、即座に「いいね」やメッセージを受け取れるSNSが浸透する今。若者は、今や必要不可欠な存在となったSNSでどのように「自己」を形成しているのだろうか。
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実際に話を聞いていくと、ポジティブな答えが次々と返ってきた。メイクがうまくいったことや、「推し活」を楽しむ様子などをシェアすると、満足感が形になり、「いいね」の反応は、承認欲求も満たす。Z世代にとって、SNSは分かりやすく自分を肯定できる存在として、プラスに捉えている印象だった。
千葉からカップルで来たという19歳の専門学生の女性は「インスタで、ストーリーに写真を投稿して『いいね』がめっちゃ付いた時とか、自己肯定感は上がりますね」と笑顔。新潟出身で現在は都内の大学に通う18歳(大学1年生)の女性は、スポーツ観戦が趣味で、一眼レフで撮った選手の写真がSNS上で本人に見てもらえた時に「めちゃくちゃうれしい」と喜んでいるという。
カメラのほかにも、写真シールやTikTokの画像などの上にデジタルで文字やイラストを描くのが得意で、「褒められると上がります。『いいね』がいっぱい来るとテンションが上がるし、参考にしてくれる子もいてうれしい」と明かす。
SNSは、若者にとって自身を表現する場。日記のような記録媒体としてだけでなく、投稿に対する「いいね=共感」も集まることで、「私頑張ってるかも」「最近いい感じ」など、自己肯定感が可視化されるのも、分かりやすいポイントだ。
承認欲求は「程よく」がコツ 未然に防ぐSNS依存SNSの存在が当たり前になったからこそ、Z世代はさらにその先の罠や“依存性”のリスクにも、気付いている。外からの承認にこだわりすぎると、無理に自分を飾ったり、反応がなければ、逆に自己肯定感の低下につながったりもしかねない。
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話を聞いた若者の中には、フィルターや加工なしの写真で“リアルな”日常を共有するのが特徴的なSNS「BeReal」などを例に挙げ、「気分が下がりそうなときは見ないようにする」と答える人も。他との比較で落ち込むのは、自分を下げる典型的な一例。先手を打って、明確に回避するのが、令和の“自己防衛”手段だ。
「家から一歩も出ない日とかに『BeReal』を見ると、自分は何をしているんだろうって思っちゃうから、何もできなかった時とかは見ないようにしています」(19歳・女性)、「SNSでかわいい子を見て、自分と比べちゃって、『はぁ…』みたいな」(17歳・女性)などの声が。
「これから美容院に行く」と渋谷に訪れていた、都内の大学に通う20歳の男性は「SNSを見ていると、就活生なので『これ来月までにやっていないとやばいよ』みたいな情報が流れてくる。学歴で悩んでいる時も、ネットだと情報も過剰に書かれていることが多いので、見ないようにしたり…。見たとしても、とりあえず気にしないようにしています」と、SNSへの“耐性”が身に付いているようだった。
見方によって、ポジティブにもネガティブにも転ぶSNS。“ポジティブ”目線では、「身近な感じのJK(女子高生)のTikTokとかを見て、自分に合いそうなメイクや服とかをまねしたりすると、自己肯定感がめっちゃ上がります」(17歳・女性)、「かわいい女の子とかK-POPアイドルの子とかの動画が流れてくると、テンションが上がります」(15歳・女性)と、投稿を楽しんでいる。
デジタルネイティブならではのSNSの“トリセツ”は、「適度な距離感」が大きな鍵。気分や目的によって、SNSを器用に使いこなしているようだ。
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今回、取材をする中で、一度も聞かなかった「リア充」という言葉。10年ほど前までは頻繁に聞かれたが、デジタルネイティブ世代の若者にとってはすでに、「ネットの自分」と「リアルの自分」は境目がなく、完全に地続きだ。
とはいえ、SNSにアップするのは、どちらかと言うと「経過」よりも「成果」。“映え”を意識しがちなネットに対し、リアルでは、地道なセルフケアや人前では見せない“訓練”など、日々努力している若者も多い。
