
「1回戦で負けてしまったので、獲ってくれるところがあるかはわからないんですけど......。プロ志望届を出して、上でプレーできたらと思います」
鈴木蓮吾(東海大甲府3年)は今後の希望進路を問われ、汗を拭いながらそう答えた。日本航空との山梨大会1回戦を戦った東海大甲府は0対3で敗れていた。
地方大会の1回戦で敗れるには、あまりに惜しい逸材だった。
【8回2安打の好投も初戦敗退】
日本航空と東海大甲府の対戦は、昨夏の山梨大会決勝と同じカードである。今夏は日本航空がノーシードだったため、1回戦から強豪同士の対決が組まれたのだった。
先発登板した鈴木は8回を投げ、被安打2、奪三振7、与四死球7、失点1と好投。とくに立ち上がりは持ち味のストレートが走っており、最速147キロをマーク。自己最速の149キロには届かなかったものの、実力を十分に発揮した。
|
|
山日YBS球場のバックネット裏には、多くのスカウト陣が詰めかけた。要職クラスが視察に訪れた球団も目立ち、鈴木の注目度の高さを物語っていた。
2025年のドラフト戦線で有力な高校生左腕といえば、江藤蓮(未来富山)や奥村頼人(横浜)がいる。鈴木は間違いなく、彼らと比較対象になるだろう。
鈴木の最大の武器は、「空振りがとれるストレート」にある。スピードガンの数字以上に加速感があり、捕手のミットを突き上げる。際どいコースでも、その爽快な球筋に思わず球審の腕が上がってしまいそうなボールである。
なぜ、こんなストレートが投げられるのか。鈴木は「肩周りが柔らかい」という要因を挙げつつ、自身の投球フォームについて語った。
「1年生の時から、指導者に『おまえは肩周りが柔らかいから、(右肩の)開きを我慢しないと、開きが早くなるぞ』と言われていました。それから右肩が開かないように、強く意識しています」
|
|
バックネット裏から鈴木を見ると、右肩を真っすぐに捕手方向に向けたまま体重移動し、一瞬で両肩の位置を入れ替えるようにして左腕が出てくる。打者からすると、突然ボールが現われるような体感だろう。
変化球は110キロ台のカーブ、120キロ台中盤のスライダーを軸に、チェンジアップとスプリットも操る。課題だった制球面は、この日も左打者への3死球を含む7四死球と荒れ模様だったが、指にかかったボールは捕手の構えたミットへと集まっていた。
【元プロの指揮官が称えたメンタルの成長】
東京都大田区出身の鈴木は、軟式クラブ・大森ホワイトスネークスでプレーしたあと、東海大甲府に越境入学している。1年夏からベンチ入りを果たし、同年夏の甲子園出場に貢献。甲子園での登板機会はなかったが、背番号10をつけてベンチに入っている。
昨夏の山梨大会では、山梨学院との準々決勝に先発。センバツベスト8に進出した強敵を1失点に抑え、完投勝利を挙げている。余勢を駆って決勝戦にも先発起用されたが、制球が定まらず、2回途中2失点で降板。チームも1対7で日本航空に完敗した。
昨夏の敗戦もあり、今夏の日本航空戦は期するものがあったのではないか。試合を終えた鈴木に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
|
|
「去年の決勝戦は2回で降りて、悔いの残る結果でした。今回も仲澤(広基)監督から『おまえにこの試合を託した』と言ってもらえて......」
それまで淡々と報道陣に受け応えていた鈴木だったが、初めて言葉に詰まり、目から涙がこぼれ落ちた。深呼吸をした鈴木は、こう続けた。
「今日は最後まで自分が投げて、去年の3年生の分まで勝ちたかったです。最後まで投げられず(8回裏に代打を送られて交代)、先に1点を取られて相手に流れを渡してしまって。また悔いの残るピッチングになってしまいました」
東海大甲府を指揮する仲澤監督は、巨人、楽天で内野手としてプレーした元プロ野球選手である。仲澤監督は鈴木に対して「よく頑張ってくれた」とねぎらいつつ、メンタル面の成長を口にした。
「味方にミスが出た時も、フォローするような姿が見られるようになりました。気持ちの面でブレなくなってきて、投球も安定するようになりました。今年のチームは、鈴木のチームでもあります。今日は鈴木にチームの全部を託して、投げてもらいました。去年の夏は『悪ければすぐに交代するから、次のピッチャーはすぐいける準備をしておいて』と言っていましたが、今年はエースらしい投球をしてくれました」
【試合後に明かした意外な課題】
スカウトは高校生を見る際、今の姿だけを評価するわけではない。フィジカル面で進化の余地を残す鈴木は、将来性を高く評価されるはずだ。
身長177センチ、体重70キロ。特に上半身は厚みが乏しく、まるで中学生のような細腕である。高校入学時点では、体重が59キロしかなかったと鈴木は明かす。
「食べても食べても太れなくて。汗をかいて、すぐに減っちゃうんです」
もしプロ野球選手になれたら、何が課題になると思うか。そう尋ねると、鈴木は意外な部分を課題として挙げた。
「自分は試合前に緊張しがちなので......。高校野球の初戦で緊張しているようだったら、プロで観客が大勢いるなかでは投げられないと思います。落ちついて投げられるようにしていきたいです」
夏は暑く、冬は寒いことで知られる甲府盆地。この日、甲府市の最高気温は35度に達した。最後に「甲府の暑さに慣れましたか?」と尋ねると、鈴木は苦笑を浮かべながらこう答えた。
「暑さにはだいぶ慣れたんですけど、それでも、まだ暑いな......という感じがします」
本格的に暑さが増してくる前に、終わってしまった鈴木の夏。くすぶった思いは、次のステージで晴らすしかない。