2025年上半期(1〜6月)の「ラーメン店倒産件数」が、過去2番目の高水準だという。東京商工リサーチによれば、倒産は25件で過去最多だった2024年の33件から減少。原因は販売不振が22件で全体の9割弱を占めた。円安や原材料高騰、人件費や光熱費の上昇などを、価格転嫁できない店の苦境が浮き彫りになっている。
【画像】回転すし、ファミレス、コンビニのこだわりラーメン(計14枚)
ラーメン業界の過当競争も背景にあるだろうが、回転すしなど他業態がサイドメニューでラーメンを出すようになったのも大きい。特にコロナ以降、急増している。もはや回転すしでラーメンは定番となり、居酒屋やファミレスも提供している。コンビニでも当たり前に並び、自動販売機でもよく見掛けるようになった。
しかも、こうした他業態のラーメンは、有名店の監修を受けた商品が多く耳目を集める。こうして、街に根付いたラーメン店は、他業種に脅かされているのだ。
その実態を、詳しく報告しよう。
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●回転すし各社がラーメンに注力
回転すしでは、4大チェーンの「スシロー」「はま寿司」「くら寿司」「かっぱ寿司」のいずれもラーメンに注力している。
これらの店はそばもうどんもスイーツもコーヒーもお酒も出し、すしをメインにした「総合和食」と化していて、商品バリエーションの一環としてラーメンも出している格好だ。安価で提供してきたすしの価格は上げにくいが、新しく加わったサイドメニューなら比較的高価格で提供でき、高い利益を見込みやすいという事情が背景にある。
近年、とりわけ熱心なのはかっぱ寿司だ。現在、10種類のラーメンを提供している。メインは「博多一双監修 博多豚骨カプチーノ風ラーメン」で、ピリ辛高菜入りや倍チャーシューなどのバリエーションがある。
かっぱ寿司がラーメンに参入したのは回転すし業界では後発だが、期間限定の有名店とコラボした「本格ラーメンシリーズ」を32弾まで続けている。名物企画となっていて、これを楽しみに来店する常連も多い。
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第1弾は2018年6月に発売した、札幌の行列店「えびそば一幻」監修の「海老ラーメン」。発売10日で販売数10万食を突破した。その後もラーメンファンなら一度は聞いたことがあるような有名店とのコラボを続け、累計販売数は1700万食を超えた。
スシローは「食べログ」とコラボした「全国名店監修シリーズ」を展開している。第1弾は、東京の「麺屋海神.」や京都「麦の夜明け」、大阪の「山系無双 三屋 烈火」が監修した商品を同時に発売し、大きな反響を呼んだ。
最新は7月16日に発売した、「食べログ」点数3.72、大阪の「鶏soba座銀」監修「クリーミー鶏白湯ラーメン」を8月3日まで販売予定だ。これまで100種類以上を送り出している。もともと2014年4月にラーメンの販売を始めており、食べログと組んだシリーズでより商品力を強化した格好だ。
くら寿司は現状「【藤原系】こってり背脂濃厚まぜそば」「7種の魚介 醤油らーめん」「7種の魚介 濃厚味噌らーめん」「胡麻香る担々麺」の4種を販売。まぜそばは880円で、うな丼(830円)を上回る強気な価格設定だ。5〜6月に「ラーメンステーション」「らーめん香澄」と3社で共同開発した「サバ白湯らーめん」をコラボ商品として発売しており、第2弾の発表が待たれる。
はま寿司は、有名店とのコラボラーメンを発売していないが、回転すしチェーンで最もラーメンの評価が高いとされる。同店を経営するゼンショーグループには、ラーメン「伝丸」や中華食堂「天下一」を運営する、エイ・ダイニングという会社があり、共同で開発しているからハイレベルのラーメンが出せるのだ。
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●居酒屋チェーンもラーメンに注力中
居酒屋チェーンでは「鳥貴族」をはじめ、鶏料理を扱う店がラーメンにとりわけ熱心なイメージがある。多くが鶏白湯ラーメンなど、鶏ガラを使った商品を提供している。価格は全般に安く「1000円の壁」を大きく下回るのが大半だ。
鳥貴族では、グランドメニューで「こだわり醤油ラーメン」「とり白湯めん」を、期間限定で「濃厚魚介豚骨ラーメン」を提供しており、飲んだ後の締め需要を取り込む。
ワタミの「三代目鳥メロ」では「鶏白湯ラーメン」を、「ミライザカ」では「豆乳坦々麺」「特濃 煮干しラーメン」を400〜600円台と昨今にしてはリーズナブルな価格で提供している。この他「やきとり家 すみれ」では、鶏そばというジャンルで複数メニューを展開し、「てけてけ」でも「濃厚鶏白湯ラーメン」というメニューがある。
鶏がメインでない居酒屋チェーンでも、同様にラーメンメニューは多い。
●デニーズ・すかいらーくのラーメン戦略
ファミレスでラーメンに注力しているのは「デニーズ」だ。有名店「飯田商店」の店主が監修したコラボメニューをたびたび出している。第1弾は「冷やし豆乳担々麺〜香るスパイス」を1485円という、1000円の壁を大きく上回る強気な価格で提案した。このコラボが好評で、相次いでコラボ商品を発売している。それぞれサイドメニュー付きのセットがあり、7月9日から販売している「担々麺 Neo 分離の魔力〜際立つスパイス」は中華まんとミニごはんのセットで2000円を超える。
すかいらーくグループでは女性をターゲットとしたラーメンを出すのが特徴。冬季にラーメン、夏季に冷麺が登場する傾向がある。ガストでは5月22日から「涼麺フェア」の一環として、彩り豊かな野菜を大量にのせた「低糖質 美活!ベジヌードル」を、「ジョナサン」では「夏ジョナのうま辛アジア」として冷麺を販売している。
●なぜ、他業態でも「本格的」なラーメンを作れるのか
コンビニでは各社のプライベートブランドでカップ麺の開発が盛んだが、コロナ禍で人々が外食を控えるようになると、有名店とタイアップしたチルド麺を盛んに出し始めた。外食ができにくい環境なら、せめて家で外食の疑似体験をと提案したわけだ。好評を博して現在でも同様の企画が各社で続いている。1000円の壁を大きく下回る価格も魅力だ。
「セブン-イレブン」では現状、「とみ田監修 濃厚豚骨魚介 冷しつけ麺」「八麺会公認 冷たい八王子ラーメン」の他、オリジナルで「冷し中華」などを販売。「ローソン」は冷・温どちらもそろえ、「ファミリーマート」は、まぜそばに力を入れているのが特徴だ。
それ以外でも、「ミスタードーナツ」が飲茶の一環としてラーメンを出していて、女性に人気だ。
このように、回転すしや居酒屋、ファミレス、コンビニのような他業種で、本格的なラーメンのメニューが増えている。そもそもなぜ、他業種がハイレベルのラーメンを出せるようになったのか。そこには冷凍やチルドの技術の進歩がある。
例えば、工場で作った出来たてのスープ、麺、チャーシューをそれぞれ瞬間冷凍して店に配送すれば、店員は解凍して、刻みねぎなどをトッピングするだけで、簡単に本格的なラーメンが完成する。
地元に密着したラーメンの個人店が、コロナ禍で時短・休業をしているうちに、外食チェーンやコンビニは減少した売り上げを取り戻そうとメニュー強化のためラーメンを導入し、有名店とのコラボを成立させてきた。顧客を奪われた個人店は苦境に陥る一方で、一部のチェーンストアと提携できる実力店のみが、より知名度を上げて勝ち組になっている。
(長浜淳之介)
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