国際観艦式に参加した海上自衛隊の潜水艦=2022年11月、神奈川県沖の相模湾 海上自衛隊の潜水艦修理を請け負う川崎重工業が海自隊員に不正に物品提供していた問題で、海自側が補給品不足を現場で解消するために修理を水増しするなどし、三菱重工業などにも備品提供を要求していたことが明らかになった。防衛省の特別防衛監察報告書は「不正行為が海自の監督官経験者に根付いて受け継がれたことは否定できない」と指摘。不正が黙認されてきた疑念も浮かぶ。
防衛費は13年連続増額され、反撃能力(敵基地攻撃能力)を柱にした防衛力整備計画には過去最大の43兆円が投じられる。コンプライアンス(法令順守)の欠如は巨額の予算執行が適正なのか信頼性にかかわる。
看過できないのは不正がまかり通る海自の体質だ。報告書によると、三菱重工は2004年以降、造船大手「ジャパンマリンユナイテッド」(JMU)は14年以降、海自側に物品要求をやめるよう申し入れたが、あしき慣習はその後も続いた。報告書は「コンプライアンス確保に向けた造船会社による根絶の取り組みが、海上自衛隊側によって押し戻された」と明記。発注する海自と請け負う企業との力関係も透ける。
海自トップの斎藤聡海上幕僚長は30日の臨時記者会見で、当時の海自の対応について「(企業の)申し出を真摯(しんし)に受け止め、すぐさま改善すべきだったと反省している」などと述べた。
反撃能力の要となるイージス艦や潜水艦など、海自が抱える装備品調達額は自衛隊の中でも群を抜く。防衛装備庁が一元的に自衛隊の装備を調達する「中央調達」の24年度実績は、陸・空自衛隊の装備品がいずれも1兆円台だったのに対し、海自は2兆円を超えた。中央調達の企業別契約実績はトップが三菱重工(1兆4567億円)、川重(6383億円)が続く。
自衛隊関係者は「海自は艦船という閉鎖的な勤務環境に加え、おかしいと思っても声を上げにくい旧海軍の体質を引きずっている」とも話す。海自は昨年、潜水手当の不正受給問題で160人が処分された。コンプライアンスを真に徹底できるかが問われる。