降り続く雨と2度のオーバータイム・リスタートを乗り越え、ダレル"バッバ"ウォレスJr.(トゥエンティスリー・イレブン・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が今季初優勝 いくつもの劇的、かつ重要な瞬間を経験した“ブリックヤード”での一戦、2025年NASCARカップシリーズ第22戦『ブリックヤード400』は、インディアナポリス・モータースピードウェイ(IMS)に降り続く雨と2度のオーバータイム・リスタートを乗り越え、ダレル"バッバ"ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)が今季初優勝。レギュラーシーズン残り5戦でプレーオフ進出カットラインの当落線上にいた男が、キャリアでもっとも重要な勝利を奪うとともに、チャーター権剥奪に苦しむオープンエントリーのチームにも貴重なリザルトをもたらしている。
契約期間や条件の詳細は明らかにされていないものの、このレースウイークにて44歳のデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)がJGRと複数年契約を更新し、当面の間はトヨタ11号車に留まることを表明。そのコントラクトを祝うかのように、フリープラクティスでは最速タイムを記録していく。しかし予選に入るとその祝賀ムードも一転。今季最多勝男はターン2でコントロールを失いクラッシュを喫し、レースカーの11号車は大破。日曜決勝はスペアカーに乗り換えての最後尾スタートを強いられることとなってしまった。
そんな大先輩の窮地に奮闘したのが新チームメイトのチェイス・ブリスコ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)で、インディアナ州ミッチェル出身の地元レースを迎えた30歳は、開幕戦デイトナ500とコカ・コーラ600に続くシーズン4大レースのひとつである“クラウン・ジュエル”の3戦目で、ふたたびのポールポジションを獲得。ビッグイベント・コレクターとして今季5度目、キャリア通算7度目の栄誉を手にした。
「4つのコーナーすべてで、危うくクラッシュしそうになった」と苦笑いのブリスコ。「インディ500の予選がまさにギリギリのギリギリのところで、あれが一番(窮地に)近づいた瞬間だったと思う。何度か(コントロールを)失いそうになったけど、なんとか持ち堪えた。最高にクールだよ」
「正直、涙を堪えている。僕にとって特別な瞬間だし、ポールポジションを獲得したときに観客の歓声が聞こえただけでも最高だった。だから明日もこの調子を維持できればいいな。トヨタは本当に速いし、これで前方からスタートできるから明日こそ勝ちたいんだ!」
予選日から一夜明けた日曜の決勝では、フロントロウに並んだウォレスとともに集団を率いたブリスコが、順当にステージ1を制覇して34周のリードラップを記録。レース中盤から終盤に向けては燃費勝負の様相が色濃くなり、ステージ2で勝利を飾ったライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が142周目にピットインすると、ここまでトップ5をコンスタントに走行していたウォレスがリードを引き継ぐ。
ウォレスはレギュラータイム残り4周の時点で2番手のカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を大きく引き離していたが、突然の降雨のためここでNASCARは決勝5度目のコーションを発動する。
先頭集団に位置取るライバル車両と同じく、ウォレスの23号車カムリXSEも残り燃料量の不安を抱えながらの走行となるなか、雨は降り始めたのと同じくらい早く上がり、路面を乾かすための短いストップの後、ウォレスは最初のオーバータイム・リスタートでふたたびラーソンを引き離していく。しかし、バックストレッチで5台が絡むマルチアクシデントが発生し、ここでレースは2回目の延長戦に突入する。
ここでもウォレスと23XIレーシングは燃料が続くことを願いながらステイアウトし、ふたたびラーソンを抑え込むことに成功。インディの前年度覇者ラーソンも「ここでは追い抜く術がないし、正直言って他にできることは何もなかった」と、わずか0.222秒差で栄冠を譲る結果となった。
「最初のリスタートでは2速で走っていた。正直、その方が少しうまくいった感があったが、フロントストレッチで彼に抜かれそうになった。そして2回目のリスタートでは、彼がペースを少し落としたから1速で走る必要があった。昨年も同じような状況で、彼はイン側のレーンを優先していたが、それを破るのは本当に難しいんだ」
これでウォレスに訪れたキャリア通算3勝目は、2022年9月11日のカンザス・スピードウェイ以来100レース連続の未勝利に終止符を打つもので、最後の26周を含む30周をリードしたウォレスが、予定の160周を8周オーバーした長丁場を制してみせた。
「ああ、本当にこのチームを誇りに思う。このアドレナリンラッシュは信じられない。今まさにそのレースの直後で、もう疲れ切っているのにね」と、グランドスタンドを前に生後10カ月の息子ベックスを高く掲げたウォレス。
「信じられないよ。ブリックヤードで勝てたこと、このレースの規模の大きさ、背後で起こっているあらゆる雑音を承知の上で、それをすべて脇に置いて勝てたことは、この23号車のメンバーの努力の証だ。プレーオフ進出のカットラインが近づくにつれ、もううんざりしていたんだ」
惜敗のラーソンを挟んだ3位には、最後方から猛追を見せたバックアップカーのハムリンが続き、元NBAスーパースターである“神様”マイケル・ジョーダンとチームを共同所有するハムリンは「ほろ苦い気分」としながらも、苦しい立場に置かれた陣営の勝利を祝福した。
「ああ、ほろ苦い気持ちだ。でも今は彼らの指導を手伝っていて、毎週月曜日と火曜日に彼らのことを思い出す。自分が持っている技を彼らにすべて教えようと全力を尽くしているから、自分の一部がそこにいるのは分かっている。確かに、これは自分のカーナンバーではないし、自分のチーム、つまり11号車でないのは残念だけど、それでも正直言って、昨日は勝利のチャンスを逃してしまったので、今はとても満足しているよ」
そして、インセンティブ・プログラムの優勝賞金100万ドル(約1億4800万円)を掛けた『インシーズン・チャレンジ』の“ファイナル”は、タイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が21位、タイ・ディロン(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が28位でフィニッシュし、こちらもトヨタ陣営JGRが賞金を獲得。ディロンは78周目に当時首位でレースハイ40周をリードしたオースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)にラップダウンされ(そのシンドリックも右後輪パンクで脱落)、リスタート時にシボレー・カマロ10号車のノーズを損傷して3周遅れのフィニッシュとなった。
「100万ドルは大金だよ。だから(敗れた)タイ・ディロンが寄付したい慈善団体に1万ドルを寄付する。それは彼の選択だ」と語った勝者ギブス。「今日のトヨタ・カムリは速かったんだ。でも結局、目指していた場所(優勝)には辿り着けなかった。コース上のポジションを落としてしまい、勝つチャンスを逃してしまったのが悔やまれるね」
そしてヘンドリック同士のランキング首位争いを展開したウイリアム・バイロンとチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は、シリーズ首位奪還を狙ったバイロンの勢いがホワイトフラッグで止まり、最終オーバータイムのリスタートで3番手につけていた24号車は燃料切れで16位に後退。これでエリオットが4ポイント差で首位の座を守っている。
金曜夜に近隣のインディアナポリス・レースウェイ・パークで開催されたNASCARクラフツマン・トラックシリーズ第16戦『ティー・スポーツ200』は、レイン・リッグス(フロント・ロウ・モータースポーツ/フォードF-150)が勝利を飾ったものの、ここで3位に喰い込んだコーリー・ハイム(トライコン・ガレージ/トヨタ・タンドラTRD-Pro)がレギュラーシーズンのタイトルを獲得することに。
そして土曜にIMSで併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第21戦『ペンズオイル250』は、僚友ジャスティン・オルゲイヤーの献身もあり18歳のコナー・ジリッシュ(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)がシリーズ3連勝を達成。新進気鋭のスーパースターとしての揺るぎない地位を確固たるものにし、デイル・アーンハートJr.と妹のケリー・アーンハート・ミラーが設立したJRモータースポーツに通算100勝目をもたらしている。
https://youtu.be/xLjO3QjWGgQ
[オートスポーツweb 2025年07月29日]