あえて、言い切らせてもらおう。
毎年、世界中で多くの人々の命を守っている、これからのウェルネスを考える上で必携ともいえる「Apple Watch」。まだ使っていない人がいたら、2025年こそがデビューのチャンスだ。
最も価格が手頃なベーシックモデル「Apple Watch SE 3」が、円安で日本では前モデルより少し値段が上がってしまった(3万7800円から)が、それを上回るスペックの向上があり、標準モデルである「Apple Watch Series 11」(6万4800円から)の仕様にかなり接近した。
もちろん、いくつか足りていない機能はあるが、それでもほとんどの人は十分満足できる仕様になっている。
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標準モデルとなるSeries 11は、SE 3と比べると進化が控えめだ。通信機能が5Gに対応したり(SE 3も対応)、バッテリー容量が小型の42mmモデルで9%、大型の46mmモデルで11%増量されたり、フル充電で利用できる動作時間が約24時間に増えた(低消費電力モードを使えば約36時間)。
また、発売当初は米国のみでの提供だが、新たな健康通知機能として「高血圧」を教えてくれる機能が追加される(日本でも2025年内に提供予定)。健康機能としては、睡眠の質にスコアをつけて振り返れるようにする睡眠スコア機能も追加されるが、これはSE 3やwatchOS 26にアップデートした過去モデルでも利用できる機能だ。
最上位モデルの「Apple Watch Ultra 3」は、前モデルに比べて進化が大きい。まずディスプレイが進化した。ケース本体のサイズはそのままながら、額縁が24%小さくなり、Apple Watchの中で最大のディスプレイがさらに大きくなった。
しかし、それ以上にうれしいのが標準モデルが先行して導入していたLTPO3という技術を採用したことだ。これにより操作をしていない省電力状態中も毎秒1回画面がリフレッシュされる。このため、一部の文字盤で省電力状態であるにも関わらず、ちゃんと秒針が動いてくれるのだ。従来モデルのUltra 2では、究極でなければいけないUltraがSeries 10に負けていた部分だ。
少し不甲斐なかったUltra 2から名誉を回復するように、Ultra 3では基本機能がアップしている。何といっても大きいのは、腕につけた小さなApple Watch単体で衛星通信を行える機能だ。“冒険”のためのウォッチとしても売り出されているApple Watch Ultra 3だが、電波のない危険な場所で万が一、遭難をしてもこれで救助を呼ぶことができる。
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もう1つは、こちらもサバイバル時に重要なバッテリー動作時間で、これまでの約36時間から約42時間と6時間も伸びた(低消費電力モードでは約72時間)。さらに15分の充電で約12時間動作させることができる。完全に「究極のApple Watch」の名誉を回復できたのではないかと思う。
それでは、各製品を細かく見てみよう。
●Apple Watch SE 3:ベーシックモデルの概念を覆す劇的進化
まずはSE 3から見てみよう。スペックの劇的向上の核にあるのは、Series 11やUltra 3と同じ最新チップ「S10」の搭載だ(前モデルはS8だった)。これによりSeriesと比べて見劣りしていた以下の特徴を一気に手に入れた。
・常時点灯ディスプレイ:これまでのSE 2は操作を終えてしばらくすると画面が消え、再び使うには腕を上げるか画面をタップする必要があった。SE 3では画面が消えないので、操作をしていない時でも時刻など画面上の情報が確認できるようになった(ただし、上位モデルと違って秒単位の更新はないので秒針は表示できない)
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・オン・デバイスでのSiri:通信をせず単体でSiri機能を使った音声操作が可能になり、Siriの反応が早くなった
・ワン・ハンドジェスチャー対応:操作をする手が荷物を持ったり、何かをつかんでいたりして使えない時に、Apple Watchを装着した側の手の人差し指と親指をタップする動作で電話に出たり、音楽の再生/一時停止を行ったり、腕をクルッと回転させるジェスチャーでかかってきた電話を留守電に回したりできる
・音声分離:周囲の音がうるさい場所での通話時、話者の声だけをAI処理で分離してクリアな音声で相手に届ける
