佐々木藍咲(LHG KDDP KC-MG01) 女性限定フォーミュラカーレースが開幕し、大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ第2戦の富士スピードウェイにて、GR86/BRZ Cupクラブマンシリーズ、JCCA Sクラスなどに参戦し、旧車好き女子としても知られる佐々木藍咲(LHG KDDP KC-MG01)に、自身のルーツや今後の人生設計などを聞いた。
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⎯⎯まずは2024年のKYOJO CUPシリーズと、5月に行われた開幕戦を振り返った感想を教えてください。
佐々木藍咲(以下、佐々木):悔しさの残るシーズンでした。参戦2年目の昨年は表彰台争いを目標にしていたものの、うまくいかずにシーズン8位という結果で終わりました。今年の開幕戦は初のフォーミュラカーレースでしたが、合同テストでの調子がかなり良かったため、自信をもってレースに臨みました。ですが、戦略、レースへの取り組み方といった部分が勉強不足で中団あたりの順位になってしまったので、私としては少々悔しい開幕戦でした。
⎯⎯今季からフォーミュラカーが導入されることを聞いた際は、どのようなお気持ちでしたか。
佐々木:率直に『マジか!』と思いました(笑)。まさか自分が乗れるとは思っていなかったので、フォーミュラに乗っているという事実に少し違和感を覚えることが今でもあります。レースを始めて今年が3年目になりますが、昨シーズンを見ていて下さった方々の紹介やご縁でフォーミュラに乗ることができているので、とてもありがたいです。
⎯⎯3年目のシーズンを迎えたとのことですが、モータースポーツをはじめたきっかけはどのようなものでしたか。
佐々木:私の両親はクルマ好きなのですが、母が勤めていた旧車屋の社長さんがレースに出場されるということで、ベビーカーに乗っていた頃から旧車のレース観戦に行っていました。当時、私はその社長さんを応援していたのですが、応援している人がレースで勝ち続ける姿を見て、レーシングドライバーに憧れを抱いたことがモータースポーツをはじめたきっかけです。ただ、本格的にレーシングカートに乗り始めたのは中学3年生の頃からで、それまではバレーボールに打ち込んでいました。
⎯⎯バレーボールはいつから始められたのですか。
佐々木:小学校高学年から本格的に始め、中学ではチームのキャプテンを務めたりしました。卒業後もバレーを続けるかという点は非常に悩みましたが、さまざまな学校からお誘いを頂いたので、バレーのスポーツ推薦で受かった高校に進学し、バレーとカートの練習を同時並行で続けていくことを決めました。
ただ、進学先が東京都ベスト8レベルのバレーボール強豪校だったため、テスト期間で部活動が休みになるタイミングを狙ってカートの練習をしていました。そのような環境に身を置いていたこともあり、これまでカートに費やしてきた時間は合わせて2年程度しかないのですが、バレーもモータースポーツも、どちらもやりたいという気持ちが止まりませんでした。
⎯⎯結果的にモータースポーツの道に進むことを選ばれたようですが、バレーを止める決断は難しいものでしたか。
佐々木:私のモチベーションは常に『憧れのドライバーのようになりたい』というところにあり、レーシングドライバーになりたい気持ちが強かったので、バレーは高校で止めることを前々から決めていました。それでもバレーを続けられた理由は、バレーの経験が必ずモータースポーツにも活きるという自信があったからです。どのような場面でも絶対にボールを落とさないという不屈の精神や、サーブを打つ場面など、ここぞという場面を自分自身の力だけで乗り切るスキルは、レースでも活かすことができていると思います。
⎯⎯プロのレーシングドライバーになることを決断されたタイミングはいつでしたか。
佐々木:中学生の頃、脇阪寿一選手のYouTubeでニュルブルクリンクの車載動画を見たことで、目指すべき目標が定まりました。私は脇阪選手のファンなのですが、峠のようなスリリングなコースを走る姿に惹かれ、自分自身もニュルブルクリンク24時間レースに出たいと思うようになりました。自分の憧れの人から頂いた夢なので強い思い入れがあり、その気持ちがモータースポーツに真剣に取り組むモチベーションに繋がっています。
⎯⎯佐々木選手が理想とするドライバーは脇阪選手ということになるのでしょうか。
佐々木:ドライビングもトークも上手で、いろいろな方から愛されている脇阪選手のようになれたらという気持ちはあります。ですが、あえて理想の人は作らず、自分が今できることに全力で取り組むという点を重視しています。目標は脇阪選手ですが、憧れを抱く要素のなかに自分らしさを加えていき、自分なりのプロドライバーの姿を確立していきたいと思っています。
⎯⎯佐々木選手は、レースのない日はどのようなお仕事をされているのですか。
佐々木:スーパーフォーミュラに参戦しているKids com Team KCMG(株式会社ディーティーエム)に勤めています。なので、本来であればチームクルーとして仕事をするところなのですが、(KYOJO CUP第2戦はスーパーフォーミュラ併催大会のため)今日はドライバーです(笑)。KCMGからKYOJO CUPに出場できることが決まった際、土居隆二社長からお声がけ頂いたことがきっかけで現在はマネージャーのような業務を担当しています。
⎯⎯レースウイーク以外の時間もモータースポーツに関わっておられるのですね。休日はどのように過ごされていますか。
佐々木:最近はあまり休日がないのですが、シミュレーターをしたりカートに乗ったりしています。モータースポーツ以外で好きなものがあまりないので、常にクルマに関する物事に取り組んだり、考えている気がします(笑)。最近はフォーミュラ・ニッポンにハマってしまい、レースウイークが始まる前にバトルの感覚をイメージトレーニングしてきました!
