大ヒット『スーパーマン』は「美しい偶然」の連続だった ジェームズ・ガンが撮影を振り返る

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2025年07月24日 13:40  クランクイン!

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クランクイン!

(左から)ジェームズ・ガン監督、デヴィッド・コレンスウェット 映画『スーパーマン』メイキング写真  (C)&TM DC(C)2025 WBEI IMAX(R)is a registered trademark of IMAX Corporation.
 ジェームズ・ガン監督が手掛けた、DCユニバースの新たな幕開けとなる完全新作映画『スーパーマン』が大ヒットを記録している。日本では7月20日までに観客動員数47万人、興収7億5300万円を達成したほか、SNSでは「今こういう映画をやってくれて嬉しい」「大号泣。最高です」と称賛の声が続出。何度ボロボロになっても立ち上がるスーパーマンの姿や、愛犬クリプトのかわいさ、KAIJUなどの魅力的なキャラクターたちなど、さまざまな魅力が多くの人を引き付けている。そんな本作を手掛けたガンに今回クランクイン!がインタビュー。本作の制作は「美しい偶然がいくつもあった」と撮影の思い出を振り返った。

【写真】どのカットも美しい 『スーパーマン』を振り返る

■撮影初日は「とっても寒かった」

――新生DCユニバースの幕開けにふさわしい作品でした。スーパーマンを選んだ決め手はなんだったのでしょうか?

ジェームズ・ガン(以下、ガン):実は僕がDCスタジオのトップに就任する何ヵ月も前から、スーパーマンの企画が部分的に動いていたからなんです。ワーナー・ブラザースは共同でトップを務めるピーター・サフランと一緒に何をやりたいかを聞いてきたのですが、そこでわたしたちが提案した中の一つがスーパーマンでした。それからトップに就任した時に、アメコミ史上最も歴史のあるヒーローであるスーパーマンで、新生DCユニバースをスタートするのがふさわしいと改めて感じました。

――特に魅力的に感じたポイントは?

ガン:ほぼすべてのバージョンで一貫しているのが、スーパーマンが「止められない存在である」ということです。どんな状況でも善であろうとする彼の姿勢は、育ての親であるジョナサンとマーサから受け継がれた価値観に根ざしています。さらに、強大な力に包囲されても止まらないという、物理的な意味での「止められなさ」もあります。それに加えて、スーパーブレスを吐いたり、目からレーザーを出したりする能力も大好きです。スーパードッグやスーパーカズンなど、ちょっと魔法めいたおバカな要素も含めて、心がとても純粋なキャラクターが物語の中心にいるというのが本当に楽しいんです。

――本作はスーパーマンの誕生日である2月29日に撮影が始まったと聞いています。狙ってそうしたのでしょうか?

ガン:100%偶然だったんです。撮影している最中に彼の誕生日だと気付いて、「本当に!?」と驚きました。振り返ると本作では、このような小さくて美しい偶然がいくつもありました。公開日の7月11日は、実は僕の父の誕生日で。もちろん、僕が公開日を決めたわけではないですよ(笑)。本当に、最初から最後まで驚きの連続でした。

――撮影初日で印象的だった思い出はありますか?

ガン:覚えているのは、とっても寒かったことです。北極圏にあるスヴァールバル諸島で撮影をしたのですが、スーパーマン役のデヴィッド・コレンスウェットは、初日から雪の上にうつ伏せにならなければいけませんでした。映画の冒頭に出てくる、彼が雪に倒れてるシーンで、デヴィッドは実際に雪の上に寝ているんです。あまりに寒すぎて、数分しか撮影を続けられませんでした。なのであのカットを撮影するのにはすごく時間がかかったんです。主演俳優の指を初日から凍傷させるわけにはいかないので、慎重でしたね…まあ、もしそれが最終日だったら、別に構わなかったけど(笑)。

