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■谷口たっての希望で再挑戦が実現
谷口信輝と片岡龍也のコンビともに、長年にわたってスーパーGT・GT300クラスにメルセデスAMG GT3で参戦しているGOODSMILE RACING。その活動はスーパーGTのみに留まらず、小林可夢偉を加えた豪華なドライバーラインアップで2018年からはGT3カテゴリーにおける世界最大級のレースとして知られる『スパ24時間レース』への挑戦を開始した。チームは翌2019年も継続参戦したが、2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大防止を受けて渡航制限下とあり、海外参戦を一時中断せざるを得なくなった。
そんなGOODSMILE RACINGがおなじみ初音ミクカラーのAMG GT3とともに、長い中断期間を経て実に6年ぶりにスパ・フランコルシャン・サーキットへ舞い戻ってきた。一行は5月に同地で開催された公式テスト"プロローグ”に参加するため本番を前にスパへ訪れていたものの、6年ぶりとなる実際のレースウイークの雰囲気や空気感は、彼らにとっては非常に感慨深かったようだ。
可夢偉にとってスパはWEC世界耐久選手権で毎年走り慣れたコースだ。また、片岡はニュルブルクリンク24時間レースや欧州各国のサーキットでのテストなどでコロナ禍以降も国外で走行を重ねている。一方の谷口にとっては2019年以来、最初の海外公式レース参戦となり、チームの中で誰よりもこのスパ24時間に参加することへの喜びを噛み締めていたに違いない。
実は、GOODSMILE RACINGのスパへの復帰は、谷口のたっての強い希望により叶えられたという。それには過去2回出場したスパで『完走』という目標がまだ果たせていなかったこともあるようだ。その想いはコロナ禍を経ても消えることなく、谷口には消化不良のままずっと心に引っ掛かっていたようだ。その強い希望と熱意にグッドスマイルカンパニー会長である安藝貴範チーム代表の心が動かされ、いよいよGOODSMILE RACINGのスパへの挑戦が再始動するときが来たのだという。
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■チームを襲った非情のトラブル
その決勝レースでは、度重なるフルコースイエロー（FCY）とセーフティカー（SC）の導入により全長7.004�劼離魁璽江紊吠�散したマシンが都度都度一団にまとめられ、怒涛の接戦が繰り返された。その中で00号車メルセデスAMGは複数回の接触に遭遇。そのひとつは長時間の修復を余儀なくされたものの、片岡／可夢偉／谷口組は3度目の挑戦で初めて朝陽を拝み、日曜午後に待つチェッカーの瞬間に向かってチーム全員で戦った。
しかし、なんという運命なのだろうか、レースも終盤戦に入り4時間あまりを残しゴールも見据えていたその時、00号車メルセデスAMGを駆る可夢偉がエンジンの不調を訴えた。今度こそ必ず、強い志を持って遠く日本から挑んだだけに、エンジンブローを非運や不運という言葉では簡単に終わらせられなかった。せめてチェッカーフラッグを受けられるようにラスト数ラップでもコースへ復帰できるようにエンジンの修復を試みることはできないだろうか……。さまざまな葛藤と模索のうえ、刻々と時間だけが過ぎ去っていくが、もっとも重要な安全上の理由でこの6年ぶりのチャレンジも無念のリタイアとなってしまった。『リタイア』とひと言で片付けるのは容易だが、複雑な心境が入り混じりながらもあっけない幕引きとなった。
2018年から2年連続で出場し、一旦長い休止を経てふたたび大きな挑戦をすることは心身的な準備だけではなく、昨今の円安の影響を受けて決して容易ではなかったはずだ。それでもふたたび世界へ踏み出し、チーム全員の強い志を持って挑んだ今大会について、安藝会長や片山右京監督らに聞いた。
●GOODSMILE RACINGチーム代表 安藝貴範「スパへの挑戦は定期的にやるべき」
「とくに昨今のGT3のレースは、レベルがすごく高度になっているというか、『運転がうまい』『チームの戦略が素晴らしい』というだけでは、もはや勝てなくなっています。お金もそうですし、もっと言うとネットワークやコネクションとか、いい武器を手に入れられる状況にしなければ、なかなかいい位置で戦うこともできないという風になっているなと感じました」