⎯⎯クルマが大好きだということがよくわかりました。好きなクルマはありますか。
佐々木:FD3S型マツダRX-7、ダットサン240Z、DR30型ニッサン・スカイラインの3台が好きなのですが、ダットサン240Zには特に思い入れがあります。旧車レースの話に戻りますが、応援していた方が乗られていたのが240Zで、私にとっては夢をもらったクルマといっても過言ではないため、どうしても愛がこもってしまいます(笑)。
⎯⎯3台とももれなく旧車ですが、旧車のどのような部分に魅力を感じていますか。
佐々木:音とガス(排気ガス)の匂いです。素朴なエンジン音や大排気量エンジンの音に魅力を感じるので、私個人としては音の出ないクルマはありえないと思っています(笑)。あとは、現代のクルマと異なるフォルムにも魅力を感じていますね。
⎯⎯旧車のことになると勢いがすごいですね(笑)。今後挑戦してみたい物事は何かありますか。
佐々木:旧車屋をやりたいと思っています。これは私の人生設計のなかでは既に決定事項です(笑)。
⎯⎯今後の人生プランがすでに決まっているのですか! ぜひ詳しく教えてください。
佐々木:まず、ニュルを追うという夢は30歳までと決めています。これはレーシングドライバーとしての活動は30歳が限界だと考えているのと、期限を決めておかないと時間を浪費するためです。なので、ドライバーとしての活動は30歳というタイミングで一度区切りをつけ、それ以降に旧車屋を運営するという計画を考えています。
とはいえ、私はレースが大好きなので、レース活動を止められない可能性も大いにあります(笑)。ですが、30歳以降にドライバーという道を志す場合は、何らかの大きな目標を目指すのではなく、出場させて頂いたカテゴリーでの勝利を目指して活動をすることになると思います。
⎯⎯ニュルブルクリンク24時間レース出場に向けた計画もすでに組み立てられているのでしょうか。
佐々木:ざっくりと計画してはいます。実を言うと、今年はこのレース(ニュル24時間)に出場するという具体的な目標があったのですが、達成することができなかったので計画を組み立て直している最中です。ですが、今季のKYOJO CUPでフォーミュラに乗れたことは、ニュルブルクリンク24時間レースに出場するという目標達成に向け、大きな意味があると思っています。
ニュルブルクリンクといえばトヨタというイメージが強いですが、そのトヨタさんからサポートを頂ける環境に身を置くことができているので、今シーズンはチャンピオン争いに加わることを目標に、優勝を狙って少しでも良い結果を残し、今後に繋がるチャンスを掴めるようにしたいです。
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開幕前に行われた第1回合同テストでは総合2番手、第2回合同テストでは総合3番手タイムを記録していた佐々木。7月19日に行われた第2戦のスプリントレースは惜しくも入賞に一歩届かず、翌20日のファイナルレースは接触によってリタイアとなったが、次戦では速さを取り戻した佐々木の姿を観ることができるだろうか。第3戦も佐々木の走りに注目したい。
⚫︎プロフィール 佐々木藍咲(ささき・らみ)
2004年5月10日生まれ、東京都出身。2023年にKYOJO CUPへの参戦を開始し、3年目の2025年シーズンはKids com Team KCMGから出場。第2戦終了時点のドライバーズランキングは金本きれい(ミハラ自動車エムクラフトRT KC-MG01)と同率の10位となっている。今季はKYOJO CUPの他、GR86/BRZ Cupクラブマンシリーズ、KYOJO KART、JCCA Sクラスに参戦を果たしている。
[オートスポーツweb 2025年07月30日]