
ミュージシャンのCorneliusと、知的障害のある作家とアートライセンス契約を結びさまざまな事業を展開するヘラルボニーのコラボが実現した。
Corneliusと13人の作家たちによって共同制作された楽曲“Glow Within”が7月24日にリリースされ、同日から銀座にあるHERALBONY LABORATORY GINZA ギャラリーにて、展覧会『Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-』が開催されている。
過去の雑誌インタビュー記事をきっかけに、Corneliusの小山田圭吾が東京オリンピック・パラリンピック開会式の音楽担当を辞任してからちょうど4年が経つ。今回のコラボレーションには、どんな背景があったのだろうか。
撮影:淺田創
ヘラルボニーは2022年、障害のある人々の「ルーティン(常同行動)」に伴う音に着目し、音楽レーベル「ROUTINE RECORDS」を立ち上げた。Corneliusとの共同制作はプロジェクトの第2弾として実施。
楽曲制作にあたり小山田は岩手県花巻市にある福祉施設「るんびにい美術館」を訪問し、作家たちの創作風景と音に触れながら、1年半にわたって共同制作を進めてきたという。
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そうして制作された楽曲“Glow Within”では、マジックペンを使って絵を描く音、折り紙を折る音、ピアノを弾く音、そして作家たちの声などさまざまな音がまざりあい、丁寧に紡ぎ出されている。
今回の共同制作は、へラルボニーの創業者である松田崇弥が小山田に送った一通の手紙からはじまったという。
ヘラルボニー創業者の松田文登、小山田圭吾、松田崇弥 / 撮影:淺田創
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックをめぐっては、小山田が開会式の音楽を手がける予定だったが、障害のある同級生へのいじめについて語る過去の雑誌記事が問題視されたことで、謝罪文を発表。直前に辞任を発表していた。
なお、小山田は雑誌記事には事実ではない内容も記載されていると語っており、その後、当時の辞任騒動について真相を検証する書籍(『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』中原一歩著など)が発売されている。
重度の知的障害のある兄を持ち、当事者の作家とクリエイションをする松田は、当時noteに「『呪われたオリンピック』から『呪いを解くオリンピック』へ。」と題した記事を公開。一連の騒動は小山田個人だけの問題ではなく、「社会全体の問題」ではないかと綴っていた。
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松田はその後、小山田に手紙を送り、コラボレーションを持ちかけたという。手紙にはこのように綴られている。
本件は、小山田さん個人のみの問題では決してなく、欠落の対象として障害者が扱われてきた歴史、そしてそれを笑い者にしても良いと報道してきたメディアを含めた社会の空気感、社会全体の集団加担による悲劇だということを自覚して認めるべきだと感じたのです。 - 撮影:淺田創
手紙を受け取った小山田の所属事務所から返信が届き、打ち合わせなどを経て、今回の共同制作が決まったという。松田は小山田とともに福祉施設をめぐり、1年以上の対話を経て、今回の楽曲“Glow Within”は完成した。
コラボを通して松田は、「人は変化していけるということをヘラルボニーのスタンスとして表明していきたいという思いがありました」と語る。
「自分自身も褒められた人生を送ってきたわけではありません。もしかしたら自分の行動によって嫌な思いをした人もいるかもしれない。自分もいま34歳になって変わったなと思っていますが、未来をいい方向に進めていく、変わっていくということがすごく大事なことだと思います。人生の中で一度やってしまった過ちによってすべてが終わってしまうということはもったいないし、おかしいんじゃないかという思いがありました。楽曲を通して何か考えたり感じとっていただけたら嬉しいと思います」(松田)
展覧会『Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-』は、制作されたミュージックビデオの映像を会場で体験できる空間になっている。会場では小山田のコメントも展示されており、今回起用された13人の作家たちの創作風景も体感できる。
この曲「Glow Within」は、HERALBONYの松田さんから届いた
一通の手紙をきっかけに生まれました。
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過去に知的障害のある方々に対して、配慮を欠いた発言をしてしまい、
批判を受けたことがあります。
それ以降、自分なりにこの問題との関わり方を考えてきました。
その少し後に、誘っていただいてHERALBONYの展覧会を訪れました。
会場で作品に向き合っていると、内面がそのまま現れたような線や形にひかれました。
描こうとして描いたというより、内側からこぼれ出てしまったように感じられました。
手紙には、"ルーティンレコード"という構想についても書かれていました。
知的障害のある方々の日常にある、繰り返される動作やふるまいに宿る音に
目を向けるという考え方に、無理なくなじむ感覚がありました。
ふだんあまり交わることのない人たちとのあいだにある距離が、
少し変わるような感覚もありました。
この曲は、そうした表現や日常の断片に触れながら、自分なりの仕方で
音にしてみようと考えて制作したものです。 - 東京・銀座での展示は8月11日まで。その後、岩手のHERALBONY ISAI PARKでも開催を予定している。