
つかこうへいの「幕末純情伝」がミュージカルになって帰ってくる。
AKB48卒業後初、村山彩希が舞台単独初主演を務める、革命ミュージカル「新・幕末純情伝」が、8月8日(金)〜8月24日(日)まで、つか作品の聖地、東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演される。公演を間近に控えた7月30日(水)に都内で稽古場公開が行われた。
「幕末純情伝」は、“演劇界の風雲児”として知られ、没後数十年を経た今もなお、多くの俳優・観客を引きつけてやまない劇作家・つかこうへいの名作にして代表作。幕末の京都を舞台に、新撰組の沖田総司が実は女だったという、つかこうへいのユニークな着想のもと、1989年8月にPARCO劇場で幕を上げて以来、幾度も舞台化されるたびに話題を呼んできた。
幕末の混沌(こんとん)の中で、一人の少女が“女であること”を武器に時代を駆け抜ける、壮絶で痛切な愛と革命の物語、「新・幕末純情伝」が、今夏、初の“ミュージカル”として生まれ変わる。
主演は、AKB48卒業後初・舞台単独初主演となる村山彩希が務め、少女・沖田総司を演じる。グループ在籍時から“劇場の女神”と称され、表現力に定評のあった彼女が、つか作品という最も熱量の高い世界で、かれんさ、強さ、そして命を燃やすような情熱を携え、沖田総司を新たに体現する。
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沖田総司に恋をし、彼女の運命を揺るがす存在、坂本龍馬に百名ヒロキ、総司を守り、龍馬と対立する新撰組の鬼の副長・土方歳三に柳下大、総司を育て導いた軍艦奉行・勝海舟に細貝圭、長州の知将・桂小五郎に青木瞭が決定。
時代の闇に生きる孤高の人斬り・岡田以蔵を嘉島陸。教師になる夢を抱く新撰組隊士・二宮を佐久本宝が演じる。新撰組局長・近藤勇に久保田創、新撰組隊士・山南に小川智之、冷酷で狡猾な明治維新の黒幕・岩倉具視に杉山圭一と、つかの意志を受け継ぐ3人にも注目を。
そして、新キャラクター・長州藩浪士の伊藤俊介に小川優、さらに衣装デザインと新撰組隊士役の“二刀流”として平塚翔馬が参加する。
演出は、つか作品を数多く手がけてきた岡村俊一。振り付けを手がけるのは、「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」で木村伝兵衛を演じ話題を呼び、演劇的な世界観をダンスとJ-POPで創り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の多和田任益。
集まった大勢の取材陣を前に公開された稽古場風景。村山、百名をはじめとする出演者16人全員が出演して、殺陣、ダンスシーンなど迫力たっぷりの稽古シーンを展開。
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今回、初ミュージカル化された流れを表現するかのように、「リフレインが叫んでる」にのって、沖田総司が登場人物それぞれとの関係を歌いかける印象的なシーンや、「ケセラセラ」にのって、沖田総司と新撰組との心のつながりを歌で表現したシーンなど3シーンを披露した。

