
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、第77回カンヌ国際映画祭でインド映画で初のグランプリを受賞した『私たちが光と想うすべて』(2025年7月25日公開)です。
試写で鑑賞しましたが、3人のインド人女性の生き方と友情を描き、共感度が高くしみじみいい映画でした〜。では物語から。
【物語】
インド・ムンバイで看護師として働くプラバ(カニ・クスルティさん)とアヌ(ディヴィヤ・プラバさん)。二人はルームメイトとして一緒に暮らしています。
プラバにはドイツに単身赴任中の夫がいますが、1年以上音沙汰がありません。アヌにはシアーズ(リドゥ・ハールーンさん)という恋人がいますが、異教徒のため隠れて付き合っています。そんな中プラバは、病院の食堂で働いていたパルヴァティ(チャヤ・カダムさん)から、高層ビル建築のため食堂が閉鎖されると聞いて……。
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【ムンバイ=東京?都会で暮らす女性たちのリアル】
冒頭、ムンバイで暮らすプラバやアヌの生活の様子が映し出されます。
仕事を終えたプラバが乗っている電車には女性専用車両があり、会話を楽しむ女性たちや母と子どもなどがいてザワザワしています。駅は大きく通路も広い。人が多く、常に電車が往来するムンバイの大都市ならではの景色は東京と変わりありません。
プラバは真面目な女性で寄り道せずにまっすぐ帰宅。ドイツにいる夫についてはもともと親が決めた結婚だったので、愛情がなく半ば諦めている感じなんですよね。
いっぽう、同僚のアヌは帰りに彼氏と待ち合わせ。でも秘密の恋なので「病院の近くで待たないで」と彼にメールしたりして。なんだかアヌは幸せそうだな〜と思いつつも、双方の家族に見つかったら大反対されることでしょう。ビルとビルの隙間のような空間で抱き合う二人は情熱的ですが、コソコソしなくてはいけないし、結婚を夢見ることができない現実にアヌは不満も募らせています。
また彼女は行動的なので、デートがない日は「退屈〜」とダラけたりして、プラバとは正反対のタイプです。
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【本音がポロリ。その言葉が胸に響く】
タイトル『私たちが光と想うすべて』は、この映画の本質を言い当てていて、本当にいいタイトルだな〜と感じます。本作の “光” は、強く明るく人生を輝かせてくれるものではなく、プラパやアヌ、食堂を畳んで故郷に帰るパルヴァティをときどき優しく灯してくれる光という意味ではないかと。また本作はセリフもいいんですよ〜。
親が決めた結婚について「見知らぬ人と結婚できるの?」とアヌがプラバに聞くと
「よく知っていると思っていた人が、他人みたいになることがある」
と応えます。たしかに……と、ドキッとしましたよ。
またパルヴァティがムンバイを離れるとき、プラバとアヌと食堂でご飯を食べるのですが、パルヴァティが
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「何度も(食堂の)前を通ったけど、初めて入ったよ」
と嬉しそうに言うんです。生活が苦しくて外食なんてできなかったんだろうな〜と。胸がキュっとしましたね。
夢を抱いてムンバイへやってくるインドの方は多いのだと思う。でも現実的にすべての人が満足のいく生活ができるわけではない。
「ムンバイでは、どん底の暮らしでも怒りをためない」
という言葉には諦めムードが漂うけれど、幸せはどこに転がっているかわかりませんから。
【ささやかな幸せが人生を彩る】
後半は、海辺の村に帰るパルヴァティを見送るために同行するプラバとアヌのプチ旅行が描かれるのですが、思いがけない出来事が起こったりして……。
人生が大きく前進したり、変化したりする映画ではないけれど、それぞれが自分の身の丈に合った人生を歩み、ときにはモヤモヤしたり、退屈を感じたりしながら、人生を照らすかすかな光を抱きしめるような作品。
小説を一冊読んだような気持ちになれる、とても美しくて心に沁みる映画でした。ぜひポーチ世代の女性に見てほしいです!
執筆:斎藤 香(c)pouch
Photo:© PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINÉMA – 2024
『私たちが光と想うすべて 』
7月25日(金)より、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
監督・脚本:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム