参議院選挙の投開票日が間近だ(7月20日)。これほど「変数」が多く、結果が読みづらい国政選挙も珍しい。
もともと衆議院で少数与党となっている自公の苦戦、一枚岩になれず個々で戦う立憲・維新・国民、そして"旋風"を巻き起こしている参政党......。
これまで300以上の選挙に携わってきた選挙プランナーの松田馨氏と、自動化技術やデータサイエンスを生かした世論調査、選挙予測・分析を得意とするJX通信社代表・米重克洋氏に、7月20日投開票の参院選各党の現状と戦略を分析してもらった! 前編では自民党の劣勢や参政党の影響などについて言及したが、今回は「外国人」問題や各党のネット戦略の影響などを語る。
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■外国人というテーマが「発見」された
米重 都議選投開票日の1週間前に、世論調査で「重視する争点」を聞いたところ(複数回答可)、一番は物価高対策、次に雇用・賃金、医療・福祉・介護......と続いて、7番目に「外国人・インバウンド対応」が入りました。7番目といっても、17.1%です。
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――6人に1人! それは多いですね。
米重 教育・子育てと答えた人は11.7%だったので、それよりずっと多くの人が「外国人をなんとかしろ」と。そして、そのうち2割くらいの人が参政党への投票意向を示しました。私はここが非常に大きなポイントだと思います。
右派的なイデオロギーと、「外国人」に対する不満――それは労働力的な観点もあれば、インバウンドのマナー、文化の違いといった部分もあると思いますが、ここをイシューとして真正面から提示して伸びたのが参政党です。
このあたりの心情は、おそらく自民党を支持している人の中にもあると思います。そして自分を保守層だと思っている人ほど、石破政権を「左」だと見ていて、今の自民党には票を入れない。
そう考えると、参政党がこのまま伸びていった場合に、参院選で自民支持層をどのくらい「溶かす」のかは極めて重要なポイントですね。
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松田 そういった流れもあってか、自民党の参院選公約には「違法外国人ゼロ」という項目がありました。率直に言って、かなり強い言葉です。関心の高まりを意識して強く書いたのかなと感じます。
――国民民主党や日本維新の会も都議選の後、「外国人」の問題に対処すると打ち出す場面が増えたように感じられますが、やはり参政に引っ張られているんでしょうか。
米重 善しあしの議論はここでは避けますが、「外国人」というテーマが、明確に選挙で票が取れるものとして「発見」されつつあるんです。
今年5月のさいたま市長選でも、そういった公約を掲げた候補が3位に入ったのですが、地域ごとの得票を見ると、クルド人に対するヘイトスピーチなどの問題が生じている川口市に隣接するエリアでは2割近い得票率でした。
――あらためて、参院選での参政党の勢いをどう見ますか?
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松田 比例代表では3〜5議席。それくらいは見えていると思います。
――5議席となると、票数は400万台〜500万超。かなりのインパクトがありますね。
米重 今回、公明党が比例では5議席くらいと予想されていますから、それに匹敵するか上回る勢いがあるということになります。
それに、都議選では4選挙区にしか候補を立てませんでしたが(3議席獲得)、選挙区内での得票率は8〜10%に達しています。あえてこの得票率をそのまま参院選の東京選挙区(今回は定数7)に当てはめれば、十分に当選ラインを超えてきます。
――衆院選はすべて小選挙区ですが、参院選の複数人区では、各候補の選挙戦術としてはどういう戦い方になるんでしょうか。
松田 これはある意味単純で、自分たちの支持層を固めれば当選ラインに届くなら、とにかくそれだけやっていればいい。無党派対策は二の次ですね。
ただ、従来の支持層だけではどう考えても届かないとなれば、どこから票を取っていくか考えてメッセージなり運動なりを打つ必要があります。
■共産党や公明党の挑戦的な広報
――都議選では、れいわ新選組が獲得議席ゼロだったことも大方の予想とは違いました。
松田 もともと東京では、れいわの政党支持率は参政党より高かったんです。山本太郎代表が参院選の東京選挙区で当選してきた実績もありますし、一定の地盤があった。
都議選で山本さんがなぜあまり応援に入られなかったのかなども含めて、よくわからないところもあります。
米重 全国での支持率でいうと、昨秋の衆院選から今年の2、3月あたりまではやや上昇トレンドでした。しかし、それ以降は伸びていない。
理由としては、れいわが以前から消費税減税といった政策を言い続けていたところに、物価高対策の一環として各党が減税というテーマを取りにきたため、埋没してしまった可能性はあると思います。
松田 日本共産党は田村智子委員長の就任後も、毎回の大型選挙で苦戦している印象ですが、これは構造的な問題です。支持層が高齢化し、新しい支持者をなかなか獲得できていない。
もちろん試行錯誤はされていて、例えばインスタやYouTubeで、田村委員長が『セサミストリート』みたいなキャラクターのパペットとかけ合いをする番組があったり(笑)。不思議な空気感でけっこう好きなんですけど、見たことあります?