「その一方で、世界と触れていかないと我々も錆びてしまうと思いますし、世界でできた新たなネットワークと得た経験は、日本のレース活動にも刺激を与えることができると感じていますので、やはりスパへの挑戦は定期的にやるべきかと思っています。ただちゃんと準備しないと勝てないというか勝負にならないので、もうちょっといろいろ準備を重ね、計画を練る必要があります」
「今回日本から応援に駆けつけてくれたファンもいましたが、この酷い円安と物価高のなかで、必ずしも誰もが気軽に海外旅行へ行けるのは厳しいなか、谷口がYoutubeを通して事前のテストからレースまで現地の様子を彼の視点でGOODSMILE RACINGのスパへの挑戦を発信して日本のファンに伝えてくれていたのも良かったと思います。久々にスパへやって来て、日本のサブカルチャーがさらに世界に広がっていることで、それを通じて我々を知ってくれている人たちがずいぶん増えているのを実感しています」
●GOODSMILE RACING監督 片山右京「世界って良いな」
「チーム全員で本当にゴールをしたかったから、応援してくださる人々に、本当に申し訳ないなと思います。限られた環境のなかで、ドライバーたちはみんなが本当に頑張っていたと思います。ちょっとトラブルがあったり、セッティングが思うように決まってはいなかったけれど、それでも一勝懸命頑張って今までの挑戦のなかで初めて朝を迎えました」
「前回の217周、10時間48分を大幅に超えて今回は247周を走り抜きました。レースだからエンジンブローが起きるのはとくに特別なことではないのですが、『まさかこのタイミングで』と思うと残念ですけど仕方がありません」
「でも、こうやって経験を積むと心に刺激が入るじゃないですか。そうすると向上心がどんどん沸いて出てくるので、前向きにもっと上を目指したくなるんです。みんなで力を合わせてこのスパの激戦を争っているのを間近で観ていると、何かを思い出したという感覚になり『世界って良いな』と思いました」
●片岡龍也「なかなかゴールさせてもらえない」
「スパに関しては、全75台がGT3でつねに団子状態。そして『24時間レースってことをみんな忘れているんじゃないか』というくらいに激しいレースです。とくにアクシデントが起きる度にFCYからSCを導入して団子にするのでリスタートの度に一斉に振り出しに戻る、激しいぐちゃぐちゃな状態があります。このレースはとにかく、最後までサバイバルが続くので、24時間を本当に全開で走り続けるタフさが必要です」
「自分たちはかなり完走にシフトして戦ってきたのに、まさかエンジンが壊れるとは……。なかなかゴールさせてもらえないレースです。またいつチャンスがあるか分かりませんが、一度はチェッカーフラッグを受けてみたいと願っています。私が今まで経験しているレースのなかで、本当の意味で世界でもっとも過酷なレースだなと思います」
●小林可夢偉「何が一番理想的かを考える必要がある」
「なかなかすごいドライバーや強いチームが揃い、『ここで勝つということは、とんでもないことだな』という状況を改めて経験できたと思います。ここで勝つには体制もしっかりしていなければならないですし、本音を言うと『ワークスじゃないと勝てないんじゃないか』と思います」
「そういう体制を作るということ自体がかなりチャレンジングで、ここスパを戦ううえで何が一番理想的であり、果たしてチャンスはあるのかということをしっかりと考慮して挑むべきだと思っています。今回はレーススタート前からマシンが遅く、体制以前の問題でもありました」
●谷口信輝「この挑戦は決してムダではなかった」
「僕がここスパへ何としてでも戻ってきたのは、ここへ来るとやはりドライバーとしてものすごく触発されるのです。過去に2度参戦し、2度ともゴールできていGOODSMILE RACINGなので、今回こそは絶対に……と」
「今回初めて組んだ現地チームとの即席で、いきなり上位を狙えるほどスパは甘くないのは充分承知していますので、まずはスパ24時間をちゃんと一度やり遂げたいという思いで来ました」
「自己満足のスタイルで走らないように、僕のスティント中には絶対にやらかさないようにしようという気持ちで挑みましたが、まさかのエンジンブローとなってしまいました。3度目のチャレンジも未達成で終わりました。残酷ですが、これもレースですね。でも、この挑戦は決してムダではなかったと確信しています」
[オートスポーツweb 2025年07月30日]
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