
綾瀬はるかが周囲に迷惑をかけない死に方を模索するアラフォー独身女性をコミカルに演じている『ひとりでしにたい』が、これまでNHKプラスで配信した全ドラマ(連続テレビ小説・大河ドラマを除く)の中で最多視聴数を記録した。
この春、桜井ユキ主演で大好評を博した『しあわせは食べて寝て待て』や、昨年、河合優実主演で話題を呼んだ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』なども超えたということだろう。そこには綾瀬はるかの変わらぬ人気はもちろん、“孤独死”に対する関心の高さもうかがえるようだ。
30代後半の未婚女子の婚活
綾瀬が演じる山口鳴海は美術館に勤める30代後半の未婚女子。猫を飼い、男性アイドルの推し活を生きがいにしていたが、子供の頃、憧れていた伯母の光子(山口紗弥加)が孤独死したことから、予防策として婚活をスタート。しかし年下の同僚・那須田(佐野勇斗)に「結婚すれば安心って昭和の発想ですよね?」と指摘され、「自分はひとりで死にたくないんじゃなくて、きちんとひとりで死にたいんだ」と気づき、終活を始める。
このドラマ、世の独身者には身につまされる内容が満載だ。
まず伯母の光子は仕事最優先で生きてきたキャリアウーマンで、見た目も美しく、義妹の雅子(松坂慶子)を見下していた。しかし定年退職すると形勢逆転。孫もいる雅子は日々はつらつと暮らし、家族を持たない光子は誰にもかえりみられず、風呂の中で無残な姿で死んでいるのが発見される。この辺はコミカルタッチだから見られるが、シリアスに描かれたらかなりつらいものがある。
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さらに鳴海は那須田には「そもそも山口さんのスペックで無料婚活アプリとか登録しても男来なくないですか」「何も考えてこなかったからですよね」とズバリ言われてしまう。
ハイ、その通り。おっしゃる通りですと、中年以上の多くの独身者はひれ伏さざるを得ないだろう。筆者(50代半ば・男性)もその一人だ。特に光子世代の独身は「仕事をしたいから」と自分で選び取った独身なのに対し、私たちより下世代の独身は、「とりあえず一人の収入でも食べていけるし、一人の方が気楽だから」と楽な方へ流され、無自覚にたどり着いた独身が多いと思う。そうした者が老後の不安をなくすためだけに婚活アプリに頼り、よしんば結婚できたとしても、たぶんうまくはいかないだろう。
そこで終活=死ぬための準備となるわけだが、劇中には「お一人様の腐らない老後講座」など、役立つ情報が多数盛り込まれている。それによればお薦めは、
1. 早めに老人ホームなどの施設に入る
2. 早めに共同生活などを始める
3. 生存確認してくれるサービスを利用する
だそうだ。
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筆者も家族や親族付き合いがないので孤独死街道まっしぐらだが、2の共同生活をできるほど親しい友人などいない。女性ならともかく、男性はほとんどそうだろう。かといって1の施設は費用が高いし、できれば朝から晩まで自分のペースで暮らしたいと、わがままな願望も持っている。そうなると3の生存確認サービス、これなら自分でも抵抗なく申し込めて、周囲にかける迷惑も少なくて済みそうだ。
困窮者のための制度
さらに那須田によれば困窮者のための制度はいろいろあるという。「相談をするならまず支援団体。女性なら行政の女性センターも良いですね。生活保護なら地域の福祉事務所の生活相談窓口。介護なら地域包括支援センターで介護認定を受けるところから」。だけど多くの人はプライドが高くて「助けて」と言えないという。筆者はプライドなどかけらもないので、自力でどうにも出来なくなったら、速やかに行政に相談しようと思う。そういう選択肢があると知れただけでも、ちょっとだけ安心できた。那須田は相当イヤな奴だが、こうした情報をくれることにだけは感謝したい。
筆者も50代半ばになり、きっと残りの年月もあっという間だろうなという気がし始めている(人生の先輩方には笑われそうだが)。人生の終盤は最低限のものだけに囲まれてシンプルに暮らすのが夢で、今からちょこちょこと不用品を処分したりしている。その方が、いざ孤独死した時も、周囲にかける面倒は少なくて済むだろう。
だが一方で、今からそこまで考えなくても…とも思うのだ。子供の頃は自分がいつか必ず死ぬなんて考えもしなかったが、ある年齢でそのことを自覚してから、急に世界が色あせた気がしたものだ。それと同じで、自分の死に方など考えるのは、できるだけ先延ばしに出来た方が幸せではないか。
もちろん人の寿命はそれぞれで、一概に早い遅いは言えないし、親の介護の状況もみな違う。鳴海が言うように「頭が動くうちに考えておくべき」というのも一理あるが、それでも平均的に見て、50代半ばの私でもまだ間に合いそうなので、少なくともアラフォーの鳴海には、そのことばかりどっぷり考えなくていいよと言ってあげたい。物事には考え時というものがある。それよりも今は健康に注意して、楽しい気持ちになれることをして過ごした方がずっといい。確かに那須田が言うように情報は大事だから、1年に1日くらいはそのことを考える日にして、あとはなるべく忘れて生きるくらいがちょうどいいのではないか。
ドラマは3話で親の離婚危機が発生して、事態が複雑化してきている。だが、こと自分の終活に関しては、私はそんなことを考えているのだが、視聴者のみなさんはどうだろう?
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全6話を観終えた時に、そんなのんきなことを言っていられなくなるのかどうか、ちょっと怖くもあるけれど…。
古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。