
その頃、まだ、低粘度油性インクが使える高級ラインのボールペンは少なかったため、ユーザーとしては、“待ってました”という感じで受け止めたことを覚えています。
ジェットストリームの高級ライン「プライム」シリーズがリニューアル

その「プライム」シリーズが、2024年12月にリニューアル。“ちょうどいい上質感”をコンセプトに「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式3色ボールペン」とノック式の「ジェットストリーム プライム 3色ボールペン」を発売。
さらに、2025年6月には「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式シングル」と「ジェットストリーム プライム 多機能ペン 3&1」を追加。新しい時代の金属軸ボールペンへ向けて、デザインを大きくリニューアルしています。
「当初『プライム』は、少しデコラティブというか、ビジネスユースにふさわしい少しキラッとしたクリップを付けるといったところがありましたが、今回のリニューアルでは、クリップと軸との段差を抑えるなど、もう少しシンプルでノイズレスなデザインを意識しました。
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「デザインは時代のトレンドも意識しています。例えばクリップに関して、車のデザインを想像してもらうと分かりやすいと思いますが、昔は少し角張ったようなデザインや、パーツの主張がしっかりあるようなデザインが主流だったところを、全体になじむような、シームレスな感じに変化させたところが、世の中の潮流を反映していると思っています」と渡邉さん。
そういう変化は、カジュアルな分野だけでなく、いわゆる高級品や上位モデルでも同じように起こっているという時代認識の上で、今回のリニューアルを行ったというお話でした。
ある意味、世の中のカジュアル化ということだと思うのですが、カジュアル化と高級化を両立させるのが、現在のデザイナーの腕の見せどころなのかもしれません。
カッチリした高級感に加えて「ちょうどいい上質さ」を追求

「やはり、かなり使用環境が変わってきたと感じていて、そこで使われるものについても、使った時に特別感があるような出来を保ちつつも、現在の環境に合った形で内容を変えていこうとアプローチしたのが、2024年末から2025年にかけてのリニューアルだったのかなと思っています」と、プライム立ち上げの時の開発メンバーで、現在は広報を担当されている深沢直人さん。
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「スタイリングの考え方としては例えばエントリーモデルとして、価格はもちろん、女性が職場で活躍されることが増えてきたといったことも意識していました。
今までのプライムの上位モデルのカッチリした高級感から、“ちょうどいい上質さ”を表現するために、例えば軸を短くしたり、頭部に少し丸みを持たせたり、また、全体をシームレスにつなげるような表現や、真ん中にあるインジケーター部分を黒で締めるといったことを考えて設計していました」と渡邉さん。
実際、今回新しく設計された「回転繰り出し式3色ボールペン」は、かつてのギフト用途や年配向け的なデザインというよりも、普段使いしやすいルックスになっているように思いました。
軸の色も、クラウディーホワイト、アイビーグリーン、コットンピンク、シトロンイエローと、落ち着いた色合いながら、ブラックやシルバーといった、かつての高級ボールペンにありがちだった色は採用されていません。
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高級感とカジュアルさが調和した「ジェットストリーム プライム 3色ボールペン」

今回のリニューアルで筆者が一番気に入っているのは、「ジェットストリーム プライム 3色ボールペン」。高級ボールペンを作る場合、ノック式だとデザイン的にどうしても高級感が出しにくく、回転繰り出し式かキャップ式が主流になりがちのところ、プライムシリーズでは、最初から多色のノック式をラインアップに入れていました。
多色のノックはシングル以上に高級感を出すのが難しいところを、三菱鉛筆では軸の側面に付いたノックボタンの構造を一新。ノックボタンが沈み込まず真っすぐに下がる機構を搭載して、ノックの感触自体に高級感を持たせるといった工夫を施しました。
今回、それをカジュアルなデザインの中に搭載し、高級感を保ちながらも、キュートな感じさえあるスマートなデザインに仕上げています。
「『3色ボールペン』は、私が担当したものではないので聞いた話になってしまうのですが、ノックボタンの形状に関しても何通りも検討を重ねた上で今回のデザインに至っています。クリップの形状も、とてもシンプルだけれど“ペンの顔”になる個性を出すようにしているんです。
バランスを取るのがかなり難しい部分ですが、他のモデルのデザインも踏襲しながら、独自の個性を出すことを考えました。カラーリングも時代に合わせて、自分の好みで選べるカラーリングにしています。
結果的に、いろいろなノイズをそいでいくことで、軸色とクリップの黒だけという色のバランスが、筆記具としてなじんで見えるようにできたと思っています」と渡邉さん。
ペンの「顔」とも言えるクリップ部分に個性とシリーズ感を託す