カップルでデート中だった都内の大学生男性(22歳)は、普段からファンデーションやリップなども自然にするというメイク男子。「朝、ヘアセットとかメイクとかがうまくいって、鏡で『あ、俺かっけえ』って思った瞬間に自己肯定感が上がります。それを下げないように、食べ過ぎた次の日はあまり食べないとか、体型維持は心がけています」と話す。
自己肯定感にとって、「外見」を保つことは、重要な手段の一つ。自分が気に入る状態の肌や髪、ファッションでいられるかどうかが、“自分好き度”のアップダウンも左右する。
都内の大学2年生の女性(20歳)は「面倒くさくても、お肌のために毎日メイクは絶対に落とします。肌荒れすると自己肯定感が下がるので、きれいにしていたい」と、習慣づけることで美肌をキープしている。好きな人や推しのために自分磨きをするのも、自己肯定感を高める方法として多く聞かれた。
見た目のほかにも、学生ならではのこんな「自分磨き」もある。都内の高校2年生の男性2人組は、同じ高校で共に野球部に所属し、ポジションも同じピッチャーという友達同士。自己肯定感が上がるのは、二人声をそろえて「野球をしている時」。
「大会で投げて、ピンチの場面を抑えて球場がワッと盛り上がった時とか」と一人が語れば、「やっぱり試合でうまくいった時はいい気分になるし、自己肯定感が上がる感じがします」と、友人も隣でうなずく。
好きな人や物事に向き合うと、無理せず自然体の「自分らしさ」が発揮され、自己肯定感だけでなく、自己効力感も上がる好循環。ネットとリアルが地続きと言えど、「リア充」でしか得られない“自己肯定”のベースが、そこにある。
Z世代ならではの“達観”力 オトナも学べるサバイブ力若者のリアルな声を聞いていると、特に印象に残ったのが、その驚くべき「達観」力。物事を俯瞰して自分の立ち位置を理解し、行動にもつなげている。
「SHIBUYA109」前で話を聞いた、この春高校生になったばかりという都内の女子高生(15歳)は「友達とは、あまり深く関わりすぎないようにしています。自分の気持ちが負けないように、傷つかないようにする関わり方をしています」ときっぱり。
都内の大学3年生の男性(20歳)も、「基本的には、誰とでもそんなに仲良くなりすぎないようにしています。近づきすぎちゃうと、ちょっと、なんかあんまり…」と、最初から深入りは避けている。「恋愛は、逆に距離が近いって言われるんですけどね(笑)」と、素直な一面も。
「合わない人にははっきりそう言っちゃうかも」「私も、会わない人とは無理に関わろうとはしないですね」と話していたのは、20歳の女子大生2人組だ。「距離を保つ」派が多かった中で、「ストレートに言う」派も、女性たちの中には、一定数存在していた。
相反するようにも聞こえるが、人間関係で余計な労力を使って疲れたくないという心理は、共通しているようにも思える。
一方で、家族に対しては、「母親にはちゃんと毎日、嫌なことも話して、ストレスをためすぎないようにはしています」(15歳・女性)、「叱られたり、親にいろいろと言われることがあっても、自分のことを考えて言ってくれているんだなと、頭の片隅に置いて聞くようにしています」(17歳・男性)と、親子関係を大事にしている声も聞かれた。
情報化社会の中に生き、デジタルとリアルの両軸で「自己肯定感」と対峙するZ世代。一つの“メディア”を運用するような感覚で、InstagramやTikTokなどのアカウントをさらりと動かし、その中で高い言語化能力やコミュ力を、自然と身につけてきているのかもしれない。
ドラマ『シンデレラ クロゼット』(TBS系)にも、「自己肯定感」と向き合うZ世代が登場する。主人公の二人は、おしゃれな大学生活を夢見て上京してきたものの、きらきらとした都会の生活になじめずにいる春香(はるか)と、偶然出会った「女装男子」光(ひかる)。現代の若者の「等身大」を捉え、美容やファッション、恋愛や友情などを通じて、「自己肯定感」と向き合い、“自分らしさ”を探していく。
本作のような作品や、SNSやインフルエンサーからの発信でも、「自分を好きになる」ことが肯定的に語られる今の時代。Z世代の自己肯定感は、揺らぎながらも、彼らがそれを前向きに育てていこうとするマインドは、取材からも力強く感じ取れた。
自分を好きになり、ポジティブに生き抜くその術は、ミレニアル世代やさらにその上の世代にとっても、参考になりそうなものばかりだ。