
郊外のショッピングモールの駐車場などでよく目にする、威圧感ある黒塗りのアルファードやヴェルファイア(以下、アル・ヴェル)の最新モデル。降りてくるのは得てして子連れの若いカップルだ。しかし、アルファードはベースグレードでも500万以上する高級車なのだ。まだまだ子育てにも出費がかさむであろう彼らが、なぜそんな高級車に乗れるのか。
関西で、中古車買取業を営む戸次健太郎さん(仮名)が明かす。
「製品の信頼性も高く、市場で確固たる地位を気づいているアルファードやヴェルファイアは、残価率(リセールバリュー)が高い。アルファードの3年後の残価率は、おおむね8割ていど。つまり、510万円で新車購入したとしても、3年後には400万円で売却することができるのです。3年間の間に大幅な値上げがないことがないとすれば、100万円ちょっとの持ち出しで、新車を買うことができる。
アル・ヴェルの若いオーナーは、自動車ローンを利用し、金利分を含めても月3万円ちょっとの支払いで、3〜5年ごとに新車を乗り継ぐという手法をとっています。さらにローン利用者の多くが契約する残価設定型ローン、いわゆる"残クレ"では、将来の買取額が保証されているため、車体価格に比べ低負担で安定した『新車乗り継ぎ』が可能です」(戸次さん)
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■無敵の残価率に低迷の兆しが!?
しかし、一見サスティナブルに見えた「アル・ヴェル転がし」に暗雲が垂れ込めているという。
「最近、中古車相場が下落の兆しを見せています。そのなかでもアル・ヴェルの相場は顕著で、値下がり幅はモデルやカラーによりますが、全体的に、過去1年間で1割弱は下落している。つまり、新車購入後3年で400万円で売れていたものが、360万円でしか売れなくなってきています。次の新車に乗り継ぐ原資が減る一方で、新車価格は値上げ傾向が続いている。したがって、これまでのような低コストでの新車乗り継ぎは不可能になりつつあるのです。今後は残クレで設定される買取額が低下したり、ローン金利・手数料が上昇したりする可能性はあるでしょう」(前同)
事実、中古車検索サイト「車選びドットコム」が公開している中古車の買取相場を見ても、6月のアルファードは326万4000円となっており、昨年同月の357万4000円から1割弱も下落している。
高残価率を誇ってきた超人気車種の中古車相場下落について、戸次さんはこう分析する。
「コロナ禍には、半導体不足やサプライチェーンの混乱で、新車の生産が遅滞し、中古車の需要が高まりました。こうした一時的な新車供給の停滞は、コロナ収束後の中古車市場にも影響し、アル・ヴェルを含め利幅の大きな高価格帯の人気車種のタマ不足状態が続いていた。
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そのため買取業界は高価買取を打ち出し、高残価に繋がっていた。現状の残価率の下落は、そうした状況が落ち着いてきたため。正常値に戻ってきたと言ってもいいと思います」(前同)
■海外情勢も残価率に影響
一方で、戸次さんが更なる下落につながる要因として警戒するのが、海外需要だ。
「日本で買い取られた中古車のうち、2〜3割は東アフリカや中東、シンガポールやオセアニア、香港など右ハンドルの国や地域を中心に海外輸出されている。軽自動車を除けばその割合はさらに高く、特に中東や東南アジア、香港で人気の高いアルファード・ベルファイアについては、4割弱が海外に輸出されているとみられます。
ここ数年は円安による割安感が日本の中古車の海外需要を後押ししていたが、日銀の利上げもあり今年に入って円高に振れている。今後、円相場が大幅に上昇すれば、国内の中古車相場も下落することになる」(同)
さらに中東情勢も懸念事項だという。
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「アメリカに国内の核施設を攻撃されたイランが、報復としてホルムズ海峡の封鎖をちらつかせていて、石油供給への影響が不安視されていますが、日本の中古車輸出にも影響がある。アラブ首長国連邦は日本からの中古車の一大仕向地で、船でホルムズ海峡を経て同国に集積された中古車は、中東やアフリカへと運ばれる。中東は中古アル・ヴェルの輸出がさかんな地域なので、ホルムズ海峡鎖となればそれらの市場への供給が滞ることになり、国内で中古車在庫がダブついた結果、国内中古相場の値崩れを起こすことになります」(同前)
この後もアル・ヴェルを乗り継ぎたい残クレ民は、中東和平を祈るべき!?
文/吉井透 写真/iStock.com