
7月16日、ラッパーのエローンが“大概スピってる”と題した曲を発表した。
ヒップホップグループ・韻踏合組合(いんふみあいくみあい)のメンバーであるエローン。“大概スピってる”は、9日にXに投稿した、排外主義に対抗するリリックに節を加えたものだ。
参議院選挙の投票日が近づき、外国人への対応が争点の一つとも言われるなか、音楽シーンでもさまざまな主張が繰り広げられている。
外国人をめぐる問題は、どのようにとらえるべきなのだろうか?
エローンが発表した“大概スピってる”が対抗しているのは、「外国人が優遇されすぎている」といった、排外主義や外国人嫌悪的な考え方だ。
7月20日に投票・開票日を迎える参院選を前に、SNSなどではこのトピックがさらに注目されている。
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音楽の領域では、6月6日に発表された楽曲“団結前夜(Beat by Yuto.com)”が注目された。
YOS-MAG、輪入道、十影、Metisにより制作されミュージックビデオが公開された同曲。
<なんでチャイニーズ優遇?? 日本で生きる日本人が窮屈><見渡す限り歩行者外人 人類平等 それの裏返し>といった歌詞で、外国人の優遇や、外国人が増えていることに対する危機感を歌っている。
この“団結前夜(Beat by Yuto.com)”に直接的に対抗したのがWorldwide Skippaだった。
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<排外主義の曲はラップ自体ダサくて助かる><インターネットがソースのヘイト><中国人がどうやって優遇されてるか詳しく教えてくれよ><見渡す限り外国人? 国籍は見た目だけじゃ分かんねーし>と続き、“団結前夜(Beat by Yuto.com)”の歌詞の一つひとつに反論を示している。
さらに7月9日、エローンは自身のXで“大概スピってる”のリリックを発表。
<あいつもこいつも排外主義者 差別と気づかず大概スピッちゃう><俺は娘の同級生の移民にシェイシェイ 息子のツレの親の店でチャプチェ食って 職場で特定技能にレクチャー><弱者に厳しい社会にはしたない マジで怖い無自覚で差別的>といったリリックを並べ、外国にルーツのある人は身近な存在であること、そうした人たちに対し、気付かぬうちに差別的な思想をもってしまっていることを指摘した。
SNSでは外国人の対応や政策をめぐる意見が広がっているが、実際に、一部の政党やラップが訴えるほど、外国人は優遇されているのだろうか?
SNSでは外国人留学生をめぐって「中国人留学生に年間290万円支給」「国費外国人留学生の優遇」など、外国人留学生が日本人より優遇されているといった投稿が目立っている。
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国費で来日する留学生は留学生全体の2.8%に満たず、東京大学の教授も留学生の優遇を否定した。
技能実習制度を利用して来日する外国人も多く、そういった人たちが担うのは、介護や農業といった日常生活を支える産業だ。しかし、労働時間や賃金支払いに違反が多く、人身取引の被害や賃金の差し押さえといった人権侵害も発生しており、国際連合から勧告を受けている。
また、日本に住む外国人は、永住権をもっている人でも参政権がなく、その永住権も、2024年6月に成立した改正入管難民法で永住資格取り消しの要件を拡大する「永住許可の適正化」が追加された。
このように、留学生、技能実習生、そして永住者でさえも、日本で生活することにはさまざまなハードルや規制がある。彼らは日本人の生活を圧迫するほど「優遇」されているのだろうか?
Worldwide Skippaが訴えた<インターネットがソースのヘイト>。インターネット、SNSの発展、AIの進歩といった便利な発展があるなかで、情報が錯綜していることも事実だ。
さまざまな情報が行き交うなかで、特定の属性の人を排除したりヘイトを煽ったりする情報をはじめ、デマや裏付けのない情報に出会う可能性は誰にでもある。エローンが言うように、無自覚にヘイトに加担し、誰かの人権を侵害してしまう危険性も常にある。
情報が錯綜するなかで受け手側に必要なのは、個人の発信だけではなく、専門家や公的機関など、信憑性や信頼性のある情報にアクセスすることでないだろうか。
NHKや厚生労働省など、専門機関や公的機関のメディアはオンラインでもアクセスしやすい。外国人をはじめ、特定の属性の人に言及する情報を見かけたり、攻撃的・差別的な情報に出会ったときは、必ずその情報の事実関係を確認してほしい。