写真 米の価格が高騰したまま落ち着かず“令和の米騒動”などと騒がれています。この状況を受けて、国は備蓄米を放出しましたが…皆さんは手に取る事ができましたか?
今回はそんな備蓄米に翻弄されてしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆ごはん党なのに米の価格高騰なんて……
倉田美也子さん(仮名・30歳/派遣社員)は、子どもの頃からかなりのご飯党で朝昼晩と毎食ご飯を食べて暮らしてきました。
「ですが当たり前のようにいつも食べてきたお米の価格が高騰してしまってからは、泣く泣く買い控えて、パンやパスタやうどんなんかを食べる回数が増えていきましたね」
以前は気楽に利用していたお気に入りのおにぎり専門店も値上がりしてしまい、すっかりご飯が贅沢品になってしまい、足が遠のいていきました。
「私には付き合って1年半になる、健治(仮名・28歳/会社員)という恋人がいます。彼はご飯に執着がなくなんでも美味しく食べられる人なのに、デートの時は私に気を遣って、炊き立ての美味しいご飯が食べられるお高めの定食屋さんに連れて行ってくれたりして、本当に優しいんですよ」
そんなある日、備蓄米販売開始のニュースを見た美也子さんは会社帰りにスーパーやコンビニをいくつか回ってみました。しかし結局、価格高騰した銘柄米にしか出会えませんでした。
◆備蓄米が手に入るかも! 舞い上がってしまった
「都内では備蓄米を購入するのはやっぱり難しいのかな? と諦めかけた時に、近所のスーパーのお米コーナーに“備蓄米売り切れました”の張り紙を見つけて思わず息を飲みました。そして慌てて店員さんを捕まえて話を聞いてみたんですよ」
すると「今朝4袋入荷したのですがすぐに売り切れてしまいました。次の入荷日は未定です」と言われてしまいましたが、美也子さんは大興奮してしまったそう。
そしてその晩、健治さんが作ってくれたパスタを食べながら、興奮冷めやらぬ美也子さんが「今朝までここに備蓄米があったんだと思うと居ても立っても居られなくなったの! 私のすぐ近くまで備蓄米が来ているって感じがしたからこのまま運良く出会えるかもしれないし、今度のデートは備蓄米探しの旅に出ようよ」と無邪気に誘ってみたのですが……。
◆「米の話ばかりで気が狂いそうだよ!」
「健治が『もう最近美也子はずーっと米とお金の話しかしなくて気が狂いそうだよ! 僕にとってデートは仕事で疲れた自分へのご褒美だから、美味しいお店や非日常を味わえるような場所に行きたいし、自分の彼女がそんなみみっちい貧乏くさい話ばかりしているのは耐えられない! それに僕が作ったパスタの感想も一切言わずにずっと米が食べたいって話ばかりして、無神経すぎるよ!』と顔を真っ赤にして怒り出して……こんな姿初めて見たしとても驚きました」
美也子さんは確かに無神経なことを言ってしまったなと反省しましたが、自分の金銭感覚を“みみっちい、貧乏くさい”と言われたことには納得できず、健治さんと口論になってしまったそう。
「話せば話すほど、健治は恋愛や女性に、まだ夢を見ていて現実を直視できていないように感じてしまい、一方で、健治は私が現実的で生活感がありすぎて以前のようにうっとりできなくなってきたと訴えてきて、どちらも引き下がることができず、話は平行線のまま……。だったらお互いに価値観の合う相手を見つけた方がはやいのではないか? ということになり、別れることになってしまったんですよ」
◆「お米を見るのも嫌になった」最後に渡してきたのは
そして別れ際に健治さんは、今回の件でお米を見るのも嫌になったとため息をつき、自宅に残っていたお米を「よかったら持って帰って」と美也子さんに渡しました。
「このお米は最後のプレゼントともとれますが、多分健治は『もうお米なんてどうでもいいの! お願いだから私とやり直して!』ってなる展開を期待してるんじゃないかな? と感じました。もちろん、ただお礼だけ言って、もらって帰りましたけどね」
◆一緒に備蓄米を探してくれる男性とめぐり逢いたい
そんな美也子さんはいまだに備蓄米を手にしていないそう。
「友達や親に米のことで破局するなんてと笑われてしまいましたが、ここで無理をして健治との関係を続けても、遅かれ早かれ別れることになっていたと思うので。これでよかったんじゃないかな? という感じです。次は一緒に備蓄米を探してくれるような男性とめぐり逢いたいですね」と苦笑いする美也子さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop