ダイハツの軽自動車旗艦車種であるムーヴ、新型はスライドドアの採用による実用性と走りが向上した 新型ダイハツ・ムーヴは軽自動車の『ど真ん中』を狙うべく開発された。軽乗用タイプではスライドドアの比率が年々上昇しており、2024年は約6割に達したという。ど真ん中を狙うならスライドドアというわけで、先代はヒンジドアだったムーヴはスライドドアに改めた。リヤ席に乗り込むにしても、荷物を出し入れするにしても、後ろに大きく回り込まずにアクセスできるスライドドアは便利だ。
これは先代と変わっていないが、ムーヴはいわゆるハイト系ワゴンである。世の中にはスーパーハイト系と言われる、背が高くて空間容積の大きな軽自動車が存在し、人気を集めている。ダイハツでいえばタントが該当する。いっぽうで、「そこまで必要ない」と感じている人たちがいるのも事実。でも、ミラ・イースでは低すぎる。そう考えると、ハイト系のムーヴはちょうどいいし、ど真ん中だ。
『ムーヴでの役割はいったん終える』と、新型は先代まで設定のあったカスタムを廃止した。オラオラ顔が欲しい人はタント・カスタムを買ってください、ということだ。新型ムーヴは『男前』をキーワードに端正な顔つきを目指してデザインしたという。オラオラしていないし、ナヨナヨもしていない。デザイン担当者が言うように、男前である。
エクステリア全体としては、(静止した状態であっても)動きが感じられる美しさを目指したという。ポイントのひとつは、スライドドアの後方で切れ上がったキャラクターラインだ。飛行機の垂直尾翼のようにも見える。上級グレードが装着する切削処理を施した15インチサイズのアルミホイールは新デザイン。リヤコンビランプは、ブレーキランプ(LED)が点灯した際にキラキラ見えるようなレンズ処理を施した。
Aピラーはフロント席の乗降性を損なわない範囲で寝かすことでスポーティなシルエットとした。何に対して寝かせたかというと、プラットフォームを共有するムーヴ・キャンバスに対してだ。寝かせたとはいってもヘッドクリアランスや視界を邪魔するほどではない。空間的な余裕は感じるし、サブウインドウのおかげで視界も良好だ。
もう少し渋く決めたいと願う向きには、DANDYSPORT STYLE(ダンディスポーツ・スタイル)がいい。ダークメッキ系の処理とエアロパーツの装着により、ちょい悪な男前になる。ベース車との変化点が多い割にお得なオプション価格設定も魅力だ。
インテリアは実用性とスリーク(つややか、スマート)さの両立を狙ったという。センターコンソールを中心に左右対称なウイング形状とする構成は先代と共通。先代ムーヴは2段構成の合わせ部に空調の吹き出し口を隠すように配置していたが、新型は幾何学的な造形のエアコン吹き出し口を目立つように配置した。この吹き出し口まわりの造形が凝っており、個人的には萌えポイントである。
リクライニング可能なリヤシートは240mmのスライドが可能。休憩スペースとしても、作業空間としても使えそうだ。フルフラットにはならないが、フロントからリヤまでつながるロングソファモードは備えており、足を伸ばしてリラックスすることができる。ハイト系ならではの空間容積の大きさと多彩なシートアレンジは、新型ムーヴの魅力だ。
グレードはL、X、G、RSの4つ。装備差で価格に差を付けたのが特徴で、Xは「スライドドア軽自動車最廉価」をうたう。2WD(FF)が135万8500円で、有り体に言って法人需要がターゲット。価格を重視する層をターゲットに用意したのが、メイングレードに位置付けるXで、2WDの価格は149万500円だ。Gは上級グレードの位置づけで2WDの価格は171万6000円。パーキングブレーキは足踏み式ではなく電動になり、ホイールはキャップではなくアルミになる。
L、X、Gは自然吸気エンジンだが、RSはターボエンジンを搭載。余裕駆動力が欲しい人向けだが、機能はさらに充実しており、長距離移動に便利な全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)が標準装備。左側だけでなく右側もパワースライドドアが装備される。ステアリングホイールとインパネセンターシフトはウレタンではなく本革巻きだ。2WDの価格は189万7500円である。
新型ムーヴは機能や装備でグレード間の差をつけただけではない。自然吸気エンジン搭載車(L、X、G)とターボエンジン搭載車(RS)では走りも違う。カヤバのダンパーを採用しているのは共通しているが、RSは微低速域高減衰バルブのHLSバルブを適用。軽自動車に採用するには贅沢なアイテムだが、開発陣の「性能を上げたい」という強い思いから採用が決定。遅く小さな動きからしっかり減衰力を発生させるので、ばね下の暴れが抑えられ、ばね上の不要な振動が消せる。また、操舵応答性が良くなる。
それだけではない。カタログ上の数値(全高1655mm/2WD)は同じなのだが、RSは自然吸気エンジン搭載車に対して車高を5mm下げている。もちろん、走りのためだ。RSは自然吸気エンジン搭載車に比べて明らかに、キビキビ走る。旋回中のしっかり感も違い、見た目にたがわず結構攻められるクルマに仕上がっている。実用性と走りのバランスがとれているのは自然吸気エンジン搭載車も同様。堅実派は自然吸気エンジン系、走りを重視するならターボエンジンを積み、専用ダンパーを適用したRSがいい。
[オートスポーツweb 2025年07月23日]