
今年もルートインBCリーグでは、個性的な選手たちが注目されている。6月26日、ベルーナドームにてBCリーグ選抜対西武ライオンズファームの試合が行なわれた。5月に鎌ヶ谷スタジアムで行われた日本ハム戦に続いて、今年度の選抜戦は2回目となる。その選抜戦や、日程の約半分を消化したリーグのなかで頭角を現してきた、ドラフト注目の選手たちを紹介する。
【4割、30盗塁を目指す栃木のスピードスター】
●桃次郎(遠藤桃次郎/えんどう・ももじろう)
2002年9月21日生まれ、神奈川県出身
(外野手・内野手、170cm/65kg、右投左打、白鴎大学→BC栃木ゴールデンブレーブス)
BC選抜のなかで特に目を引いた野手が、桃次郎(遠藤桃次郎)だ。白鴎大学からBC栃木に入団したルーキーで、俊足と高い打撃力を余すところなく披露している。7月12日時点(以下同)で打率.383はリーグ3位、盗塁は21でリーグ2位と、積極的な打撃とスピードでチームを牽引している。
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50mは5秒9、一塁到達スピードは3.72秒を計測したこともあるほど。小柄だが、ダイヤモンドを飛ぶように駆ける姿は、BC選抜戦でも強烈な印象を残した。2番・セカンドで出場し、3安打1打点の猛打賞。ボテボテのセカンドゴロを内野安打にする快足を見せると、盗塁も成功。捕手からの送球が悪送球になったと見るやあっという間に3塁を陥れた。
守備では、内外野の間に飛んだ打球を全力で背走して好捕するなど、守備範囲の広さを見せた。チーム事情からBC栃木でも主にセカンドを守っているが、登録は外野手で、本人も「外野のほうが得意」と話す。
「もともと足は速かったんですが、足をプレーに生かすことはできていなかった。大学3年くらいから足を生かせと言われ、意識してきました」
それが結果につながり、白鴎大学では4年になってから外野手のレギュラーをつかんだ。関甲新学生野球秋季1部リーグで優勝し、最多安打、最多盗塁のタイトルを獲得。ベストナインにも選ばれた。
野球は大学でやめるつもりだったが、大学生活の最後にチームを神宮大会に導けず負けたことが転機になった。
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「『もっと野球がしたい』と思いましたが、試合に出られるようになったのが4年からだったので、社会人に進むには遅かった。そんな時に、BC栃木から声をかけていただきました」
BC栃木は、今季から山下徳人監督(元ロッテ)を中心に元NPB選手の指導者が多く、過去にもNPB選手を多く輩出している。2023年には、やはり俊足の尾田剛樹が中日から育成ドラフト3位指名を受けている(現在は支配下選手)。
それ以前にも独立リーグからは、樋口正修(BC埼玉→現中日)や、岩田幸宏(BC信濃→ヤクルト)など、俊足タイプの野手がNPB入りした例が多い。もちろん足だけではNPB入りは難しいが、打撃や守備などで存在感を示せれば、可能性は大きくなってくる。
「性格は穏やかです。打席でも冷静。ある程度配球は読みますが、積極的に打ちにいきます。走塁でも、1球目から盗塁を仕掛けられる積極性が持ち味ですね。ヒットを1本打った"次の1本"も大事だと思っています」
短く持ったバットでヒットを量産し、すかさず走る。相手にとって"嫌な打者"であり続けるのが桃次郎だ。出塁率は5割、得点圏打率も4割前後をキープする。
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「目指す数字は4割、30盗塁です。試合数は大学より多いですが、NPBも試合数は多いですから慣れないといけない。後半は相手も対策してくるので、自分も研究と準備をして対応していきます」
秋まで好調が持続すれば、ドラフトに向けて大きく前進できるだろう。BCリーグのなかでも特にファンが多いBC栃木の応援を背に、誰にも負けない足で駆け抜ける。
【リーグNo.1左腕を目指す茨城の21歳】
●金韓根(キム・ハングン)
2004年4月7日生まれ、東京都出身
(投手、178cm/87kg、左投左打、東海大中退→BC茨城アストロプラネッツ)
6月26日のBC選抜戦では、西武のファームを相手に1イニング無失点、三振ひとつ。わずか7球で片づけた。
父は中国人、母は韓国人だが、日本生まれの日本育ち。「アイデンティティは日本人と同じ」というユニークなプロフィールの左腕。NPBを見て育ち、NPBを目指す21歳だ。そこまで上背はないが、がっしりした体つきで、ストレートには球速以上の球威を感じる。得意な球種はスライダーとチェンジアップだ。