・内蔵スピーカーでのコンテンツ再生:ヘッドフォンがなくても本体のスピーカーで音楽やPodcastを聞くことが可能に
・体温センサー:睡眠時に装着しておくと朝にその日の体温を記録し、排卵期などを含む生理周期を管理できるようになった(体温計として使えるわけではない)
こういったS10搭載による恩恵に加え、今回、新たに5Gの通信に対応し、ディスプレイをカバーするIon-Xガラスも、従来のものより4倍ヒビ割れに対する耐性が高まったり、急速充電性能が倍になって15分の充電で約8時間利用できるようになったりするといったハードそのものの進化も加わっている(バッテリー動作時間は標準で約18時間/低消費電力モードで約32時間)。
さらに最新のwatchOS 26の採用による恩恵もあって、Apple Watchの新たな標準機能となった睡眠スコアの記録や、優美なLiquid Glassの操作画面などが利用できるようになったのも大きな特徴だ。
後述するSeries 11と比べると、例えばECG(心電図を測る機能)や血中酸素濃度を測る機能など、いくつかの一歩踏み込んだ健康ケアの機能が省略されてはいる。
しかし、それでも転倒や交通事故を検出して、ユーザーの意識がない場合には今いる国の救急救命機関や近親者に自動で現在の位置情報などの情報を送信する機能、緊急時にサイドボタンの長押しで緊急連絡をしたり、意識がない状態で救急車に運び込まれた時に血液型やアレルギー反応などの貴重な情報を救命士に教えたりするMedical ID機能を備えている。
さらに、Wi-Fiの電波がない場所に迷い込んだ場合でもGPSを使って出発地点に戻れるように案内してくれる機能を備えるなど、驚くほど多くのあなたを救ってくれる機能を搭載している。
無事に目的地に到着したり、帰宅したりしたことをGPSを使って自動的に保護者に伝えるチェックイン機能も備えており、子供に持たせる時計としてもかなりお勧めだ。
その上で、Apple Watchの元々の魅力であるワークアウト(エクササイズ)などの記録を行ったり、交通案内系などの豊富なアプリを使ったりすることもできる。
テクノロジー好きな人は他製品と比べてどの機能が多い、少ないと比較級で価値を判断しがちだが、正直、業界トップクラスといえる品質の機能がこれだけ凝縮された製品が4万円を切る価格で提供できているのは、すごいといわざるを得ない。
これまでのSEシリーズもそうだが、この価格を実現するためにAppleのブランド企業としての看板に傷をつけないギリギリのところで、製品パッケージの作りなどあらゆるところでコストダウンの努力をしているのが伺える。
●Apple Watch Series 11:洗練と機能性を両立した王道スタンダードモデル
5Gの通信も含めたSE 3の全ての機能を備え、以前のSeries 10より2倍ヒビ割れ耐性が強くなったIon-Xガラスコーティング、そして最長24時間のバッテリー動作時間(低消費電力モードで約38時間)を備えたのがApple Watch Series 11だ。
前モデルのSeries 10からは順当で、やや控えめな進化ではある。5G搭載やバッテリー動作時間、英語圏ではワークアウトバディというワークアウト中にユーザーを励まし、統計を集約してくれるワークアウト用のアシスタント機能への対応、Ion-XガラスコーティングやwatchOS 26の新機能である新しい文字盤やスリープスコアへの対応が主なものだ。
正直、そこまで大きな進化ではなく、現時点でSeries 10を使っている人があえて乗り換える必要はない。
しかし、これから新たにApple Watchを買う人にとっては、Seriesモデルのそもそもの魅力としてSEを大きく上回る特徴が多い。
まず製品としての高級感が違う。製品のパッケージの品質にも大きな差があれば、パッケージを開けた際に本体が収まっているケースなども違う。製品開封の瞬間から「自分は質の高い良い製品を買ったんだ」という喜びがあふれていて感動が大きい。
製品そのもののデザインも微妙に異なっており、狭額縁で本体の縁ギリギリのところまで広がるディスプレイの美しさ、エレガンスといった点でもSeries 11の方が優れている(今回、なぜかSE 3の貸出モデルが大型の46mmモデルではなく、小型の42mmモデルが支給されたため、写真ではあまり直接的な比較ができていないので公式ホームページなどで確認してほしい)。
製品のバリエーションも多く、よりリーズナブルなアルミニウムモデルに加えチタニウムモデルがあり、こちらはディスプレイがさらに頑丈なサファイヤクリスタルで覆われている。
