アルピーヌ・エンデュランス・チームの35号車・36号車アルピーヌA424 2025年WEC第5戦サンパウロ アルピーヌのモータースポーツ担当副社長であるブルーノ・ファミンによると、同ブランドはIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPカテゴリーへの進出計画を「保留」しているという。同氏は、現在の経済状況ならびに市場の不確実性により、ルノー・グループが同ブランドのアメリカ市場への導入を延期する決定を下したことを理由に挙げている。
このフランスのメーカーは現在、LMDh規定のプロトタイプ『アルピーヌA424』でWEC世界耐久選手権の2年目のシーズンを戦っており、今季前半にはイモラとスパ・フランコルシャンで表彰台を獲得するなど、目覚ましい活躍を見せている。
LMDh規定の下では『A424』はIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPカテゴリーにも出場する資格を有する。
アルピーヌの幹部は以前、2027年に現行の電動スポーツカー群でアメリカ市場参入を目指すというアルピーヌのより広範な戦略の一環として、ウェザーテック選手権への参戦構想を示唆していた。しかし、さまざまな要因によりこれらの計画はその後ほぼ頓挫したとみられる。
アルピーヌの広報担当者はSportscar365に対し、「市場が変化した」ため、「異なる規制を持つ新たな市場を模索する前に、現在の市場を強化し、発展させる努力に集中する必要が生じた」と述べた。
さらに同社は、「ヨーロッパの自動車市場は今後数四半期でさらに状況が悪化する」と予想しており、そのため「積極的な追加のコスト削減策を講じる」ことになったと述べている。
これらの対策の一環として、アルピーヌは「ラインアップの開発を維持しながら、一部のサイドプロジェクトを延期する」ことを決定。アメリカ市場への進出もこのカテゴリーに該当する。
さらに、ドナルド・トランプ大統領が4月と5月にそれぞれアメリカ向けのすべての乗用車と自動車部品に25%の関税を課したことも要因のひとつと見られている。
ルカ・デ・メオの退任にともない、7月15日にルノー・グループの暫定CEO(最高経営責任者)に任命されたダンカン・ミントは、今年初めの決算発表記者会見において、アルピーヌのアメリカ市場への導入検討を「延期した」ことを明らかにした。
当時、ルノーのCFO(最高財務責任者)だったミントは、「いくつかの調査について詳細を話すと、アルピーヌをアメリカで商業化することについて検討していると言っていた。しかし、現在のアメリカの状況を考えると、これらの調査に資金を投入するのは適切な時期ではない。そのため、延期することにした」と述べた。
アルピーヌがウェザーテック選手権に参戦することの意味についてSportscar365に尋ねられたファミンは、そのような計画は「保留中」であると語った。
「私たちはブランドを宣伝するためにレースをしている」と同氏。「これは非常に良いプロジェクトだ。なぜなら、アルピーヌは広く知られなければならない。西ヨーロッパ以外でもブランド認知度を高める必要がある」
「もちろん、我々のブランドがアメリカでクルマを販売することを決定した日にIMSAに参戦するのは非常に理にかなっているが、当面は(経済的な)理由でストップが掛かっている。様子を見ながら待ってみよう」
■以前には“アンドレッティと協力”との推測も
正式なプログラムは策定されなかったものの、IMSAにおけるアルピーヌの話題は2022年に大きく報じられた。親会社のルノーがマイケル・アンドレッティと、アンドレッティ・オートスポートと当時呼ばれていた組織と交渉していたことが明らかになったためだ。これは、アンドレッティがF1参戦計画のためのエンジンサプライヤーを探していた時期に起こった。
しかし、このプロジェクトはその後、キャデラックF1チームへと発展し、来季2026年のデビュー時にはカスタマー向けフェラーリ製パワーユニットを使用する予定となっている。
アンドレッティはその後、ウェザーテック選手権のアキュラGTPプログラムの一環として、ウェイン・テイラー・レーシング(WTR)と提携。2024年のセブリング12時間レースで優勝を果たした。
WTRとアンドレッティのパートナーシップは2025年シーズンを前に事実上終了したが、アンドレッティ・グローバルの過半数株主であるダン・トーリス率いるTWGモータースポーツはWTRの株式を保有している。
一方、アルピーヌのWECプログラムはフィリップ・シノー率いるシグナテックと共同で運営されており、アルピーヌは昨年、同チームの株主となった。
プジョーがALMSアメリカン・ル・マン・シリーズに参戦していた当時、テクニカルディレクターを務めていたファミンは、IMSAへの参戦への情熱を改めて強調したが、同シリーズ参戦はブランド戦略全体と合致した「意味のある」ものでなければならないと述べた。
「どのチームもIMSAでレースをしたいと思っている。私自身もそうだ」とファミン。「過去に何度かそこでレースをする機会があったが、それは本当に素晴らしい経験だった」
「しかし、私たちはブランドのプロモーションのためにレースに出場している。そのため、明らかに適切なタイミングでブランドにとって意味のあるものでなければならない」
「ブランドプロジェクトが重要なポイントだと考えている。いつブランドの準備が整うかを確認してから、何をすべきかを決定するつもりだ」
[オートスポーツweb 2025年07月29日]