大谷翔平が戦い続ける「完全二刀流」への懐疑的な固定概念 その常識を封じ込める三者連続奪三振劇とさらなる成長の可能性

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2025年07月15日 18:10  webスポルティーバ

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後編:31歳・大谷翔平の現在地

大谷翔平がロサンゼルス・ドジャースでも二刀流選手としての道を歩み始めたシーズン前半。投手復帰後、打撃成績が低下したが、メジャーリーグに根付く"二刀流は無理"という固定観念とひとりで戦い続けるなか、打者としては大物ルーキーから本塁打を放ち、投手としては100マイルの速球を駆使して三者連連続奪三振劇で周囲を黙らせている。

前編〉〉〉父親&31歳となった大谷翔平の変化と成長

【投手復帰後の打撃成績の降下にも泰然自若】

 6月16日の投手復帰登板後、大谷翔平の打撃成績に変化が見られた。復帰時点で打率.300、OPS(出塁率+長打率)1.039と圧巻の数字を誇っていたが、その後は打率.276、OPS.988まで低下。依然として高水準だが、「1番・DH&投手」という"完全二刀流"での出場は負担が大きすぎるのでは――そんな問いを、しばしば受ける。それは、大谷が3度のMVPを受賞し、球界の顔となった今も、"二刀流は無理"という固定観念が球界やメディアに根強く残っているからだ。大谷は、ひとりでそうした常識と闘い続けている。

 投手復帰が打撃に影響を及ぼしているのではないかと問われ、こう語った。

「打席で"すごく悪い"という感覚はないです。捉えたと思った打球がセカンドゴロになったり、ちょっとしたズレがある。不調の時って、そういう感じじゃないかと思う。逆に言えば、少しの感覚の違いですぐ戻ってくることもあるので、そこは練習で補っていくしかないかな」

 そんな大谷が"魅せた"のが、7月8日のミルウォーキー・ブルワーズ戦だった。相手先発は注目の若手右腕、ジェイコブ・ミジオロウスキー(23歳)。身長201cmの長身から繰り出す100マイル(160キロ)超の速球は、リリースポイントが打者寄りで体感速度も速く、極めて打ちにくい。今季のメジャーデビュー戦では5回ノーヒットの快投で衝撃を与えた。

 初回、大谷への初球は100.3マイルのフォーシーム。カウント2ストライクと追い込まれながらも、大谷は3球目のカーブを完璧にとらえ、中堅越えの先制ソロ本塁打を放った。2打席目は空振り三振、3打席目は四球。試合はミジオロウスキーが6回1失点、12奪三振の快投で勝利投手となったが、大谷も若武者の挑戦に一歩も引かなかった。

 試合後、大谷は相手右腕について「どの球種もアグレッシブですばらしかったし、何より制球がよかったと思います」と評価。そのうえで「欲を言えば、2打席目(3回無死二塁)で最悪でも進塁打が打てていれば、2対0の(試合)展開もまた違ったものになったかもしれませんね」と、冷静に振り返った。打席内で感じる"ズレ"について問われるとこう答えている。

「今日の四球もそうですが、ボール球自体はしっかり見極められている。そういう打席が増えてくれば、自然とヒットにも近づいていく。ホームランも増えて、得点機会も増えていく。だからこそ、クオリティの高い打席をしっかりと積み重ねていきたいです」

【なぜ大谷に続く二刀流選手が現れないのか?】

 残念に思うのは、大谷が二刀流でこれだけスポーツファンを熱狂させ、野球の娯楽性を高めているにもかかわらず、彼に続く選手がなかなか現れないことだ。

 5月、ロサンゼルス・ドジャースのディノ・エベル三塁ベースコーチと話す機会があった。長男のブレイディ・エベル内野手が、ロサンゼルス近郊のコロナ高校でプレーしており、MLBドラフトの1巡指名候補と見られていたからだ。実は今年のコロナ高校には1巡指名候補が3人もいた。そして7月13日(日本時間14日)のドラフトでは、セス・ヘルナンデス投手が全体6位でピッツバーグ・パイレーツに、ビリー・カールソン遊撃手が10位でシカゴ・ホワイトソックスに、そしてブレイディが32位でブルワーズにそれぞれ指名された。この3人はいずれも高校時代は二刀流で活躍していた。そこでエベルコーチに「息子さんがプロでも二刀流に挑戦する可能性は?」と尋ねたところ、彼ははっきりと答えた。

「それは考えていません。プロのレベルで二刀流を続けるのは本当に難しい。大谷翔平は唯一無二の存在です。将来的に、彼のような選手が現れる可能性を否定するつもりはありませんが、現実的には非常に大変です。ブレイディも高校では11勝0敗、防御率0.32という成績を残しましたが、私は『メジャーを目指すなら、どちらかひとつに絞るべきだ』と伝えました。彼もそれを理解していて、今はショートを中心にプレーしています」