稽古シーン披露のあとには、村山彩希、百名ヒロキ、柳下大、細貝圭の4人が登壇して、会見が行われ、4人がそれぞれに公演へ向けた思いや、稽古の感想、見どころなどを語った。
村山「私は、所属していたAKB48を卒業して初めての挑戦がこの『新・幕末純情伝』ということで、とてもプレッシャーを感じていますが、自分らしい沖田総司を演じていけたらなと思っています。見どころは、総司がわりと男前なので、男口調だったり態度だったりというところですね。いままでAKBのときは出していなかった自分かなと思うので。初めて、怒りの感情だったりを込められたという今回の稽古だったんで、みなさん、楽しみにしててください」
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百名「僕もつかこうへいさんの作品は見たことはあったんですが(出演は)初めてで。稽古場に来て“あ、ここまですごい熱い現場なんだ”というのを目の当たりにしたんです。ホントに本番が楽しみで。早く、みんなと一緒に本番でお客様に伝えるのが楽しみです。…いま、3シーンやっただけですが、見てのとおり汗ダクで。稽古場はいつもびしょびしょです。昨日も総司が、みんなの汗でこけたぐらいだったんです。でも、やっててすごいきついですけど、これが生の良さでもあるし、この作品に出られてよかったとすごく誇らしく思います。いままで長年受け継がれてきた作品に出られてうれしいですし、しかも坂本竜馬役ということで。ミュージカルになったことで、今までにない見やすい作品になっている、お薦めしやすい作品になっていると思います。“熱量”を届けていきたいです」
柳下「僕個人的には、つか作品、紀伊國屋ホールというのが10年ぶりにやらせてもらうので、とても楽しみにしていますし、早くみなさんに見て頂きたい気持ちでいます。『新・幕末純情伝』は、けっこういろんなパターンを見させていただきましたけど、出演するのは初めてで。しかも土方歳三という大役をやらせていただくということで、非常に気持ちを入れて稽古場に行ったら、2〜3日目にいきなり声をつぶしてしまいました。それぐらい気持ちを込めてやってます。ホントに共演者のみなさんんの熱量がすごすぎて、日々、(稽古場から)帰りながら、“今日は勝てたな”、“負けてたな”というくらい稽古場の熱量がすごいので、早くみなさんにお届けしたいです」

細貝 「僕個人としては7年ぶりの『新・幕末純情伝』なんですが、新しいこのキャストで、新たな『新・幕末純情伝』をみなさまにお届けできることをうれしく思っています。…久々につか作品にふれて、改めて、体に悪い芝居だなあと思うと同時に、7年ぶりにまた同じ役(勝海舟)をやらせてもらうんですが、自分の体の劣化を非常に感じる日々です。でもまたこうして新しいメンバーで、ありとあらゆる液体を体から放出して、みんなでがんばろうという…この一体感がね、いいと思います。全力で体で表現するのが、つかさんの魅力だと思います」
数々の見どころが詰まっている「新・幕末純情伝」だが、何といってもいちばんの見どころは“少女・沖田総司”。歴代、そうそうたるメンバーが演じてきたこの役は、女優にとっての登竜門でもある。そんな大役の最も難題は、本格的な殺陣。
会見で、殺陣について聞かれた村山は、「苦労だらけでしたね。殺陣をすごく楽しみにはしていたんです。経験があるみなさんと違って、私はゼロから教わりに行ったんですが、初日の稽古に行ったて、“スタートラインが違うんだ”と気付いた瞬間から、心が折れて、帰りたくなった」そうだが、それでも、(稽古のための)木刀を自宅に持ち帰ってまで練習を重ねたという。さらには、先輩たちの励ましも。
村山「みなさんが居残りで(殺陣の練習に)付き合っていただいたりしてくれて、そのおかげてできるようになりました。早く、みなさんにお届けしたいです」
沖田役の役作りのために過去の作品の映像を見て研究もしたそうだ。
村山「いままで舞台を見たことがなかったので、台本をもらった時点で、前回(菅井友香主演 つかこうへい復活祭2023「新・幕末純情伝」)の菅井ちゃんの回の映像を見せてもらって。そこから、いろんな映像をみたら、いろんな沖田がいていいんだなというのが感想だったんで、あえて(映像を)見るのをやめて。自分が似ているところを探して、自分らしくやろうと意識しました」
一方、役作りに、難しい殺陣の習得に努める村山の姿を、男性陣は感心しながら見ているという。会見の中でも、村山の殺陣について百名は「歴代いちばん! 女の人であれだけできるのを見たことがない」とベタぼめ。それは男性陣だけではない。会見の様子を見守っていた演出の岡村俊一も、百名の発言を聞いて大きくうなずいていた。
会見の最後に、村山が改めて、公演を楽しみにしている観客に向けてメッセージを送った。
「私自身、生のステージをずっと大切にしてきました。私個人的に言いますと、AKB劇場ではなくなって、ほかのステージになるんですが、ほかの環境に来て新しい出会いがあって、こんなに刺激を受けることはなかなかないです。いろんなことを教えていただいたからには、その感謝も込めて、みなさんにステージで伝えるのが、いま私ができることだと思いますし、恩返しだと思っています。この“熱量”をぜひ、みなさんの自分の目で見ていただければと思います」

※撮影/柏井彰太