渡辺翔太だからこそ体現できた“優しさ” 『事故物件ゾク 恐い間取り』原点回帰な恐怖も魅力

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2025年07月31日 09:10  クランクイン!

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映画『事故物件ゾク 恐い間取り』場面写真 (C)2025「事故物件ゾク 恐い間取り」製作委員会
 2025年はJホラーがアツい。6月6日に公開し、漫画実写作品としての側面も持ちつつ非常に評判が良かった『見える子ちゃん』や、6月13日公開の『ドールハウス』が興収12億を突破したことなど、邦画ホラージャンルが活気づいている。もちろん夏だから、と言えばそれまでかもしれないが今年は特に1月24日公開の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を皮切りに、昨年末にテレビ放送されたTXQ FICTION第2弾『飯沼一家に謝罪します』が映画として上映されたり、原作が35万部を突破した『近畿地方のある場所について』も8月8日の公開を控えていたりと、パンチの効いたホラー作品が揃いに揃っている。その中で、注目したいのが7月25日に公開された『事故物件ゾク 恐い間取り』だ。週末興行ランキング新作邦画実写1位を記録した本作には、「クセになる恐さ」「恐いだけのホラー映画ではなかった」などの反響が寄せられている。

【写真】肩に髪の毛が・・渡辺翔太に降りかかる恐怖!

■前作との方向性の違い

 本作は、興行収入23億円超えのヒットを記録した『事故物件 恐い間取り』(2020)に続くシリーズ最新作ではあるが、前作との関連性はなく単独作として楽しめる(ちなみに、1作目に登場した“ある人物”がカメオ出演するのも見どころのひとつだ)。主人公の桑田ヤヒロは福岡の工場勤務で、昇進の話も上がっていたが、タレントとしての夢を捨てきれず一念発起して上京する。工場長の山中(滝藤賢一)のツテで小さな事務所の社長である藤吉(吉田鋼太郎)を案内され、「事故物件住みますタレント」として活動を始める。

 特筆すべきは、やはり前作と恐怖やキャラクター設計、物語の方向性の違いだろう。前作の主人公も芸人として売れたい、という野心を抱えて事故物件に住み始めるが、実際のところ「とにかく売れたい」という野心しか見えてこないところが少し勿体無かったとも言える。心配する周囲の人間を大切に扱わなかったり、時には危ない目に遭わせたりと行動原理がやや理解し難い場面も多かった。

 一方、本作の主人公であるヤヒロは徹頭徹尾“優しい”。年齢的にも自分がタレントになることの難しさを理解しつつ、それでも食らいついていこうとする。その背景に、“幼少期に得たある人からの言葉”があることで行動の理由も理解できるようになっているのだ。そして、彼の“優しさ”が、霊などの存在に憑かれやすいというのもプロットの肝となっていて、人物とストーリーの筋がちゃんと通っているのが映画としての見やすさにつながっている。恐怖だけでなく、どこか物悲しい人の気持ちや物語が作品に込められている、という本作の特徴は脚本を担当した保坂大輔の持ち味だ。清水崇監督の「村シリーズ」3作を手がけてきたことで知られる保坂は、「怖い」だけでなく家族や姉妹、友人の絆、怨霊が生まれた背景にある悲壮感を表現することを大切にしている。本作の監督である中田秀夫の作風にもそれがリンクしているからこそ、相性が良かったように感じ、それもあってストーリーに奥行きが生まれたように感じた。

■映画単独初主演で挑んだ渡辺翔太の力量

 さて、そんなヤヒロの“優しさ”も渡辺だからこそ体現できたものだろう。Snow Manのメンバーであり、俳優はもちろん“美容男子”として美容クリニックのアンバサダーに就任するなど個人の活動が目覚ましい渡辺。俳優としては2012年の中山優馬主演のドラマ『Piece』(日本テレビ系)にSixTONESの松村北斗と共に出演。同じグループのメンバーと共に『簡単なお仕事です。に応募してみた』(日本テレビ系)でカルテット主演を務めたのち、2024年1月放送の『先生さようなら』(日本テレビ系)で単独での連続ドラマ初主演を果たす。

