―[あの日夢見た雲組]―
2023年6月15日、乃木坂46の公式ライバルグループとして結成した「僕が見たかった青空(通称:僕青)」。
同年8月30日に「青空について考える」でデビューすると、第65回日本レコード大賞新人賞を獲得。そんな成長を続けるグループに変化が訪れたのは、2024年1月31日にリリースされた2ndシングル「卒業まで」から、選抜制を導入したことだ。それ以降、メンバー23人は、表題曲やメディア担当の選抜メンバー「青空組」と、ライブやイベントなどを中心に活動する非選抜メンバー「雲組」の2つチームに分かれて活動している。
8月6日に発売する6thシングル「視線のラブレター」では、青空組のメインメンバー(センター)に雲組で頭角を現した杉浦英恋が抜擢される。その一方で、涙を飲んだ雲組メンバーがいる。この連載では、雲組単独公演のライブとともに雲組で切磋琢磨するメンバーに注目していく。
◆雲組に入って感じた温度差とメンバーの自信
デビューシングルから青空組で活動し、6thシングル「視線のラブレター」で雲組に初めて移動になったのが、塩釜菜那だ。僕青のリーダーを務める塩釜が選抜を外れたことはファンにも激震が走った。塩釜本人は、選抜発表後はしばらく椅子に座ったまま涙をこらえて下を向いていた。
「ずっと選抜発表が怖かったんです。『リーダーだから青空組に入れてるんだろ』って思われてるんじゃないかって。周りでどんどん活躍していく青空のメンバーがいるなかで、私は自分が成長する事に目を向けられていなかったと悔しさがこみ上げました」
リーダーとして、誰よりもグループのことを考えてきた。塞ぎ込む塩釜に対してスタッフは、「雲組のパフォーマンス力は向上しているが、まだ気持ちの面でついていけていない部分がある。だから、その部分を引っ張り上げてほしい」とその思いを彼女に託した。
だが、雲組のレッスンに初めて参加したとき、青空組との温度差に驚いた。スタッフへの挨拶もバラバラ、雲組単独公演に向けた具体的な目標もないまま進められていたことだ。危機感を持った塩釜がひとりひとりと向き合い、嫌われる覚悟で厳しい言葉を投げた。
「雲組に入って感じたことは、どこか自分に自信がないメンバーが多いなと感じたんです。私は雲組の単独公演の映像を毎回チェックしていたので、決して実力が足りないわけじゃないんです。まだ雲組に移動して少ししかたってないけど、初めて雲組のライブを観た人が、『この子たちは頑張ってる、また観たい!』と感じてもらわないといけないんです。だから、はっきり言わないとと思ったんです」
◆「ここで腹をくくらないと一生私は変わらない」
2025年7月11日、雲組単独公演#20・東京公演が迫っていた。7月7日に23歳の誕生日を迎えた塩釜は、仲間にかけたプレッシャー以上のものを課して挑もうと誓っていた。
「今までの私は失敗するのが怖いからできることしかやらない、それ以上は踏み出さない。そんな自分が嫌で、だからこそ自分のプライドを捨てて、たくさん失敗しようと思ったんです。青空組から雲組に環境が変わって、自分自身も変わるチャンスですし、ここで腹をくくらないと一生私は変わらないと思いました」
そして公演当日。開演30分前にステージ袖にある控室にメンバーが集まってくる。塩釜は談笑するメンバーたちから少し離れて、最後までひとり鏡の前で振りを確認していた。実はリハーサルで、「歌い出しの声が弱い」「自信のなさがパフォーマンスに出ている」など演出サイドから厳しい声が飛んでいた。
「雲組の新曲『虹を架けよう』の初披露をはじめ、私が初めて披露する曲が結構あったので、私自身が話している余裕がなくて。緊張しやすい性格だから、自分ができるところまでやったって自信を持ってステージに立ちたかったから」
◆雲組公演で強くなった「私を見て!」という想い
「この日の公演では、メンバーやファンの方と目が合う瞬間を作ることを意識しました」
デビュー曲「青空について考える」から公演はスタート。ユニットで披露したダンスナンバー「臆病なカラス」では、気迫あふれるパフォーマンスで観客の目線を釘付けにした。
「私が雲組になったときに、『臆病なカラス』を踊りきることを目標にしていたんです。この曲は青空組メンバー5人のユニット曲なんですが、私がポジションに入った(吉本)此那に負けないぐらい、自分の色を交えながら最高のものを届けたいと思ってパフォーマンスしました」
数千人が集まる23人で行うライブ会場に比べたら、雲組の公演規模は数百人。その分、ファンの声援や表情がメンバーにダイレクトに届きやすい。「雲組ではリーダーとしてだけじゃなくて、アイドルの塩釜菜那もいいと思ってもらいたい」。公演が進むにつれて輝きを増す彼女のパフォーマンスには、こんな心境の変化があった。
