
『木の上の軍隊』(7月25日公開)
1945年の沖縄。宮崎出身の山下一雄少尉と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンは米軍の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜める。やがて戦争は終結するが2人はその事実を知るすべもなく、木の上で“孤独な戦争”を続ける。
太平洋戦争末期の沖縄県伊江島を舞台に、終戦に気づかぬまま2年間も木の上で生き抜いた2人の日本兵の実話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台劇を、堤真一と山田裕貴の主演で映画化。沖縄出身の平一紘が監督・脚本を担当し、全編沖縄ロケで完成させた。
井上の“戦後命の三部作”は、原爆投下後の広島を舞台にした『父と暮せば』、同じく長崎を舞台にした『母と暮せば』、そして沖縄を舞台にしたこの『木の上の軍隊』からなり、それぞれ舞台化と映画化がなされた。
手法としては、時にユーモアを交えた寓話(ぐうわ)的で超現実的な話の中から、戦争がもたらす傷の深さを浮き彫りにしながら、それでも人は生きていくという希望のメッセージを発するものだが、特徴的なのは、いずれも父と娘、母と息子、そして上官と部下による対話劇になっているところだ。
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それ故、必然的に“二人芝居”となるため、俳優の力量が試されることになる。この映画では堤と山田が見事な演技を見せ、戦争がもたらす不条理を体現する。そして舞台劇とは違う映画ならではの見どころは冒頭の戦闘シーンと伊江島の風景を映像として見せたことだろう。
また、昭和生まれの筆者には、この映画の2人の姿が、1970年代前半にグアム島で横井庄一氏、ルバング島で小野田寛郎氏という残留日本兵が相次いで発見され、後に日本に帰国した事件と重なって見えるところがあった。
今年は戦後80年という節目の年。この映画のほかにも、原爆投下後を描いた『長崎 閃光の影で』(8月1日公開)や日本海軍の駆逐艦の数奇な運命を描いた『雪風 YUKIKAZE』(8月15日公開)といった戦争関連の映画が公開される。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(7月25日公開)
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マーベル・コミックス初のヒーローチーム「ファンタスティック・フォー」(宇宙ミッション中に起きた事故で特殊能力を得た4人)の活躍を描くアクションエンターテインメント。過去にも映画化されてきた題材を、「アベンジャーズ」を中核としたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の一作として新たに映画化した。
「ファンタスティック・フォー」を演じるのは、ペドロ・パスカル、バネッサ・カービー、エボン・モス・バクラック、ジョセフ・クインという面々。監督は、MCUのドラマシリーズ「ワンダヴィジョン」を手掛けたマット・シャンクマン。
過去に『ファンタスティック・フォー 超能力ユニット』(05)と続編の『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』(07)、そしてリブート作品『ファンタスティック・フォー』(15)が製作されたが、どれも尻切れトンボで終わっただけに、MCUの一作として製作された今回こそは、ちゃんと続いていくのかという興味が湧く。
今回は、時代設定を1965年としたためかどこかレトロな雰囲気が漂う。日本では「宇宙忍者ゴームズ」として放映されたテレビアニメの世界をほうふつとさせるところがあった。
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『スタントマン 武替道』(7月25日公開)

香港アクション映画を支えたスタントマンたちに焦点を当て、彼らの葛藤と苦悩に加えて映画製作の裏側を描く。タイトルの「武替道(ぶたいどう)」は中国語で「スタントの道」の意味。
そんな本作の見どころは、アクション監督のサム役を数々の作品でアクション指導を務め、『燃えよドラゴン』(73)などに出演もした香港アクション映画界のレジェンド、トン・ワイが演じ、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24)のテレンス・ラウとフィリップ・ンが共演しているところ。
この新旧スターの顔合わせによって、香港アクション映画界の衰退や変化があらわになるのだが、「火がある限り希望はある」というせりふに象徴されるように、対立からの和解や希望を描いているのが本作の真骨頂。
スタントのことになると狂気的な性格破綻者となるサムを、実際にアクション監督として有名なトン・ワイが演じているのが面白い。どの程度実像が反映されているのかと考えると興味深いものがある。
(田中雄二)