【羽生結弦さん】ファン以外から「格好良かった」米津玄師と新たな可能性／プロ３周年インタ後編

フィギュアスケート男子の冬季オリンピック（五輪）2連覇王者、羽生結弦さん（30）が19日、プロ転向「3周年」を迎えた。

2022年の今日、競技会からの卒業と、孤高の挑戦を表明。この1年は、前例のない単独出演のアイスショー第3弾「Echoes of Life（エコーズ・オブ・ライフ）」や、シンガー・ソングライター米津玄師（34）とのコラボレーションなどで躍動の幅を広げた。昨年12月7日「30歳の誕生日」に続き、仙台市内で日刊スポーツの単独インタビューに応じ、プロアスリート生活3年間の進化、到達した「零から一へ」の新境地について語った。（以後、敬称略）【取材・構成＝木下淳】

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制作総指揮も手掛ける最新ツアー「エコーズ・オブ・ライフ」の千秋楽は今年2月9日。5年前の同じ日に、世界男子初の「スーパースラム」を達成した。ジュニア世界2冠、五輪、世界選手権、グランプリ（GP）ファイナル、4大陸選手権を完全制覇した記念日に、氷上で進歩を示した。開演から30分以上も独りで滑った後に、五輪2連覇ショートプログラム（SP）のショパン「バラード第1番」をノーミスで演じた。

「競技のヒリついた感じと今の『ミスできない』緊張感は違うし、点数も順位も出ないので比較はできないですけど、間違いなく、あの頃よりも感覚は鋭くなった自負があるし、やれることも増えたと思います」

証明の1つが、翌3月のサプライズだった。米津の新曲「ボウ・アンド・アロー」のミュージックビデオ（MV）に登場。SPと同じ約2分50秒の楽曲に合わせて4回転ルッツ、3回転半、4回転サルコー−3回転トーループを決めた。もちろん演目も条件も違うが「スーパースラム」の5年前に、当時世界最高の111・82点を出した時を大きく上回る“羽生結弦史上、最高難度”構成。SNSも「人類超越」と沸騰した。

競技会復帰し、来年2月のミラノ・コルティナ五輪を目指す気ですね？　と水を向けると、笑いながら「でも、あの難易度を『競技会でやれ』と言われたらプレッシャー半端ないし」と手を振って「それよりも世界最高峰のアーティストから『羽生じゃなきゃ』と求めていただけたこと、作品で応えられたこと、MVを見た方々に『やっぱり羽生じゃなきゃ、この演技できないよね』と思ってもらえたこと。自分としてもすごく手応えがありました」。

重ねて「アスリートとして培ってきた技術を、エンタメと掛け算して、新たなものを作り上げていく。刺激的で、衝撃的でした」とも充足感を語り、過程でも「零から一」を実感した。

「27まで（競技会で）やってきたことを、たくさん応援していただけたんですけど（大けがから、ぶっつけ本番で奇跡の2連覇を果たした7年前の）平昌五輪の印象が強いんだろうな、と。ある種、あそこで羽生結弦のイメージが止まっているというか。米津さんのMVで『久しぶりに見た』という方もいらしたので」

国民栄誉賞に個人最年少で輝き、スポーツ界を超越する知名度を誇りながら、まだ余地を知った。超満員のアイスショーにも満足せず、フィギュア界の枠を超える可能性を感じて、視野を広げて、プロ4年目へ。「自分のファンでも何でもない、別に興味もない方々からも、MVを見て『格好良かった』と言っていただけた。『もっともっと、皆さんの目に映るところでも活動していかないと』と思えた1年でもありました」

競技の特性上「オッサンじゃん」と思っていた30歳になったが「野球やサッカーに置き換えれば、やっと経験や感覚や技術に脂が乗ってくる時期」。まだまだ己の限界は見えていない。

「ようやく『零から一』になれたので、どう二、三と増やしていくか突き詰めたい。まだまだ『ひよこ』だと思っていて、ここから『飛べないニワトリ』になってしまうのか『白鳥』になれるのか。過程を大切にしながら、でも未来に向かって、白鳥になれるように頑張りたい。この先『あいつ飛べなかったな』と言われないようにね（笑い）」

◆羽生結弦（はにゅう・ゆづる）1994年（平6）12月7日、仙台市泉区生まれ。4歳で氷へ。2010年に15歳でシニア転向。16年に世界初の4回転ループ成功。SP、フリー、合計の世界歴代最高点を通算19度も樹立。全日本選手権の優勝は6回。新型コロナ禍でカナダ・トロントから帰国した後、地元の仙台で技を磨く。宮城・東北高−早大人間科学部（通信教育課程）。22年7月19日に「決意表明」の会見を開いてプロ転向を表明。翌23年2月にスケーター史上初となる東京ドーム単独公演を実現。172センチ。血液型B。