無配慮な報道が原因で“家バレ”し、自宅に住めない状況に陥ることも…「性犯罪の加害者家族」を待ち受ける“茨の道”

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2025年07月08日 09:20  日刊SPA!

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 性犯罪の加害者家族は、メディアでもたびたび大きく取り上げられます。
 2016年、有名女性俳優の長男である俳優が、宿泊先のホテルで従業員の女性に性的暴行を加えて怪我をさせたとして、強姦致傷の疑いで逮捕されました(のちに示談が成立し、不起訴)。

※本記事は『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新聞出版)より、抜粋・一部編集したものです。

◆「私の育て方が悪かった」カメラの前で謝罪した女性俳優

 母親は息子が勾留されている警察署の前で報道陣の取材に応じ、「申し訳ございませんでした」と頭を下げ、その後、謝罪会見を行いました。その際、彼女はカメラの前で涙ながらに語りました。

「自分なりに精いっぱいやったつもりですが、このようなことになった以上、何もいえることではないと思っています。私の育て方が悪かったと思っています」

「(被害女性に対して)もし自分の娘だったら、と考えなければいけない*1」

この発言からは、「私の育て方が悪かったのではないか」と母親が自分を責め、社会からも責められている姿が浮かび上がります。また、息子に憤ると同時に、同じ女性として「(息子が)被害者にひどいことをした事実を受け入れられない」という感情も抱いています。

 この報道を受け、女性俳優をCMに起用していた企業の一部は放映の差し止めを決定。それまでバラエティ番組にも引っ張りだこだった彼女の姿は、その後しばらくテレビから消えることになりました。

 たしかに息子の逮捕は俳優である母親を連想させ、その母親を起用した企業イメージにも影響が及びます。また同様の被害に遭い、苦しんでいる人たちへの配慮とみなすこともできますが、「それでも事件を起こしたのは、母親ではなく息子だ」という点から、賛否両論が巻き起こりました。

◆過熱報道で近所に拡散、自宅を追われる

 性犯罪の加害者家族がメディアの過熱報道にさらされるケースもあります。

 かつてNHK紅白歌合戦にも出演した人気ロックバンドの元メンバーが、性犯罪により12年間の服役後に出所し、2020年に再び逮捕されました。

 この事件が報じられてすぐ、加害者が妻と住んでいた自宅にマスコミの記者が多数訪れ、近隣に取材を行ったことから、妻は自宅に住めない状況に陥ってしまったといいます。さらにこの自宅住所を詳細に掲載した新聞社や、ぼかし入りとはいえ住居の写真を掲載したウェブメディアもありました。

 長年、この事件を取材していた月刊誌『創』の編集長・篠田博之氏は、ウェブメディアの記事で「家族の住所は暴くわ写真は載せるわというのでは、(マスコミは)いくら何でも自分たちの報道の暴力性に無自覚すぎる。犯罪者を叩いているつもりが、実際にはもうひとりの被害者でもある妻ら家族を攻撃しているという、その現実を自覚してほしい」と、過熱報道の危険性を指摘しています*2。

◆更生を支えようとしていた矢先で…

 また2021年、性犯罪更生支援団体の代表が、マッチングアプリで知り合った女性への強制性交等の容疑で逮捕されるという事件がありました。この人物は過去にも性犯罪歴があり、刑務所内で性犯罪者を対象とした特別改善処遇のプログラム、通称R3(性犯罪再犯防止指導)を受けたのち、更生と社会活動に従事していました。

 実はこの人物には出所後、同じキリスト教会で知り合い結婚した妻がいました。妻は夫の前科を知ったうえで、更生を支えようとしていた矢先の事件でした。

 夫の再逮捕後、自宅にはテレビのレポーターや新聞記者が一斉に押し寄せ、妻は精神的に追い詰められる状況になったといいます。前出の篠田氏は、「そうやって次々とマスコミがピンポンを鳴らす行為が、彼女が事件関係者だというのを近所中に拡散する恐れがある」と記していますが、ただでさえ身内の突然の逮捕で動揺し、不安になっている家族は、過熱報道によりさらに追い詰められていく現実が浮き彫りになっています*3。

◆夫の性加害疑惑をSNSで否定する妻

 ここまでは、マスコミの過熱報道により、加害者家族が精神的、社会的なダメージを被った例を取り上げましたが、加害者の家族がマスコミや世間に対して、加害者当人にかけられた疑惑を否定することもあります。

 2024年、人気お笑い芸人が撮影現場で20代の女性タレントに性的暴行を加えるなどしたとして、不同意性交と不同意わいせつ罪で在宅起訴されました。

 しかし、事件発覚当初は芸人の妻が「一部事実と違う報道がされております」「一方的な行為ではなかった」など、夫の容疑を否定する内容をSNSに投稿していました。これに対しネット上では、「夫の性加害を擁護するのか」「被害者に対するセカンドレイプだ」という声も巻き起こりました。

 何が真実かは裁判の結果を待たなければなりませんが、投稿に記されていた「私にも守るべき子どもがいますのでお伝えさせていただきました」という一文には、強い意思が感じられるように思えます。

 これらの報道は、事件とは関係のない人にとっては数あるニュースのひとつに過ぎません。とくにインターネットやSNSが普及したいまでは、日々新たな事件や事故や、いわゆる「炎上」を招くようなニュースがめまぐるしく報じられ、よほどのことがなければ数日で忘れ去られてしまいます。

 幼い頃に父親が強盗強姦事件を起こし、一家離散した経験のある芥川賞作家の西村賢太氏はこのように綴っています。

<他人に関するその報道はすぐに忘れても、肉親のそれには今まさに生々しい痛みをかかえ、理不尽な十字架を背負わされた怒りの中にある人もいるはずだ*4。>

 事件を報じるマスコミ、そしてそれらをなかば興味本位で見聞きする受け手にとってはごくありふれた事件報道も、加害者家族にとってはその後の人生を狂わせるほどの強烈な「痛み」をともなうことが、この一文からも伝わると思います。

<TEXT/斉藤章佳>

*1:三浦ゆえ「高畑淳子さんを責めても何も解決しない」東洋経済オンライン、2016年8月26日
   
*2:篠田博之「性犯罪で再び逮捕された元ヒステリックブルーのナオキに警察署で接見した」Yahoo!ニュース、2020年9月24日

*3:篠田博之「『うずしお先生』事件で逮捕された性犯罪更生支援団体代表と妻との涙の面会に同席した」Yahoo!ニュース、2021年7月22日 

*4:西村賢太「父の性犯罪により解体した家族。犯罪加害者家族の背負う罪なき罰ーー」講談社、2020年2月26日

【斉藤章佳】
精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などの依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『盗撮をやめられない男たち』など多数

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