阪神森下翔太外野手(24)が7月2日の巨人戦(甲子園)で見せた「神の手」ホームインが話題を呼んだ。連勝中だった阪神をさらに勢いづかせる超絶走塁が生まれた背景には、隠れた好判断があった。阪神の旬の話題に焦点を当てる日刊スポーツの随時企画「虎を深掘り。」。第12回はドラマを演出した三塁コーチの田中秀太内野守備走塁コーチ(48)の視点であのプレーを振り返る。【阪神取材班】
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ほんの少しの迷いや判断ミスがあれば「神の手」の前にアウトになっていた。0−0の8回2死一、二塁。試合が動かないまま終盤へ。1点を取るか、取られるかの状況で、大山の痛烈な打球が、遊撃・泉口の目の前で大きくはねた。左肩に当たり、中堅方向に5メートルほど転がった。三塁コーチの田中コーチは瞬時の判断を迫られた。
田中コーチ 展開を見ていて、何かをしなければこの試合は動かない、終わらないと思った一戦でした。そうしたら、ああいうチャンスが巡ってきました。
二塁走者の森下は、2死なので打ったと同時にスタート。目の前を打球が通過したが、何が起きたか明確には見えていなかった。「田中コーチが回していたのが見えて、イレギュラーかエラーだろうなと」。腕を回すタイミングが絶妙だった。森下は三塁が近づいてもスピードを落とさず、三塁ベース手前でコーチの腕が激しく回ったのを見て、もう1度トップギアに入れた。途中でほぼ減速せず、7秒台で本塁に到達。走る側も、走らせる側も「本塁」を強く意識していたことで、本塁勝負のタイミングまでもっていけた。一瞬でも緩めていれば、間に合っていなかっただろう。
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田中コーチ 泉口君がそらしたあとのボールはおそらく泉口君が捕りにいくと思った。泉口君が捕ったら、ホームをとれる可能性は高いと。姿勢や角度、ステップとかを考えたら、(野手から見て)左側のボールを捕って、本塁に強いボールは投げられない。
遊撃が本職だった同コーチが明確な根拠を明かしたが、ここで誤算があった。二塁手の吉川が、瞬時の判断でカバーに来たのだ。素早く拾うと、よどみなく本塁に送球した。同コーチは「吉川君が遊撃寄りに守っていたのは知っていたけど、泉口君の方がボールに近く見えた。吉川君のカバーがめちゃくちゃ速かった。まさかと。拾ってからも速かったので、これは厳しいかと思いました」と、巨人に完璧なリカバリーをされていたことを明かした。
両チームのぎりぎりの判断がぶつかり合って、本塁はクロスプレーに。森下は1度目のタッチは大きく回り込んで避けたが、ベースは触れない。再アタックで甲斐のタッチを左手を引いてかわすと、体をひねりながら右手を滑り込ませた。アウト判定だったがリクエストで覆った。1−0。これが決勝点になった。
森下は「もう1点ゲームだと思ったので、本当に必死だったというだけですね。なんとかホームベースを触ることだけを意識してました」と振り返った。「結局、森下がああいうスライディングしてくれたので、僕も助かった」と田中コーチ。展開的にギャンブル要素もあったかもしれないが、思い切りの中に冷静な判断が光る渾身(こんしん)のジャッジメントだった。
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