
『学園ドラマは日本の教育をどう変えたか:“熱血先生”から“官僚先生”へ』(西岡 壱誠著)では、ドラマや漫画の教育監修をするベストセラー著者が、「金八先生」から「御上先生」まで、歴代の「学園ドラマ」で描かれるテーマとメッセージから、日本の教育と教師像についてお伝えしています。
今回は本書から一部抜粋し、柳楽優弥さん主演の2021年のドラマ『二月の勝者』と、織田裕二さん主演の2008年のドラマ『太陽と海の教室』について紹介します。
受験の負の側面を描いた『二月の勝者』
受験の負の側面を描く作品として話題になった作品はいくつかあるが、その1つが2018年に連載開始し、2021年にドラマ化した『二月の勝者』という中学受験漫画である。この作品の中で1つ面白いエピソードは、「親にとって、塾はアプリの課金のようなもの」という話だ。スマホアプリのゲームは、「基本的には無料で遊べるが、課金すれば強い武器やキャラを得るためのガチャが引ける」というものだ。
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このように、少子高齢化の時代にあって、教育はどんどん「お金持ちがやるもの」になってきているということを皮肉るようなシーンが描かれ、話題を呼ぶこととなった。
こうした作品が浮き彫りにしているのは、「子供の意思を無視して親が勉強を強制することは良いことなのか」というテーマである。子供の意思を尊重せずに親が勉強を強制する行為は「教育虐待」と呼ばれ、2010年代後半以降でだんだんと認知されるようになっていった。
それまでも受験のストレスで自殺する生徒のニュースやそれをテーマにしたドラマや漫画も存在していたわけだが、この時期になってやっとその狂気について触れられるようになってきたわけである。
時代を先取っていた『太陽と海の教室』
もう1つ作品を紹介したい。『太陽と海の教室』である。2008年放送のドラマなのでここで紹介するか迷ったが、時代を先取りするような内容で、受験に特化した学校教育を批判するものであったため、ここで紹介したい。
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そんな中で、織田裕二演じる櫻井先生が赴任し、受験ありきの授業ではないことを教えていく。
このドラマの中で強調されているのは、「将来何になりたいか」も考えておらず、ただ周りの大人が「勉強しろ」と言うから受験する生徒たちに対する危機感である。
例えば、第3話では、数学の勉強をしているエリート高校生たちに対して、子供がこんなことを聞く。
「お兄ちゃんたち変だね、何を計算してるかわからないの? 」
この言葉をきっかけに、高校生の2人は自分たちが計算しているトマトがどんな大きさのものなのかを調べるのだが、どんなに計算しても、とんでもない質量を持ったトマトになってしまい、頭を抱えることになる。
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このように、なんのために勉強しているのか、どこでどう使うために勉強するのか、頭のいい生徒であってもわかっておらず、ただ受験のために勉強しているという人たちが多い日本の状況を風刺するような展開が多く、それがとても面白いと感じる。
西岡壱誠(にしおか いっせい)プロフィール
東大生、株式会社カルペ・ディエム代表、日曜劇場『ドラゴン桜』監修。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、3年目に合格を果たす。在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営し、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。
(文:西岡 壱誠)