米重 私はないですね。あまり拡散されていないのでしょうか。
松田 そうなんですよ。危機感があってか、面白い取り組みもされているんですが。
公明党も構造は似ていて、支持者の高齢化に伴って、選挙区での苦戦のみならず比例票も下がり続けているんですが、踏ん張れるかどうか。公明党はYouTubeのサブチャンネルがすごく話題で、党のイメージを変えるための挑戦的な広報をやっています。
■一強他弱時代が終わり、"多党時代"に突入?
米重 ただ、やはり政党にも世代交代みたいなものってあると思うんです。そういう時期に差しかかり始めているのかもしれない。
松田 19年の参院選ではN国とれいわが、22年の参院選では参政が、2%以上の得票率で政党要件を満たし、議席も獲得しました。
今回も、昨年の東京都知事選に出馬した石丸伸二さんの再生の道や、安野貴博さんのチームみらいは、候補者を10人以上立てて2%以上の比例得票を得ようという仕掛けをしています。一方で、社民党はいよいよ議席が取れるかどうか厳しいところにいる。
米重 再生の道もチームみらいも、ネット戦略に重きを置いていますね。ネットでの選挙活動は、全体の投票の中の数%を取ることを目標にしていた2010年代を"フェーズ1"とすれば、昨年あたりから"フェーズ2"が始まったと感じています。
都知事選でも衆院選でも、全体の中で数十%を取るゲームにネット選挙を大きく活用していくことができるようになった。ネット地盤の構築に取り組まないと、もはや有権者とのコミュニケーションとか接点を作ることができない時代です。
松田 自民は支持層が少しずつ削れてきているし、野党の側も、NHKの世論調査ベースではなかなか支持率が10%に届かない。安定して10%以上の支持率を取り続けた旧民主党のような、単独で政権を狙える野党はまだ生まれそうにありません。
米重 "多党制"とまでは言いませんが、そういう状況に向かっているような感じもします。メディア環境なども含めて、特定のイシューでエッジを立たせて議席を取るみたいなことがやりやすい構造になってきたというか。
松田 結果次第で連立の枠組みが変わってくる可能性もありますし、今回の参院選がそのひとつのきっかけになるかもしれません。
■各党の「ネットでの勢い」をどう評価するか
――最近はよく政党の広報や演説のショート動画がSNSで出回っていますが、アルゴリズム次第で、個人個人が見ているタイムラインは違いますよね。その中で「この政党は勢いがあるな」というような観測や分析は、どうやっているんでしょうか?
