
7月6日、午前10時からCMを入れずに1時間45分にわたって『検証 フジテレビ問題 〜反省と再生・改革〜』と銘打たれた番組がフジテレビで放送された。
「2024年末に明らかになった、中居正広と元女性アナウンサーの間に起きた事案を発端に、フジテレビ局内では接待の場に女性アナを同伴させるといった“上納文化”の存在が指摘されるなど、社会問題に発展しました。以降、フジテレビはガバナンス体制を改善するなどして社内改革を進めることに。この特番も、その一環で組まれました」(スポーツ紙記者、以下同)
検証番組は、現フジテレビ社長の清水賢治氏の謝罪から始まり、トラブル発生の経緯や、被害者から相談を受けていた管理職の証言を交えながら進行。旧体制の上層部に切り込む一幕もあった。
「港浩一元社長が容姿端麗な女性社員だけを選抜して定期的に会食を繰り返していたことや、大多亮元専務が“女性アナは上質なキャバ嬢”と話していたことが同局の社員による証言で明かされました。ほかにも局内のガバナンスが不全に陥っていた要因として、長年にわたり人事権を掌握していた日枝久前取締役相談役の存在があったことなども挙げられていました」
検証番組放送後の7月10日、フジテレビは組織改編と人事異動を実施。
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フジへのCM出稿を再開した企業
「これまで編成・制作部門内にアナウンサー室はありましたが、これからはアナウンサー局として独立し、権限が強化されたようです。ほかにも法務やコンプライアンスなどのコーポレート機能部門を強化して、コンプライアンス違反の再発防止に取り組むようです」
このような取り組みは、騒動以降にフジテレビへCM出稿を見合わせていたスポンサー企業には好意的に受け止められている。
「7月からサントリーと大和ハウス工業がフジテレビへのCM出稿を再開しました。この2社が動いたことで、これまでCMをストップさせていたスポンサー企業も再開に舵を切るかもしれません」
着々と再生の道を歩み始めたように見えるフジテレビだが、テレビ業界関係者には今回の検証番組はどのように映ったのか。かつてテレビ朝日に勤め、現在はフリーのプロデューサーの鎮目博道さんに聞いてみた。
「港元社長や大多元専務の女性社員に対する対応などは、本人にインタビューを行ったりと、しっかりとした取材が行われているように見えました。しかし、番組で取り上げられた問題点は、基本的に外部の調査委員会がまとめた報告内容とほぼ同じ。フジテレビ社内の人間が調べたからこそ発覚した新事実などは出てこず、内容的には物足りなく感じました。
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また、改革を行うと宣言していますが、コンプライアンス研修をしますとか、社員教育を徹底しますなど、通り一遍な対応ばかりで具体的な改善案を示せてはいなかったと思います」
鎮目さんは、今回の検証番組がスポンサーと株主向けの幕引き番組にも見えたという。
社員のオンカジ問題は取り上げられず
「問題に向き合い、ガバナンスを正常化したので安心してCMを出稿してくださいと言っているようでしたね。この検証番組を、視聴者はもちろんフジテレビと一緒に仕事をしている外部の制作会社やフリーのスタッフが見た際にも、フジテレビに安心感を抱けるような番組に構成されていればよかったと思います」(鎮目さん、以下同)
トラブルとは別に、6月23日、フジテレビのバラエティー番組『ぽかぽか』で総合演出を担当していた社員がオンラインカジノで常習的に賭博行為をしていたとして逮捕。翌24日には、同番組にレギュラー出演していた山本賢太アナが書類送検されるなど、トラブルが尽きない。
「タイミング的にも検証番組内で、このオンカジ問題も取り上げるべきでした。結局、中途半端な検証で終わらせてしまっては、また新しいトラブルが発覚した際、さらに信頼を失ってしまうのではないでしょうか」
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不十分とも指摘されたフジテレビの改革。実際、フジテレビで働く社員たちからも“何も変わっていない”というこんな声が聞こえてきた。
「局全体でコンプライアンス確保や人権尊重を掲げているのですから、7月の人事異動では、これまでパワハラやセクハラ的な言動が目立った人は一挙に左遷されると思っていたのですが、実際はそんなこともなく。局内では“なんであの人が異動しないんだ”という意見が複数出ています」
過去に世間を騒がせた社員も、現在は何事もなく働いているという。
「バラエティー番組を多く手がけていた既婚者の男性社員が、2021年に既婚の女性タレントとダブル不倫疑惑が報じられて裁判沙汰になったことがありました。しかし、この男性社員は騒動の発覚から今日まで変わらず制作の現場にいます。むしろ今年4月から新番組を立ち上げて、プロデューサーを任されたりと、ずっとイケイケなんですよ」(フジテレビ関係者、以下同)
“結果”を残せば“やらかし”に寛容の社風
こうしたフジテレビの“寛容”な企業風土は、思った以上に根深いようだ。
「以前から指摘されていますが、フジテレビの社員同士は仲間意識が強く、それぞれの“やらかし”に寛容な雰囲気があると感じます。仕事で“結果”を残せれば、多少のヤンチャは許されるといった空気は、依然として残っていると思います」
内外からフジテレビの再スタートに対して懸念の声が上がっているが、CMの再出稿を決断したスポンサーは、どのように考えているのか。
サントリーホールディングスに、もし今後、再びフジテレビに大きなコンプライアンス違反が発生した場合の対応について聞いてみると、
「当社では、フジテレビの再生・改革プランの実行について、引き続き注視していきます」
とのことだった。
前出の鎮目さんは、フジテレビが抱える問題の根本的な原因について、このように分析する。
「フジテレビの上層部は、1980年代から1990年代までの全盛期をいまだに忘れられないのでしょう。だから、昔のやり方に固執して、世間の人権意識やコンプライアンス意識と乖離していったのだと思います。しかし、そもそもテレビというメディアは公共の電波を使っているのですから、一般的な考え方以上の倫理感が求められるべき立場なはずです。フジテレビに限らず、昔の価値観を変えられないテレビマンや芸能人は、潔く後輩に道を譲って引退するしかないと思います」
はたしてフジテレビは古い価値観から脱却できるのか、それとも─。