朝ドラ『あんぱん』27歳俳優=達人だと確信した“絶妙な表情”「セリフを発する前に…」

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2025年07月19日 09:20  女子SPA!

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 北村匠海は、何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る達人である。今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)では、その達人の演技が随所で輝く。

 北村演じる柳井嵩が紆余曲折を経て新聞社の入社試験を受け、何とか入社する第15週は特に見せ場が満載である。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作で極まる北村匠海の達人の演技を解説する。

◆動と静が躍動する一連の場面連鎖

 戦後を描く『あんぱん』は実に晴れやかである。第13週第65回、軍国主義教育の責任を感じて教師を辞めた主人公・若松のぶ(今田美桜)は、高知新報の記者として採用される。

 嬉しさのあまり「たまるか」(土佐弁で感嘆を表す)と何度も呟きながら実家に走る場面。カメラはその運動感を下手から上手へフォロー。後続するカットがいい。引きの絵。のちに夫になる柳井嵩(北村匠海)と彼の同級生・辛島健太郎(高橋文哉)が座っている前をのぶが走り過ぎる。

 走るのぶを嵩が上手から下手へ視線を動かして静かに追う。のぶがフレームアウト。嵩と健太郎による慎ましいツーショットになる。カメラは嵩と健太郎にポンと寄るというカット繋ぎなのだが、動と静が躍動する一連の場面連鎖が素晴らしい。

◆北村匠海の表情イコール表現

 本作は北村匠海と高橋文哉を写すツーショットがとにかくどれも華やぐ作品だと思うのだけれど、上述したツーショットが今のところベストショット。嵩と健太郎の息づかいが調和する会話中、ふたりの口元からぽふぽふ発する白い息がなまめかしい。

 ツーショットからカメラはさらに嵩に寄る。嵩が「俺はね」と言っておもむろに立ち上がり、北村のアップを捉える。特殊加工で抽出したような純度がある。カメラのポジションとアングルにも注目。

 ローポジションでややローアングルから捉える北村の表情はほんと美しい。表情を含む顔そのものが何かを語りだすようで、でもはっきりとは出しきらないところがまた美しい。ベストポジション、ベストアングルで抜く北村匠海の表情イコール表現みたいな芸術世界がそこにはある。

◆何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る達人

 洗練されたあいまいな空気感が北村の表情全体を漂い、基本的に何ともいえない表情が持続する。上述した場面ではカメラが捉える北村のアップ自体を持続させるかのように、座っていた嵩が立ち上がるアクションきっかけでカットが切り替わる。そうしてカメラが下から上へ動きを追う(撮影用語ではティルトアップ)。

 カットが替わりティルトアップしながら北村のアップが写る。台詞を発する前にちょっと身体をのけぞらせる何ともいえない動きがいい。北村匠海とは、何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る達人だと思う。

 そのアップの画面もまたローアングルだったように、北村を捉えるアングルがピタリときまるとさらに達人度が極まるように感じる。逆にいえば、何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る北村が達人になるためには、ローアングルが絶対条件ということ。

◆世界一美しい「そっか」

 第15週第71回冒頭場面では、嵩が高知新報の入社試験を受ける様子が描かれる。がちがちに緊張しておどおどしてばかりいる嵩は面接で空回りする。面接後、のぶと露店で会話する美しい場面があるのだが、ここでもやはりローアングルが印象的である。

 嵩はアメリカの漫画雑誌に圧倒された悔しい気持ちをのぶに話す。そして「世界一面白いものを作りたい」と少し恥ずかしそうに夢を語る瞬間、カメラは北村のアップをローアングルから写す。夕景の情感もあいまって、相変わらず何ともいえない表情を作る北村の演技がここぞとばかりに輝く。

 結果的に嵩はのぶのアシストによって入社する。第75回、取材で上京した編集部一同がおでん屋台で食事する場面がある。大根だけしか食べないのぶに対して感謝の気持ちを伝えようと東京にきた嵩が「そっか」とさまざまな感情を込めて控えめながら、エモーショナルに発する。

 で、この場面はローアングルではない。なのにこんなシンプルなワードである「そっか」を世界一繊細で美しい響きのようにふるわせる。北村匠海という俳優は特定のアングルにかかわらず、どんなアングル、どんなポジションでも達人は達人なんだなと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

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