――デヴィッドの話が出てきましたが、ガン監督はデヴィッドに、クリス・プラット(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでスター・ロード役)やジョン・シナ(『ピースメイカー』シリーズでピースメイカー役)との経験を基に「誰に対しても親切で、敬意を持って接すること」を条件にスーパーマン役をオファーしたと記事で読みました。ガン監督がスーパーヒーローを演じるあたって俳優に求めることをもう少し詳しく聞かせてください。

■敬意がない現場での映画づくりは「意味がない」

ガン:僕がこれまで一番多く一緒に仕事してきた俳優だったのがクリス・プラットとジョン・シナで、この二人に関しては本当に恵まれていたと思います。ジョンとはテレビシリーズを2シーズン撮影していて、合計で16時間分くらいのテレビ作品を一緒に作っている。クリスとは映画を通して、たぶん合計で8時間以上は撮っていると思います。

そんな中で思うのは、僕が本当に運が良かったということ。というのも、彼らはどちらも人として親切で、現場の誰に対しても敬意を持って接してくれる人たちだったからです。そして、時間を守って現場に来ることも大事です。僕にとって、ヒーローを題材にした映画を、周りの人たちへの敬意がないような現場で作るんだったら意味がないんです。それは、いつも優しくいろってことでもないし、無理に感じ良く振る舞うという話でもありません。ただ、他人に対して敬意と思いやりを持って接してほしいのです。

ただ、ヒーロー役を演じる俳優に限った話ではなく、僕の作品に出るすべての俳優に対して求めていることです。本作のヴィランであるレックス・ルーサーを演じたニコラス・ホルトに対しても、僕はまったく同じことを望みました。

――ニコラスも素晴らしい芝居を見せていました。終盤、レックスが涙を流すシーンが印象的で。

ガン:レックス・ルーサーがどれだけひどい奴であるかは分かっているのですが、個人的にはレックスに共感していますし、彼がどうして脅威を感じているのかが理解できます。彼は一生懸命努力して世界で一番になるために働いてきた人間で、自分こそが世界で一番の男だと思っていました。誰にもマネできない発明をして、すべてを手に入れていたのに、突然スーパーマンが現れて、派手でおかしなコスチュームを着て飛んできた。彫りの深いあごや整ったルックスも相まって、すべての注目をさらっていきました。するとレックスは「自分は何者でもない」と感じてしまうんです。その嫉妬心は、誰もが共感できる部分だと思います。

誰でも一度や二度は嫉妬を感じたことがあるでしょう。レックスもスーパーマンも同じです。欲しかった仕事やパートナーを誰かに取られたりという経験は誰にでもある。だから映画の中のレックスの動機には共感できると思うんです。もちろん彼はかなり悪い奴なんですけどね(笑)。

でも僕は、クラークと同じように完全に人間的なレックスを描きたかった。彼の変化や、物語の中でどう変わっていくかを見せたかったんです。レックスの話はまだ終わっていないと思います。このキャラクターはこれからもたくさん登場するでしょう。特に僕は、お気に入りの俳優であるニコラス・ホルトと一緒に仕事をするのが大好きなので。

――レックスにまた会える日が楽しみです。ところで巨大生物KAIJU(怪獣)も大きなインパクトを残しました。参考にした日本の怪獣映画はありますか?

ガン:もちろんあります。『怪獣総進撃』や『ゴジラ-1.0』など、日本で作られたたくさんの巨大モンスター映画が大好きです。でも日本映画で特に僕のお気に入りなのは、三池崇史や、僕の飼い犬(クリプトのモデルでもある)の名前にもなっている小津安二郎の作品です。日本映画はアメリカの映画にはない形でポップカルチャー的な要素をうまく映画のジャンルに取り入れていると思います。僕はアメリカ映画よりも、東アジア映画の影響をずっと受けてきたと言えます。そこには日本も含まれるし、香港や韓国も含まれています。僕のインスピレーションの源ですね。

(取材・文:阿部桜子)

 映画『スーパーマン』は公開中。
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