中田秀夫監督「この映画を撮りながら、やっぱり自分はホラーが好きなのかもしれないと思い直しました」『事故物件ゾク 恐い間取り』【インタビュー】

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2025年07月24日 08:10  エンタメOVO

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中田秀夫監督 (C)エンタメOVO

 タレントになる夢を諦め切れず福岡から上京した桑田ヤヒロ(渡辺翔太)は、ひょんなことから「事故物件住みますタレント」として活動することになる。事故物件に住み続けるお笑い芸人・松原タニシが自身の体験を基に執筆した「事故物件怪談 恐い間取り」シリーズを、『リング』の中田秀夫監督が実写映画化したホラーシリーズの最新作『事故物件ゾク 恐い間取り』が、7月25日から全国公開される。中田監督に話を聞いた。




−5年ぶりのシリーズ最新作になりますが、今回の製作の意図や狙いはどこにありましたか。

 前作が大ヒットしたことが続編製作の最大の理由です。僕も松竹もその記憶が強くありました。実はもっと早く立ち上げて作りたかったのですが、僕のスケジュールの関係もあって5年ぶりになりました。それと、“ホラー映画の監督”と言われているからというわけではありませんが、ホラーは不滅のジャンルだと思うんです。特に映画史の始まりにおいて、リュミエール兄弟の『列車の到着』(1896)で機関車が観客に向かって走ってきたから、みんなが必死になって逃げたとか、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902)の魔術的な表現などに、みんな驚くと同時に恐怖も覚えたわけです。仕掛けでゾッとさせるという、ちょっと見世物小屋に近い状態から映画は始まった。それから、戦前のユニバーサルの怖いドラキュラ映画とか、イギリスのハマープロがホラー映画の伝統を作りました。だから、多少のはやりすたりはあるけれども、われわれ作り手側も映画会社もホラーは不滅だと思っているということです。

−この映画はもちろんホラーですが、ちょっとコミカルな要素があったり、ラブロマンスに近いものも入っていましたね。

 前作は主人公がお笑い芸人という設定ですけど、今回は前作以上に意図してコミカルにしたところはありませんでした。ただ恋愛については前作と同様にというか、やはりヒロインがいるので、主人公とヒロインとの恋愛ものとしての要素と、あとは人間関係もしっかり描きたいなと。ホラーで人間ドラマを描くとホラー度が下がると主張される方がいるのは知っていますし、確かにそういう面もあるとは思いますが、2時間の映画を作るのにホラー表現だけを詰め込めば映画になるとも思わないので、そこは必要なものだと。要するに、お客さんに渡辺翔太くんが演じるヤヒロという“怖がる人”に感情移入してもらわないと、せっかくの怖いシーンも怖く見えてこないところがあるので。

−前作の亀梨和也さん、今回の渡辺翔太さんと、いわゆるアイドル系の人を主役に起用することについては、どんなふうに考えていますか。

 前作で亀梨くんに主役で出てもらいましたが、今回も前作を引き継ぐ感じだったので、亀梨くんの後輩にバトンタッチしてもらったらどうかというのは最初からありました。その中でSnow Manのメンバーではという話があって、渡辺くんはホラーがすごく好きらしいと。亀梨くんと違うところは、亀梨くんは10代の頃から主役を張ってきた人で、渡辺くんはドラマや映画には出ているけれど、映画の主演は初めてだということ。だから亀梨くんに比べればいわば新人に近いのですが、僕は、この渡辺翔太という人には俳優としての色がまだついていない。それがこの映画に関してはプラスに働くだろうという直感がありました。畑(芽育)さんや吉田鋼太郎さんやじろうさんとリハーサルをやって鍛錬してもらいましたが、対応能力はとても高いと感じました。撮影の初日を迎えた時には、吉田さんともちゃんとバランスが取れたお芝居をやってくれたので、とても感心しました。

−監督はJホラーの第一人者みたいに言われていますが、実はホラーではない映画が撮りたいみたいなことを聞いたのですが…。

 中学時代に『エクソシスト』(73)『オーメン』(76)『サスペリア』(77)などを見て衝撃を受けた世代ではありますが、その後、ホラーが大好きだったかっていうとそんなことはありませんでした。たまたま監督になってホラーというジャンルと巡り合ったという感じです。僕がにっかつ撮影所にいた当時は、ロマンポルノが撮られていましたが、ジャンルの制約がある中で、アーティスティックな作品もあれば、職人芸的な作品もありました。みんなが与えられたお題の中で必死になってベストを尽くすというか、職人気質みたいなのがあるので、やるからにはとことんやろうと思うわけです。映画作りとはそういうものかと思いました。だから僕もホラーというお題を与えられてベストが尽くせたのは、にっかつ撮影所で助監督をやった経験が大きかったのかもしれません。

 ホラーの大家のウェス・クレイブンという監督が「ホラーは2本まで。3本以上やると断れなくなる」と言っていましたが、僕もホラーから逃げたいと思った時期が長くありました。最初にアメリカに行った時も「ホラーだけはやらない。殺人鬼が出てくる映画ならいいけどお化けは嫌だ」とずっと言っていた。ところが、結局アメリカで撮った映画も、自分の映画のリメークの続編(『ザ・リング2』(05))。皮肉なことに結局ホラーでした。だから、何かホラーから逃げられないのかもしれないと思っていた時期もありました。

 でも今回、5年ぶりに大ヒットした映画の続編をやらせてもらって、ある場面をセットの中で撮っている時に、自分の血がたぎるのを感じたんです。「うわ、いいぞいいぞ、もっとやれ、もっと叫べ」とかワーワー言いながら撮っていたんです。その時に、やっぱり自分はホラーが好きなのかもしれないと思い直しました。

−本作も実話の映画化ですが、ずっとホラー映画を撮ってきて、監督自身は怖くなったり、不気味な感じがすることはないんですか。

 それは特にはないです。なぜかというと脚本でたっぷり議論をして、こういう表現にしようと決めてから撮り始めて、作っているうちにイケてるという感情が湧いてくるので、やっている時は面白がっているわけです。一番近いのはスポーツ観戦。野球でもサッカーでも、スポーツを見た時に「うわ、いけ」と興奮してアドレナリンがバーっと上がってくるような感覚です。怖いことを楽しんでもらうのが僕の仕事なので、お客さんは純粋に怖いと思ってくれるかもしれないけれど、僕は自分でイケたとか、面白いとか、心の中でにやっとした時に「これで怖いと思ってもらえるかな」と思うわけです。だから映画を撮っている時は普段とは感覚が違います。自分のホラーマインドは、この表現でお客さんを満足させられたかというのが基準なので。どんなにおぞましい表現や特殊メークも、そう思って作っているから、その辺は割と冷静なんです。

−これから見る人や読者に向けて一言お願いします。

 前作の終わり方が少しファンタジー寄せみたいになったとか、いろいろとご批判を頂いているのを承知した上で、今回はとにかくホラー映画として怖いと言ってもらえることを唯一無二の目標に掲げました。それで、とにかくど真ん中のストレートを投げるつもりでやりました。『女優霊』(96)や『リング』(98)といった僕の初期の作品にわざと近づけたわけではありませんが、結果としてそうなったところもあります。僕の初期の映画を好きな人たちは、長年Jホラーのファンでいてくれた人たちでしょうから、十分楽しく怖く見ていただけるものになっていると思いますので、ぜひ映画館にお越しください。

(取材・文・写真/田中雄二)


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