
森田剛が主演する舞台、パルコ・プロデュース 2025「ヴォイツェック」が9月23日に開幕する。本作は、ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーが遺した未完の戯曲を、2017年にジャック・ソーンが翻案した作品を日本で初めて上演。冷戦下の1981年のベルリンを舞台に、過去のトラウマと自身の心の闇と闘いながら生きるヴォイツェックの姿を映し出す。演出は、2018年から新国立劇場の芸術監督も務める小川絵梨子が担当する。森田に公演への意気込みや舞台に挑む思いなどを聞いた。
−本作の出演が決まったときの心境を聞かせてください。
何年か前に「小川絵梨子さんの作品に出演しませんか?」というお話をいただいたのが最初です。小川さんの舞台は何度か見させていただいたことがありますが、ある作品の撮影でお会いしてお話をした西尾まりさんから「小川さんの作品に合いそうだね」と言っていただいたことがあって。小川さんのことはずっと気になっていたんですよ。その後、「ヴォイツェック」でご一緒できることになりました。
−なるほど。「ヴォイツェック」の戯曲を読まれた印象はいかがでしたか。
好きな作品だなと。お芝居をする上で自分に負荷がかかる役というのは、大変ですがやりがいがあるだろうなと感じています。
−負荷のかかるお芝居が好きなんですね。
自分ではストッパーを外せないですし、無意識のところでストッパーをかけてしまうこともあるので、大変であろう役を演じられるのはありがたいですし、うれしい…かな。…うれしいのかはよく分かりませんが、超えていきたいと思っています。
−本作の出演が決まったときのオフィシャルコメントに「ヴォイツェックという人物に対して理解できる部分がたくさんある」とありましたが、それはどういうところに対してですか。
誰でも根っこには、少なからず傷ついたり悩んだりすることはあると思うので、そういう意味で理解できるところもありますし、それをどれだけ膨らませられるかだと思います。ヴォイツェックの純粋で真っすぐなところを大事に演じたいです。どうしても大人になるとそうした気持ちは霧がかかったように見えなくなってしまいます。自分自身もそんな真っすぐでいちずな人でありたいと願いますし、そうした役にも興味があります。それと同時に、落ちていく姿も理解できますし、想像することもできます。舞台でそれをどう表現するのか。小川さんにはどのようなプランがあって、どう演出されるのか。すごく楽しみです。
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−純粋で真っすぐだからこそ傷つくし、落ちていくということなのでしょうか。
単純に言うとそうなのだと思います。本当は政治や戦争が絡んだりしていて、もっと複雑に絡み合っていくのだと思いますが、今の段階ではまだ整理ができていないので。これからの稽古でより深めて見つけていけたらいいなと思います。
−小川さんとのタッグで楽しみにしていることは?
(取材当時)まだお会いできていないので、お会いしてみて分かってくることがあると思います。今回、伊原(六花)さん以外の出演者の方も初めての方ばかりです。大変な作品になると思うので、助け合って、アイデアを出し合って、小川さんのイメージをしっかり落とし込めたらいいなと思います。
−伊原さんとは2024年上演の「台風23号」に次いでの共演になります。伊原さんの印象を教えてください。
伊原さんのことはあまり知らなかったので、こうだというイメージはなかったですが、稽古を見ているととても自由で、体の使い方がすごく上手で、面白かったです。当たり前ですが、今回は全く違う役なので、きっとまた新しい一面を発見できるのではないかと思います。
−初めての方と一緒にお芝居をする楽しみは、どういったところにありますか。
やっぱり刺激を受けます。「こう考えるんだ」「こう動くんだ」と芝居を見て影響を受けることもありますから、そうした意味でも楽しみです。
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−本作は、19世紀を代表する未完の戯曲です。そうした作品を今、上演する面白さや魅力はどう感じていますか。
自分は与えられた役を生きることに集中したいと思います。ただ、今も昔も、みんなそれぞれに傷ついて、それを隠して生きていると思います。戦争は終わらないし、いつ起こるかも分からない。戦争と背中合わせの世界であるということは今も変わらないので、きっと共感してもらえる作品になるのではないかと思います。
−コンスタントに舞台に出演されている森田さんですが、舞台ならではの魅力をどんなところに感じていますか。
(魅力がどこにあるのかは)あまり考えたことがないかもしれません。ただ、自分に合っているのかなとは思います。始まったら終わりまでストップしないというスタイルも、そこにお客さんがいるという空間も合っていると思います。刺激や怖さなど、普段、生活していて感じることがない気持ちになれるのも、自分には必要なことだと思っています。
−怖さというのは?
舞台は途中で辞められないので、緊張感もあって、やっぱり怖さは感じます。それはほかではなかなか経験できないことです。
−今回の公演は地方公演も含めて3カ月ほどの長丁場となりますが、コンディションをキープするための森田さん流のやり方はありますか。
運だと思います。体も声も大事ですし、皆さん覚悟を持って舞台に臨まれていると思うので、何があってもやり切ること。ただ、どうにもならないこともあると思うので、あとは運かなと思います。
−森田さんがオフィシャルコメントの中で「この作品は根底には純粋な愛をテーマにしている」と語っていましたが、森田さんにとっての純粋な愛はどんなものですか。
何でしょうね。…分からないですね。ただ、物に対しても人に対しても、丁寧に扱うということは心掛けています。できる限り、好き嫌い関係なく。ボンって(放り投げるように)置かずに丁寧に置いたり、開けたらきちんと閉めたり。生活の中での丁寧さは意識しているところです。
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−丁寧に接することが愛情表現につながる?
愛情表現なんですかね…そうかもしれません。
−最後に、観劇を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
この作品は、映像的な作品だと思うので、舞台で見せるというのはチャレンジングなのではないかと感じています。同時に、すばらしいものが舞台で表現できそうでもあります。作られたものとリアリティーが混合した気持ちの悪いものができそうな気がするんです。舞台は生で人が“生きている”姿が見られるので、見たことがない方はぜひ一度、劇場で見ていただきたいですし、舞台に興味がある方は何か新しい感覚を味わっていただける作品になると思います。
(取材・文・写真/嶋田真己)
パルコ・プロデュース 2025「ヴォイツェック」は、9月23日〜28日に都内・東京芸術劇場 プレイハウスほか、岡山、広島、福岡、兵庫、愛知で上演。
