右足の怪我が完治していないアイアン・デイムスのミシェル・ガッティン
年間8レースで争われるWEC世界耐久選手権は、6月のシーズン最大のイベント、ル・マン24時間を終え、南半球から後半戦に入る。ブラジル・サンパウロのインテルラゴスで行われる第5戦は、7月12日に予選とハイパーポールを終え、決勝のスターティンググリッドが決した。
ここでは、予選日のインテルラゴスのパドックから、各種トピックスをお届けする。
■ハイパーカーはミディアム優勢?
サンパウロ6時間レースのポールシッター、アレックス・リンは、アウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェ(インテルラゴス)の最近の舗装変更が、キャデラックVシリーズ.Rに好影響を与えていると考えている。WEC世界耐久選手権のハイパーカークラスにおいて、キャデラックはライバルよりもその恩恵をより受けている可能性があるというのだ。
「サーキットで舗装が変更になっていると、いつもかなり有利になる」とリン。
「スパ・フランコルシャンもそうだったし、昨年のCOTAはもっと良くなったし、ル・マンでも舗装が変更になるたびにパフォーマンスが向上するようだ」
キャデラック・ハーツ・チーム・JOTAのキャデラック12号車をウィル・スティーブンスとノーマン・ナトとともにドライブするリンは、ミシュランのミディアムコンパウンドをレース全体で使うことが「確実」だと語っている。これは昨年のレースでトヨタを勝利に導いた戦略だった。
「明日、熱波が来ない限り、個人的にはハードタイヤを使うことはないと思う」とリンは語った。「レース全体を通してミディアムタイヤを使うことになるだろう」。
ペンスキー・レーシングのコンペティション・ディレクター、トラビス・ローは、日曜日の決勝では「その時使えるタイヤなら何でも」使う「準備ができている」と述べたが、今週末はいまのところミディアムコンパウンドしか使っていないことを認めた。
しかしローは、各チームが異なる戦略を取ると予想している。決勝日は、昨年のレースと同程度の気温が予想されている。「メーカーによって戦略が異なるだろう。全員が同じタイヤでレースに臨むとは考えていない」とローは語った。
なお、2012年から2014年まで開催され、昨年再開されたWECサンパウロ6時間レースの歴代優勝者は、全車がグリッド最前列からスタートしている。
■ブルデー、降格ペナルティの真相
セバスチャン・ブルデーは、予選第1ステージでポール・ディ・レスタの走行を妨害した件について「意図的ではなかった」と述べ、93号車のプジョー9X8を見失い、その後ディ・レスタが急速に迫っていることに気付いたことを認めた。
「正直に言うと、ディ・レスタが後ろから迫っていると聞いていたので、どこにいるのか確認しようとしていた」とブルデー。
「ところが、コースが非常に曲がりくねっていたため、最後のふたつのコーナーでディ・レスタを見失ってしまったんだ。その後、かなり遠くにプジョーを再び見かけ、後退したと思ったのだけど、それは別のクルマだった。そして、彼がすぐそこにいることに気付いた時には、最終コーナーで僕のギヤボックスの中にいたんだ」
この妨害によるペナルティでフロントロウのスタートポジションを失った38号車キャデラックに加え、予選のアタック中にアントニオ・フォコの50号車フェラーリ499Pの走行を妨害したため、ニコ・バローネの99号車ポルシェ963(プロトン・コンペティション)も1グリッド降格ペナルティを与えられている。
■プジョーのヤコブセンが4番手と躍進
プジョーは過去最高の予選セッションを披露し、マルテ・ヤコブセンが4番手、ポール・ディ・レスタが6番手に入った。
「WECでの初めての予選セッションだったが、チームに信頼を寄せてもらい、快適で競争力のあるマシンを用意してもらったことに感謝したい」と94号車のヤコブセン。
「(予選とハイパーポール)どちらのセッションも本当に楽しかった。燃料が少ない中でこのハイパーカーを限界まで追い込み、ベストラップを狙うのはスリリングだったね」
アレックス・リベラスは、ハート・オブ・レーシング・チームの009号車アストンマーティン・ヴァルキリーでハイパーポールにわずか0.037秒及ばず惜しくも敗退したことについて、「少しがっかりしている」と認めた。