 着実に俳優としてのキャリアを築いている渡辺は、本作でもその手腕を発揮している。事故物件に住み続け、寝ている間に幽霊に噛まれても(!)特に気にした様子ではないヤヒロだが、もともと大のビビりである渡辺。Snow ManのYouTube企画で「くらやみ遊園地」で撮影をした際にも、些細な物音で肩を飛び跳ねあげるほどだ。そのため、ホラー映画の主演を務めるにあたって、恐怖シーンでもオーバーなリアクションや悲鳴を披露するのかと思われた。しかし、声をあげるだけでなく、気味が悪いものを見た時の「うっ」というリアルなリアクションも混ざっていて、恐怖を表す感情の振り幅と演技の抑揚が上手い。作品のプロモーションの一環として映画の原作者・松原タニシと参加した島田秀平のYouTube企画では、怖いものに対して「嫌だけど見たい」「恐いけど大好きで見ちゃう」と意外とホラーものが好きな一面を見せていた。そんな彼自身の魅力が投影されているような主人公ヤヒロ。彼の“優しさ”につけ込んで幽霊が寄ってくるのに、さらにその“優しさ”で窮地を乗り越えるようなパワーには目を見張る。

 また、本作のヒロインである畑芽育との相性も良い。渡辺にはこれまでも『青島君はいじわる』(テレビ朝日系)での中村アンや、『なんで私が神説教』(日本テレビ系)の広瀬アリスなど、共演する女優の魅力を引き立たせるような良さがあったが、本作でもそれが発揮されているように感じる。バラエティで見せる“甘えん坊”の顔は抑えつつも、普段から纏(まと)う優しそうな渡辺の人間性がヤシロというキャラクターに説得力を持たせ、アイドルとしての存在感以上に俳優としての実力を、自身の魅力を重ねて提示していた。

■恐怖演出は原点回帰に近いか

 本作は恐怖演出においても、前作と少し違いがあるように感じる。前作は幽霊や怨霊というより、彼らが死んだ(殺された)時の描写の方が恐ろしく、「日常に潜む恐怖」や「生きている人間が怖い」という印象が強かった。それに対し本作はより純粋な怪奇ホラーとして幽霊による恐怖演出に力を入れている。それゆえに、恐怖シーンも夜のものが多いのだ。そして、時々映画の中に散りばめられた“説明のつかないもの”も良い味を出している。旅館の中継シーンで、ヤヒロではなく音声スタッフが奇怪な声を拾っていたり、その現場にいた撮影班全員が“憑かれた”ヤヒロを目撃したりと、怪奇現象が誰か一人の気のせいではなく公然のものとして起きているのが面白い。

 それでもあえて深入りしないような雰囲気で解散するスタッフもリアルで、芸能界ではしばしこういうことも本当に起こりそうだな、と思わせるのが上手いのだ。何より、旅館に向かう途中でヤヒロがバスの中から見つけた、“謎の木”の存在感も素晴らしかった。ああいう気味が悪いものって実際に見かけるけど、見かけただけ、というオチのなさが本当にリアルで「これは恐らく原作者の松原タニシが実際にこういうものを見かけたのだろうな」と思っていたところ、エンドクレジットでやはり本物の写真が流れてくる。そこで本作がある程度“実話に基づいた”作品であることを改めて思い出すのだ。

 中には『リング』の中田監督だからこその“恐怖演出”もあり、前作に比べると怖さは増しているも、まだまだホラーになれない人が楽しめるような描写や、伏線回収など物語としての面白さをアピールした本作。夏に欠かせない、幅広い層に受けるホラー映画としての需要や渡辺のファンの数からして、興行収入の行方が気になるところだ。また、10月3日には渡辺と同じグループのメンバーである宮舘涼太が出演するミステリーホラー映画『火喰鳥を、喰う』が公開予定。今年はやはりJホラーが活気づいている。(文・アナイス/ANAIS)

 映画『事故物件ゾク 恐い間取り』は公開中。
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