ブラジルのファンは1988年と1989年のワールドチャンピオンシップで何が起きたのか。その歴史をよく覚えている マクラーレンは7月25〜27日に開催された2025年F1第13戦ベルギーGPにて、オスカー・ピアストリが優勝、ランド・ノリスが2位となり、ふたたび盤石のワン・ツーフィニッシュを達成した。チャンピオンシップも終盤に入り、タイトル争いは両者によるものへと変貌するなか、かつてこの名門で巻き起こった因縁の対決をよく知るブラジルのファンは、シーズン終盤にかけて激化する傾向にあるライバル関係の様相を案じる。そして同時に、ルーキーながら“強気の無線”で先輩に道を譲るようチームに依頼したブラジル出身ガブリエル・ボルトレートの態度には称賛の眼差しを向けている。
マクラーレンでふたりのドライバーがタイトルを争うのは今に始まったことではなく、ブラジルのファンは1988年と1989年のワールドチャンピオンシップで何が起きたのか、その歴史をよく覚えている。
当時、アラン・プロストとアイルトン・セナはチームメイトとしてレースを重ね、チャンピオンシップを争い、他のドライバーたちはタイトル争いの脇役に過ぎなかった。F1の異なる時代を直接比較することは不可能だが、チームメイト間の緊張関係と交互の優勝、そして緊迫するポイント争いがライバル関係の激化を促し、とくにマクラーレンは圧倒的な強さを誇るマシンを持っている場合「大々的に内部抗争に介入することなく放置してきた歴史がある」と、ブラジル・リオデジャネイロに拠点を置く世界最大級のメディア・コングロマリット『ge.globo』のF1専門サイトは指摘する。
チーム代表のアンドレア・ステラも「どちらかが有利になることはない」との考えを明確に示しつつ、現在の両ドライバーが「F1チャンピオンのようなドライビングをしている」とも語っている。
もうひとつの重要な違いは、1988年シーズンはプロストがすでに2度のワールドチャンピオンであり、マクラーレンで“2冠”を獲得していた状態で始まったことで、このフランス人の地位は非常に高かったものの、セナはすぐに存在感を示し、チーム加入初年度に初のワールドタイトルを獲得した。
しかし、マクラーレン内ではピアストリとノリスの地位はほぼ同等で、ノリスの方がチーム在籍期間が長いというアドバンテージがある。しかし、スパでの今季6勝目により、ピアストリはワールドチャンピオンシップでノリスに16ポイントの差をつけている。その最大の要因はレースがセーフティカー導入下でローリングスタートを切ったことと、ポールポジションが「不利」と言われるスパのトラック特性にもあったと分析する。
そんな年間でもっとも過酷とされるこのサーキットで、初参戦ながら9位でフィニッシュし、キャリア2度目のポイントを獲得したボルトレートは、前戦イギリスGPでのタイヤ選択ミスからの回復を強調。ザウバーで戦うルーキーはふたたびトップ10フィニッシュを果たしたことに満足感を示した。
「良いレースができた。本当にできることはすべてやった。これからも努力を続けベストを尽くす。まだやるべきことはたくさんあるけど、今日の結果は我々の好調なパフォーマンスと、この期間に達成した多くのポジティブな成果を示している。シルバーストンでの教訓が活かされたね」と、同サイトのインタビューで語ったボルトレート。
そのシルバーストンでは、路面がまだ濡れているにも関わらずスリックタイヤに交換するというリスクを冒しリタイアに終わった。一方、チームメイトのニコ・ヒュルケンベルグは戦略を的確に遂行し、自身初のF1表彰台を獲得した。
オーストリアGPでの8位以来となる入賞に「どちらも非常に価値があり、特別なものだ」と語ったボルトレートは、今回もイギリスに続くウエット〜ドライのチェンジオーバーを捉える難しさがあったことに触れつつ、的確な判断が下せたことに自信を見せる。
「どちらも素晴らしいレースだった。でも、今日のレースはより難しかった。オーストリアのレースはドライ路面だったから、より激しく、ペースも速かった。でも、今日のスパはコンディションが異なり、僕自身とチーム双方の成熟度を示すことができたね」
そのボルトレートは、タイヤ交換作業後に渋滞に巻き込まれたことに不満を表明し、リアム・ローソン(レーシングブルズ)に阻まれたヒュルケンベルグのペース不足を無線でチームに訴え、オーバーテイクできないのであればヒュルケンベルグがポジションを譲るのも当然だと、自身のトラックエンジニアであるホセ・マヌエル・ロペスに直訴した。
ボルトレート:「ニコ(ヒュルケンベルグ)はパスできないのか? お願いだ。いいスピードが出ていると思う」
ロペス:「よし、ガビ(ボルトレート)。君たちふたりはローソンの遅さに付き合っているようだ。とりあえずタイヤを大事にして、このまま様子を見よう」
タイヤマネジメントについて断続的に指示を出した後、ロペスはふたたびボルトレートに連絡を取り、ミディアムコンパウンドの状態について尋ねた。この時点で両ドライバーともポジションを上げており、ヒュルケンベルグは9番手、ボルトレートは10番手だった。
ロペス:「タイヤはどうだ?」
ボルトレート:「タイヤはいいよ。今のところとても良い。ニコは彼(ローソン)をオーバーテイクしなければならない! そうでなければ、彼は僕にパスを許してくれ!」
ここから19周目を終えたボルトレートは、サーキット最長ケメル・ストレートの終点ターン5で「ヒュルケンベルグのオーバーテイクを許可する」という無線の通知を受け、有名なオー・ルージュで初めてポジション変更を知らされたヒュルケンベルグも、続く20周目でルーキーに先を譲ることに。その後、ローソンを捉えて8位に浮上することは叶わなかったものの、ボルトレートは安定したペースを維持し、大きなトラブルもなく9位でレースを終えた。
ザウバーはここ数戦でマシンに数々のアップグレードを施し、2024年に最下位だったチームは、ドライバーがトップ10圏内で戦えるチームへと変貌を遂げた。ボルトレート自身も、次週開催のハンガリーGPに大きな期待を寄せている。
「ザウバーは好調で確かに大きく改善したけれど、だからといって毎週末上位にいられるわけではないんだ。スパ・フランコルシャンは僕たちにとって良いコースだったし、ブダペストでも良い結果が出る可能性はある。このペースを維持していくつもりだし、状況は良い方向に向かっているね」
一方でノリス対ピアストリの新たな章は、彼らのライバル関係において歴史的なサーキットを訪れることになり、ハンガロリンクは昨季ノリスとマクラーレンの間で激しい無線での議論が繰り広げられた後、ピアストリが初優勝を飾った場所でもある。どちらが勝利を収めるにせよ、チームメイト同士の争いは1988年と1989年のプロストとセナの際と同じように、ますます白熱することになる。
[オートスポーツweb 2025年07月30日]