「今日は少し複雑な気持ちだ」とリベラス。
「チーム全体を誇りに思うと同時に、これほど大きな進歩を見せているチームの一員であることをとても光栄に思う。毎週末、マシンが進化し、どんどん良くなっていくのを見ることは、チームの質の高さを物語っている。だから、正直に言って、このチームの一員でいられることは特権であり、名誉なことだ。しかし同時に、あと少しで進出できただけに、少しがっかりもしている」
ハート・オブ・レーシング・チームは、土曜日にグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに出場したが、WECの競技規則に従い、少なくとも5日前までに『特別テスト』への参加を申告していなかったため、FIAから500ユーロの罰金を科せられた。
グッドウッドでは、チームのIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のドライバー、ロス・ガンがヒルクライムコースを走行した。
■ポルシェ963“ジョーカー”の予定
ポルシェLMDhのファクトリーディレクター、ウルス・クラトルは、来年のポルシェ963にさらなるEvoジョーカーが投入される可能性があると認め、マシンの「あらゆる部分」を精査しているという。
ポルシェはこれまでに、2027年のWECおよびIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権シーズン終了まで許可されている5つのジョーカーのうち、3つを使用している。
クラトルは、「社内では来年に向けていくつかの変更を検討している。ジョーカーの数は限られている。賢く対処し、2027年末まで残っているジョーカーを最大限に活用する必要がある。常に評価を行っているが、まだ決定事項はない」と述べている。
■5月のテストでコースを習熟
今週末開催されているサポートシリーズはGTシリーズカップ・ブラジルのみで、GT3とGT4合わせて13台が40分レース2回に出場する。GT3マシンは(性能調整の)制限なしで走行しているようで、上位のLMGT3マシンとほぼ同等のラップタイムを記録している。
このブラジルシリーズにGT3とGT4の両方で参戦しているシュトゥットガルト・モータースポーツは、5月にインテルラゴスで2日間のテストを行ったアイアン・デイムスを支援し、ポルシェ911 GT3 Rを提供した。チームのWECドライバー3人全員が参加し、セリア・マルタンはインテルラゴス・サーキットで初走行の機会を得た。
ミシェル・ガッティンはSportscar365に対し、このテストの主要目的は今週末に実戦デビューを果たすグッドイヤーのイーグル・ハードコンパウンドタイヤで走行することだったと語った。
「新しいタイヤがどのように機能するかを確認する必要があったので、とても役に立った」と彼女は語った。
「マンタイは昨年もここでテストを行っていたので、私たちが参加するのは理にかなったことだった。とても有意義な一日だった。完全に暗くなるまで走り、たくさんの周回を走った。セリアにとって非常に有益だった」
なお、ル・マン24時間レースのテストデーで右足を負傷して以来のWEC復帰となるガッティンは、まだ松葉杖をついているにもかかわらず、コクピットに戻っている。
「レースに出られるだけで嬉しい。クルマに乗るのには、何の問題もない。左足でなくて本当に良かった。左足だと、まだ骨折している足に130〜140kgの負担をかけるのは大変だから。幸いにも(右足で踏む)アクセルだけで済んだ。もちろん、足は大きな骨がまだ折れているので、100%使えるわけではない。だから松葉杖を使い、足を使うのは最小限にするようにしている。傷が治るまでの時間を確保するためにね。でも、テーピングと鎮痛剤、そして強い意志があれば、すべては可能だ」
今週末のレースには、ポルシェ・モータースポーツ副社長のトーマス・ローデンバッハ(ABB FIAフォーミュラEレースのためベルリンに滞在している)をはじめ、数名のモータースポーツ関係者が不在となっている。BMW Mモータースポーツディレクターのアンドレアス・ルースも欠席している。
[オートスポーツweb 2025年07月13日]