米重 まず、世論調査は重要です。例えば政党支持率の数字自体はまだ小さくて、なかなか変化が観測できないときでも、規模の大きい調査をするときに、情報源ごとに支持政党を聞いていくんです。
そうすると、例えば「YouTubeをメインで使っている人の中ではこのくらい支持が上がっている」といった数字が出てくるので、勢いはけっこうわかりますね。割とプラットフォームごとに閉じた感じになるんです。YouTube、X、TikTokとか。
松田 YouTubeなどはAPIが提供されているので、チャンネル登録者数がどれぐらい伸びたかとか、あとは平均再生数、再生時間などの数字を見ます。参政党は支持率が上がる前後ぐらいから、YouTubeの数字が伸びていました。
ただ、厄介なのがTikTokで、APIの公開が限定的なんですよ。だから定量的な分析が非常にやりづらい。検索をしたときの出方とか、切り抜き動画の再生数やコメント、あるいは例えば「自民党はネガティブ情報ばかり出てくるな」とか、そういう情報を積み重ねて見るしかないですね。
仕掛ける側の話をしますと、アメリカでは「アウトリーチ戦略」といって、対象を絞り込んでメッセージを広告で当てまくるということをやっています。日本も今後そういう方向になっていくんじゃないかなと思うんです。
要するに、投稿で出なくても、無理やり広告で見せる。広告で見せれば、その後は表示されやすくなる。そういう形です。TikTokは政治系の広告を禁止しているので今のところできませんが、YouTube広告の活用はこの1年でものすごく進みました。
米重 どういう所に、どれぐらいのボリューム感のターゲットがいて、そのターゲットにどういうメッセージを届けたら、より支持を獲得できるのか。いよいよ日本でも、そういうことが選挙戦略としてかなり重要な時代に入ってきているかもしれません。
松田 だから「分断」になっちゃうんですけどね......。
米重 高齢者/若者とか、外国人/日本人とか、所得の高い人/低い人とか、いろいろな方向でいくらでも切れちゃいますので。
松田 そうなってくると、ますます自民党は苦しいでしょうね。自民党って、非常に幅広く、全年代を全部責任取りますっていう与党でしたから。
国家運営を担ってきた政党として、財源論についても慎重ですし。しかし、そうなると受けが悪いし、打ち出す政策も含めて複雑になるんですよね。SNSと相性が悪いです。
米重 社会全体に余裕がなくなる中で、各層の利益を代表するような政党、政治団体みたいなものが勃興していく。すると、これまでは人的なネットワークも含めた統治機構としてそれを全部ホールドしていた自民党的なものが、だんだん外から食われていき、細かい利益を代表する中小規模の政党として乱立していく――そんなイメージでしょうか。
松田 台湾のオードリー・タンさんが、対話と相互理解を促進し、協力関係をつくっていくためのツールとして、AIも活用した「橋渡しシステム」を開発されています。分断の時代に大きな可能性を感じました。結局、政治っていかに利害の対立を調整して合意形成するかですから。
今までは政治家が"密室"といわれるような、ほとんど有権者の関心がない所で決めても問題になることが少なかったわけですが、これだけSNSも含めて可視化される時代になると、合意形成のプロセス自体を見せていかないと、政治家も信用されない。
米重 橋渡し。そうですよね。でも、それって多数決で決着をつける選挙っていうゲームと相性が良くない。
松田 そうなんですよ。そこが難しいですね。
●米重克洋 Katsuhiro YONESHIGE
JX通信社代表。1988年生まれ。大学在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。世論調査の自動化技術やデータサイエンスを生かした選挙予測・分析に加え、報道機関や政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するサービス「FASTALERT」、ニュース速報アプリ『NewsDigest』も手がける
●松田馨 Kaoru MATSUDA
選挙プランナー。1980年生まれ。株式会社ダイアログ代表。2006年7月の滋賀県知事選挙で初当選した嘉田由紀子氏のPRプランナーを務めたことをきっかけに、地方から国政まで全国300を超える選挙に携わってきた。現職に挑戦する無所属・新人の依頼も数多く引き受けながらも通算勝率は7割超。テレビ・配信ドラマや映画の選挙監修も多数
撮影/五十嵐和博(対談) 写真/共同通信社