東海大を中退したあと、BC茨城へ。大学とは違い「独立リーグはNPBへ行くための場所。大学なら4年間あるけれど、独立は1年ごとが勝負です」と、一戦一戦が勝負という重みを肌で感じている。
BC茨城はフィジカル面の強化に重きを置くチームだ。食生活、体組成管理、トレーニングと多方面から強化を行ない、シーズン中も徹底してトレーニングを実施する。
「オフから体作りをしてきて、増やした筋肉をちゃんと速い動きに生かして、球速やパフォーマンスにつなげていく取り組みをしています。ピッチングがまったく変わってきたことを実感しています。軽く投げた球の勢いも変わって、ちゃんと力が伝わっていると感じますし、球速も伸びてきました」
最速145キロだったストレートは今季148キロを計測。成績は9試合(先発6)に登板して2勝0敗、防御率2.70だ。
BC茨城の巽真悟監督(元ソフトバンク)は、金の長所を「いろいろな球種でストライクが取れるところと、三振がほしいところで低めに集めてしっかり三振を取りきれるところ。あと、年齢のわりにマウンドさばきが落ち着いていて、大人な投球をするところ」と評する。
マウンドでのメンタルの強さは折り紙つきだ。「監督からは『楽しめ』と言葉をいただきました」と、BC選抜戦も平常心でこなした。巽監督は「夏場で少しスピードが落ちているところが課題」と指摘しながらも、「この課題がクリアできれば、リーグで一番いい左ピッチャーになれる」と期待する。
座右の銘は「I AM THE BEST」。帽子のつばにもそう書いてある。まだまだ足りない部分もあるが、「BEST」の自分を作り上げていく。
【センスが光る埼玉のスラッガー】
●大城龍馬(おおしろ・りょうま)
2002年5月11日生まれ、東京都出身
(外野手・内野手、172cm/84kg、右投右打、創価大学→BC埼玉武蔵ヒートベアーズ)
この時期のBCリーグは、まだドラフト候補が絞られておらず、多くの選手が「候補」であるといえる。6月26日のBC選抜戦には選ばれていなかったが、攻守に光る存在としてBC埼玉の大城を挙げておきたい。
大城は日大三高から「日本一になりたい」と名門・創価大学へ進んだ。
「組織的な野球で、つなぐ意識や犠牲心を学びました。人間的な成長が大きかった」
試合に出始めたのは大学2年からで、3年時には東京新大学リーグでベストナインを獲得。社会人チームへの入団も内定していたが、スカウトがチェックし始めたこともあり、本気で「プロ」という道を考え始めた。ただ、ケガもあって思うような活躍ができず、周囲からは「あきらめたほうがいい」と言われたこともある。
「それでも、0.01%でも可能性があるなら」
本気でNPBを目指すため、決まっていた社会人チームに断りを入れ、「1年だけ」と決めてBC埼玉の門を叩いた。
登録は内野手だが、チーム事情で外野を守る。大学時代から慣れたポジションであり、ファインプレーで何度もチームを救った守備にはセンスが感じられる。
巨人の門脇誠は大学の2年先輩にあたり、オフに一緒に練習することもあるという。譲り受けた内野手用グラブは今のところ出番がないが、守備の名手である先輩に学んだことは、外野守備にも生きている。
一番の魅力は、パンチ力のあるバッティングだ。広角に強い打球が飛び、逆方向へ伸びる本塁打も打てる。打率は.265 ながら、本塁打は7本とリーグ4位タイだ。
「配球とか読みとかを考えてしまうと打てなくなってしまうので、打席ではその球に集中します。相手投手については動画も見ますし、研究はたくさんしますよ」
BC埼玉の監督は、今季から清田育宏(元ロッテ)が務めている。攻守に秀でた選手だった清田監督からは、タイミングの取り方など学ぶことが多い。さらに元楽天の枡田慎太郎コーチも熱い指導を行ない、しばしば"鬼ノック"を受ける姿が見られる。
「大学では『勝って当たり前』というなかで、リーグ戦から続けて上のステージで勝っていくという練習をしていた。僕は練習が厳しい環境のほうがいいですね。夏に向けてはもうひと回り、ふた回り体を大きくしてやろうかと。あと、スピードも見せていきたいです」
そう話す大城は、真夏に向けて体調も万全。今後さらに状態を上げていければ面白い存在になる。
休日の気分転換を聞かれると首を傾げるほど、今は野球漬けの日々だ。リーグ戦と並行して西武、ソフトバンク、巨人といったNPBのファームとの試合もこなして結果を残してきた。大学時代よりもはっきりとNPB入りが見えてきて、「この1年」にかける気持ちは強まっている。
以上の3人以外の選手も含め、ドラフト候補たちの真価が問われるのはこれからだ。7月から9月にかけて結果を残せるか、どう成長を示せるかがドラフトに直結する。
今はまだ、多くの選手に可能性がある。楽しみに後半戦を見ていきたい。