前回は、PDCAサイクルの重要性や止まってしまう原因と具体的な解決策を紹介しました。
PDCAサイクルはあくまでも仕組みです。仕組みを実行するには人や組織、文化も必要になります。「データを基に判断すること」についての社内理解向上や、体系立てて実行する人員が欠かせません。
最終回となる今回は、その具体的な内容を解説していきます。
●データドリブンな文化を作る 3つの要素
|
|
Webマーケティングやデジタルマーケティングの世界において、「データドリブン」という言葉自体は頻繁に使われますが、実際にデータを活用した継続的な改善活動(PDCAサイクル)を組織に定着させるのは容易ではありません。
ここからの内容は、特に経営や担当者の上司となるマネジメント層の方々にとって非常に重要な内容となります。
それでは、データドリブンな文化を構築し、Webサイトの継続的な改善を実現するための具体的な方法について解説します。
データドリブンな文化とは、単にデータを収集・分析することではありません。データを基に改善を進めるための組織が作られ、運用されている状態を指します。
私は、データドリブンな文化ができている状態とは以下の3つを指すと考えています。
|
|
(1)全員が納得できている数値目標(ゴールとKPI)がある
KPIは、成功確率を上げるための方針決めと取捨選択であり、単なる評価指標やベンチマークではありません。そのため、KPI設計は担当者を明確にして草案を作成し、チーム全体で真剣に議論して決定する必要があります。
そして、決定したKPIは必ず周知し、Webサイト、ビジネス、組織・個人の評価に活用することで、組織全体の意識統一を図ります。
(2)「データ分析」「データ人材育成」「データに基づいた評価」の環境が整っている
これらの環境が整っていれば、分析や施策にチャレンジしやすくなり、改善に向けたモチベーションを維持することができます。
|
|
1.データ分析環境:分析を実現するための環境やツールの準備
データを分析する環境が整っていなければ、PDCAの「Do=実行」しかできません。
まずは、ユーザーを把握するための適切なツール選びとそのための予算を確保しましょう。その際、分析に向けた適切なデータ取得設計や各種権限の調整も必要となります。
さらに、ツールの使い方や考え方が分からない場合のサポート体制も重要になります。困った時に頼れる場所が分からない状態になると、動きが止まってしまい、ちょっとしたきっかけでデータを活用しなくなってしまいます。
下の画像は、私が以前リクルートに勤めていた際に作成していた、解析ツール用のポータルサイトです。よくある質問や最新の情報、セミナー資料や動画などを用意して500人程度の利用者を支えていました。
2.データ人材育成の環境:社内勉強会やチーム内での情報共有会の実施
データ分析の環境だけが整っても、分析できる人材がいなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。ツールの使い方はツールベンダーからやインターネット上で学べますが、データの見方や分析方法を身に付けるのは簡単にはいきません。
私のおすすめは、3段階のレイヤーを作り、それぞれに必要な知識を身に付けてもらうことです。それぞれのレイヤーで必要な知識は変わってきますが、まずはベースをしっかりそこえることで、必要な人材が育ちやすくなり、ビジネスゴールにつながらない余計な工数の削減も行いやすくなります。
3.データに基づいて評価する環境:ゴールやKPIに貢献することが評価につながる
ビジネスゴールやKPIにひもづいた人事評価項目を必ず設けましょう。
実施した施策でいい結果が出ているのにそれが評価されないと、やる意味を見失いモチベーションが下がってしまいます。
結果による数値目標を設定しにくい段階では、施策数(活動量)を評価として設定することもあります。もちろん定性的な評価の仕組みも外せませんが、同じくらい定量目標を明確にして責任を持たせる・持つことが大切です。
(3)自社のデジタルマーケティングの「ステージ」を理解し常に次を目指す
自社の組織をよりデータドリブンな組織にしていくには、まずは自分たちの状態(ステージ)を理解する必要があります。以下は、私がデジタルマーケティングを6つの項目×5つのステージに分けたマップになります。
それぞれの項目に対して、今自分たちがどこにいるのか、どのように次のステージを目指して進めていけばよいかの参考にしてみてください。
●データドリブンで継続的にPDCAサイクルを回すために押さえるべき組織体制
どの部分を社内で担うのか、どの部分を社外と連携するのかは会社規模、予算などによって変わるので、必ずしも正解はありません。
ですが、これまでの私の経験値から整理すると、効果的なデータドリブンなPDCAサイクルを実現するためには、以下の職種と役割が必要ではと考えています。
必要な職種と役割
それぞれ明確に必要なスキルが違うため、適切な人材がいるかを確認し、社内からの登用や今後の採用などの検討に役立ててください。
ディレクター
・全体のゴールやKPIを基にした優先順位付け
・ブランド部署との調整力と情報収集力
・施策実行のための予算管理や技術導入、各人員のサポート
・マーケ会社との連動
アナリスト
・どのような情報を収集すべきかの設計
・必要な情報を集めるための施策やツールの検討
・エンジニアと連携しながら、データ取得や分析環境の構築
・定期的なレポート作成とそこからの示唆の提示
エンジニア
・アナリストと連携してのデータ設計や取得対応
・デザイナーや企画側と連動し必要な機能の開発やテスト
・分析や施策実行に利用するツールや機能の最適化
デザイナー
・企画の情報を分かりやすく制作物への反映させる
・デザイナーの視点からの気付きや施策の提案
・UIの評価をするためのA/Bテストのアイデア出し
・制作会社に対してのディレクション
企画・プロモ
・他メンバーからのインプットを基にした企画の立案
・企画実行のためのブランドチームとの調整や予算確保
・広告代理店とのコミュニケーションを通じたプロモの実施
●「仕組み」を用意するだけでは成果は出ない 最後は「人」
12回にわたった小川卓の「学び直しWebサイト改善」シリーズも今回が最後です。ここまで、Webサイト改善に必要となるさまざまな内容を解説してきました。
データ取得・レポート・分析にも多く触れてきましたが、これらはあくまで手段です。本来の目的は、改善施策を出す・実行する・それらを評価し、また次へとつなげていくことです。
繰り返しにはなりますが、継続的なPDCAサイクルを支えるデータドリブンな文化の定着は、仕組みを用意するだけでは実現できません。最後は「人」なのです。
そのために、経営やマネジメント層には、「理解を示す」「障害を取り除く」、そして「自分が確信を持つまで考えて信じる」ことが求められます。
まずは、データドリブンな改善活動を業務ミッションとして担ってもらう人材を用意し、小さくても一度PDCAサイクルを回すことから始めましょう。積極的に発信してくれるタイプの人材を見つけ、やれる範囲からスタートして成果を出すことで、その人が周りを巻き込み、次の人材が出てくる好循環を作り出せます。
現場の担当者は、「自分の改善指標を明確にする」「PDCAサイクルをより回りやすくする」「自分で解決できない場合は周りや上司に相談する」ようにしましょう。
既存の業務を「捨てる勇気」と新しい業務に「踏み出す勇気」を持って、PDCAサイクルを回せば、今よりもっと成功しやすい組織が出来上がり、今よりもっと働きやすい環境も手に入るでしょう。
このシリーズの学びから何ができるかを考えて、まずは1つチャレンジしてみてください! では、また別の機会にお会いしましょう!
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。