「『炭酸のせいじゃない』の2番のところは私の歌パートがサビまでないから、会場を見渡すんです。ペンライトを振っている方もいれば、指揮してる人もいて、本当にライブを楽しんでくれてるんだなって(笑)。それから雲組に入って『空色の水しぶき』でソロパートを初めてもらって、“ななちゃん”コールを聞けたときは本当に嬉しかった。雲組に入って12人になったからこそ、ステージで1番輝いていたいし、『私を見て!』っていう想いが強くなりました」
◆6人兄弟、二度の警察官試験、保育士も目指した“泣き虫リーダー”
鹿児島県生まれ。6人兄弟の3番目として生まれた。いつでもポジティブで前向きな少女は、誰よりも目立つことが好きだった。
「小学校のお楽しみ会でダンスを習ったことないのに、100人近い生徒が見ている前で踊っちゃうぐらい目立ちたがりな性格でした(笑)。そのなかでアイドルグループのAKB48を知って、同じ世代の研究生がキラキラしている活躍している姿に憧れていました」
アイドルへの思いは抱きつつも、警察官の試験を2度受けたり、保育士を目指すために福岡の短大に進学した経験もある。
「中学生ぐらいから『他人から強く見られたい』という気持ちが出てきて、警察官に憧れるようになったんです。警察官にはなれなかったですが、警察試験の勉強のときにニュースで、子供を保育施設に預けられない現状があるということを知って、『妹や弟の面倒を見てきたから、誰かのために役に立てるかもしれない』という想いで保育士を目指していました」
僕青に加入してから、リーダーに任命されたのは驚きだった。それでも、「人の悩みを解決できる自信ないけど、メンバーが悩んでいたら近くに行って支えたいなって、その子を笑顔にさせて、活動を楽しいなって思ってもらえるようなリーダーになりたい」と走ってきた。情に厚くて涙もろい彼女は、いつしか“泣き虫リーダー”と呼ばれるようになった。
「私、人一倍、愛が強いと思うんですよ。メンバーのことを思ったり、人への感謝だったり、そういうことを考えると幸せだなと思って涙が出てくるんですよ。でも最近は、自分のことで悔しくて涙を流すことが多かったです」
◆僕青の成長を信じているし、いつだって前向きでいたい
6thシングルの選抜発表の後、「ここで雲組に選んでいただいた意味って絶対にあると思っていて。『いい意味で変えてくれると思ってる』って組のメンバーが言ってくれたので、その期待に応えたい」と彼女は言った。東京公演が終わったあと、雲組にいる意味を尋ねると、「少しだけ見えてきたかもしれないです」と前を向いた。
「これまでの2年の活動で厳しい現実を感じているなかで、3年目になって気持ちが停滞しやすい時期に入ってきていると思うんです。でも私はそういう状況でも僕青の成長を信じているし、いつだって前向きでいたい。だからこそ、メンバーは僕青を知ってもらえる活動に全力で取り組むことが必要ですし、その覚悟を雲組から広げることが僕青の底上げにも繋がると思っています」
その姿勢は雲組の流れをいい方向に変えつつあるが、大きな課題もある。
「メンバー同士はすごく仲が良いんですけど、枠から外れようとする子が出てこない。例えば、MCでしゃべりたい子を募っても、自ら意見が出てこなかったりすることも多いですね。ステージ上では自分を見てほしい!とか、そういう気持ちを大きくしていきたいです」
僕青キャプテン・塩釜菜那の雲組での挑戦はまだ始まったばかりだ。
【塩釜菜那(しおがまなな)】
2002年、鹿児島県生まれ。ニックネームはがまちゃん。秋元康総合プロデュースのもと、応募者3万5678人の中から選ばれた23人で ‘23年6月15日に結成されたグループ「僕が見たかった青空」でリーダーを務める。8月13日には「SASUKEアイドル予選会2025」に出場予定。「りこちゃん(前大会出場の岩本理瑚)が私の我慢強さとか内面を見て推薦してくれて、誰かの心に響く戦いができれば」と意気込む。雲組としては、「僕が見たかった青空 雲組単独公演 #21」が8月21日(木)にSHIBUYA PLEASURE PLEASURE(東京・渋谷)で、「僕が見たかった青空 超雲組公演 HYPER」が9月27日(土)にLIQUIDROOM(東京・恵比寿)で開催される。塩釜の個人Instagram:@nyanya.77_bokuao
<取材・文/吉岡 俊 撮影/林 鉱輝(扶桑社)>
―[あの日夢見た雲組]―