 父親として、息子により確実な成功を望むのは当然のことだ。だからこそ、メジャーリーグ機構と選手会が、大谷のような選手を"特別な例"で終わらせず、野球界全体の魅力を高めていくために、彼に続く才能を生み出す方策を本気で考えていくべきだと思う。今が千載一遇の機会だ。

 しかしながら現実には、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーと、選手組合のトニー・クラーク専務理事は、「収益分配」をめぐる攻防に追われている。現行の労使協定は2026年12月に失効するが、一部のオーナーは新協定でサラリーキャップの導入を強く求めており、これに対して組合側は断固反対の立場を崩していない。関係者の間では、労使交渉が決裂し、2027年シーズンがキャンセルされるのではないかという深刻な懸念も広がっている。そしてそうなれば大谷が32歳から33歳を迎えるシーズンが丸ごと失われることになる。その損失は、本人にとっても、野球界にとっても、そしてスポーツの歴史にとっても、計り知れないほど大きい。

【大谷の凄みを見せつけた三者連続奪三振劇】

 先のことを心配するのは、ひとまず置いておこう。7月12日のサンフランシコ・ジャイアンツ戦、今季5度目の「二刀流」での出場で、大谷は見事なピッチングを披露し、後半戦でのさらなる飛躍を予感させた。圧巻だったのは初回の投球だ。先頭のマイク・ヤストレムスキーを99マイル(158.4キロ)の速球で空振り三振に仕留めると、続くヘリオット・ラモスも99.9マイルのフォーシームで空振り三振。そして3人目のラファエル・デバースにはスライダーでスイングを誘い、三者連続三振。前回登板(ヒューストン・アストロズ戦)に続く、2イニング連続での「三者連続奪三振劇」となった。

 この日の大谷の投球について、ドジャースのロバーツ監督も興奮気味に語った。

「すべては翔平から始まった。彼が登板する日は、チームの雰囲気が明らかに違う。初回の三者連続三振で、その流れができた。翔平が流れをつくり、チームにすばらしいスタートをもたらしてくれた」

 2回は2死から李政厚に対して4球連続ボールで四球を与えたものの、すぐに修正。内角にスイーパーと速球を巧みに織り交ぜ、ケイシー・シュミットを詰まらせて3アウト目を奪った。3回はドミニク・スミスをポップフライに打ち取り、パトリック・ベイリーをスライダーで見逃し三振。ヤストレムスキーにヒットを許したが、最後はラモスを中飛に打ち取り、計36球で3イニングを無失点に抑えた。

 ドジャースはこの試合を2対1で制し、連敗を7で止めた。チームに勢いを呼び込むその投球は、大谷がただの投手ではなく、勝利をもたらす力を備えた「真のエース」であることをあらためて証明した。連敗中の登板というプレッシャーのなか、どのような気持ちで臨んだのかと問われると、こう語った。

「先制点を与えないのが先発ピッチャーの役目なので、そのなかで長いイニングを投げていくということを意識しました。今日はいい立ち上がりだったと思います」

 二刀流復帰後、最長となる3回を投げきったことについては、「球数も少なめに3イニングを投げられたのは、いい進歩。比較的コマンド(制球)が安定していて、常にゾーンを攻められたことがよかった要因かな」と振り返った。この日は全36球のうち23球がフォーシームと力で押した。

「今日はストレートでいけそうな雰囲気があったので、どんどん投げました。そうじゃないときは変化球でカウントも空振りも取れる。どちらを選んでもいけるというのが理想」

 速球は、投手大谷の"原点"でもある。しかし、そのこだわりには年齢とともに変化もある。

「速い球を投げるというのは、小さい頃から憧れていたこと。速いピッチャーが好きで、そこを目指してやってきた。今もそれは好きですけど、最近は変化球を投げて打者を崩す楽しさも感じています。100マイルだけを投げるんじゃなく、100マイルも投げられるというのが、今の自分の武器かなと」

 スイーパー、スライダー、スプリット、カッター、カーブなど多彩な変化球を自在に操り、制球力と駆け引きでも勝負できる。投手としての完成度が高まっている。速球がこれだけスピードが出ていると、ケガの再発を心配する声もある。しかし、その懸念を払拭するように、大谷は「勝手に球速が出ている感覚があるので、それが一番いいことじゃないかなと。コマンドを重視しながら、まずリズムをつくることを第一に考えて、自然に球速が出ている。そこが今の一番よいところかな」と語った。

 20代前半と変わらぬ体力、そして31歳の経験値。すべてを兼ね備えた大谷が、後半戦に再び「二刀流」で大暴れし、ドジャースを優勝へと導く姿に期待したい。

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