今回のリニューアルされたプライムは、「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式3色ボールペン」「ジェットストリーム プライム 3色ボールペン」のカジュアルなラインと、「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式シングル」「ジェットストリーム プライム 多機能ペン 3&1」のより高級感のあるラインに分かれるのですが、その4種類とも、クリップの構造は同じで、ただ、細部のデザインや色が違うという形で、統一感と個性を両立させています。
「クリップのデザインは、最初、全て同じにするといったアイデアもあったのですが、プライムの中でのポジショニングを考えた時に、イメージに幅を持たせるために今回はあえて同じにはしませんでした。
全く同じ顔にするよりも、真ん中のスリットを共通のアイコンにしながら、少しずつ形を変えることで、よりカジュアルであったり、より従来のビジネスシーンに適したカチッとしたイメージであったりと、根底のところは同じイメージを持たせつつ幅を見せるようにしています」と渡邉さん。
このクリップの形状の違いが、同じシリーズ内における各モデルの立ち位置の違いをうまく表現しているように思えました。
その意味で言えば、今回のリニューアルモデルの中の、より高級モデルというか、従来のビジネスシーンに寄り添った「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式シングル」「ジェットストリーム プライム 多機能ペン 3&1」は、デザイン的にも従来のプライムのイメージに合わせてあることで、クラシカルな高級感があって、カジュアルな新軸もあるというラインアップは、バランスを考えたうまい構成だと感じました。
持ちやすさ、書きやすさも追求した「全てにおいてベストを尽くした1本」

取材していて興味深かったのは、クリップの形状を変えたり、軸のデザインを変えたりすることで、ペンごとに持ちやすい重心位置も変わってくるため、その都度、細かく調整していくというお話。
「同じように重量が増えたとしても、先端側で増えるか、手元側で増えるかで重心バランスも変わります。人間の手の感度は鋭く、小さな違いもとても細かく感じ取れるので、研究開発チームに実際の素材で削り出していくつかモデルを作ってもらった上で、比較、検討を重ねました」と渡邉さん。
今回の軸は、どれもグリップは付いていないのですが、微妙にくびれがあったり、握る部分が少し膨らんでいたりと、かなり微妙な曲線になっています。その曲線はモデルごとに違っていて、それが握った時の高級感というか、指にしっくり収まる感じにつながっているように思いました。
実際、重心や質感などを考慮した上で、いくつも試作品を作ってたどり着いた形とのことでした。「全てにおいてベストを尽くした1本」だと開発担当の皆さんが胸を張っていました。
カジュアルさと上質さに個性も加えたパッケージデザイン

実際のペンはもちろん、面白いと思ったのはパッケージのデザインです。紙箱なのは、現在のパッケージとしてはどこのメーカーでも主流なのですが、それが単なる「箱」になっていないのです。
特に、エントリーモデルの「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式3色ボールペン」は、箱と紙袋の中間というか、側面が内側に折り込まれて、上に行くほど薄くなる構造が斬新です。

「パッケージデザインは世の中のカジュアル化という流れの中で、今までの黒い箱ではなく、色があったほうがいいと考えました。エントリーモデルに関しては、カチッとしたものよりも少し崩したデザインで、『今までと違うな』『なんかいいかも』と思ってもらえるような形を目指しました。
ただ、プライムとしての上質さは失いたくないので、ニスをかけるだけではなく、そこに特殊な加工を施して上質さを表現したりもしています。いろいろなきっかけで手に取ってもらえるといいなと思ったので、物だけではなくパッケージもこだわりました」と、商品開発部デザイングループの山根康喜さん。

箱の色もピンクやオレンジなどを選びつつ、トーンを抑えた品のいい色が選ばれていて、このような部分も、ポップさと上質さのバランスがうまく取れています。
個人的には、山根さんが「筆記具っぽくないようなパッケージにしたいという思いがありました」と語る「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式3色ボールペン」のパッケージデザインが、本当に素晴らしいと感じています。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))