アルミモデルのバリエーションとしてNikeとコラボモデルがあり、チタニウムモデルのバリエーションとして10周年を迎えたエルメスコラボモデルがApple提供のものとして6種類用意されている(Appleは本革の使用をやめたためこれしか扱っていないが、エルメスのWebサイトにはAppleが把握していない本革ストラップを使ったバリエーションが多数ある)。
Series 11のディスプレイは、後に触れるUltra 3と同様に1秒に1回描き直しされるディスプレイなので、画面が暗くなる節電モード中でもちゃんと秒針が毎秒更新される。
SE 3の健康機能や緊急連絡系機能を全て備えた上で、さらに一歩進んだ健康機能として、心房細動を発見できるECG(心電図)機能、コロナ禍に大きな注目を集めた血中酸素ウェルネス機能も搭載している。
そして今回、Series 11限定の新機能として新たに追加されるのが「高血圧」の通知機能だ。
これは実際にApple Watchで血圧を測っているわけではなく、Apple Watch背面についた光学センサーで、心臓の鼓動に対して血管がどのように反応しているかを見て高血圧の兆候を見極めている。
Appleが持つ膨大な医療データを機械学習させた上での診断で問題があると思われる場合に、ユーザーにその兆候を知らせる。
高齢者の間で日常的に血圧を測る習慣が定着している日本で意味があるのか、と疑問視する専門家もいるが、「自分だけは大丈夫」と過信している人たちに気付きを与える効果はあるのではないだろうか。年内には日本でも提供予定だという。
Apple Watchの機能だけでなく、洗練や心地よさも身にまといたい人にはSeries 11の豊富なバリエーションから自分に合う1本を選ぶことをお勧めしたい。
●Apple Watch Ultra 3:秒針/長時間駆動/単体衛星通信でさらに進化
Apple Watch Ultra 3は、一見しただけでは何も変わっていないように見えるが、大きな進化を遂げたモデルだ。屋外、特に直射日光の下で使われる可能性も高い製品として、Ultra 2でも最大3000ニトを実現していたが、その一方で節電モード時でも秒針が進むSeries 10を少しうらやましく思っていたUltraユーザーも少なくなかったかもしれない。
今回、LTPO3というディスプレイテクノロジーを採用し、節電時秒針に対応しつつも、2024年同様の最大3000ニトの輝度を維持しつつ、これまでよりも額縁を24%小さくし、わずかだがディスプレイサイズそのものも大きくなっているという、まさに究極のApple Watchとしての威厳を取り戻した形だ。
だが、それ以上に魅力的なのが、バッテリー動作時間だろう。検証時間が短くて今回は試せてはいないが、Appleの公称値で動作時間は通常利用でほぼ2日の約42時間、低消費電力モードを使えば最長72時間(丸3日間)だという。多少の危険を伴う長時間のエクスカーションの相棒としても頼りになりそうだ。
ワークアウト時の心拍変化などの測定をすると、それだけバッテリーの消耗が激しくなるが、Appleの発表によればGPSと標準の心拍数記録機能をオンにし続けた状態で約14時間のワークアウトが記録可能だという。
Apple Watch Ultra 3のバッテリーが尽きる前に、ユーザーの体力が尽きてしまいそうだ。しかし、低消費電力モードを使用すれば約20時間記録可能で、さらにそこからGPSによる位置検出と心拍数の検出頻度を落とす設定を選べば約35時間の記録ができるという。どうやら検証時間が足りないのではなく、そもそも検証が並の人間には不可能なようだ。
この2つの機能だけでも、既に十分魅力に感じる人も多いだろうが、それに加えて新たに単体で衛星通信をして助けを呼ぶ機能も追加された。
携帯の電波の届かない場所に遠出をして、万が一遭難をした場合、空が見える場所に出ることができれば、救援を求めるメッセージと共に自分の位置情報を送信して助けを呼ぶことができる。
通信用の衛星は常に動いているため、画面に表示される指示に従って衛星の向きに身体を向けるなどの前準備が必要だが、例えば登山中にクレバスなどに挟まって身体の向きが動かせないような場合でも、空にできるだけ近い位置にApple Watch Ultra 3を構えて待っていればメッセージを送れる可能性がある。そのタイミングを待つ意味からも、今回のバッテリー寿命の大幅アップが大きく効いてくる。
3つの新機能に加え、最大の画面サイズを生かしたUltra 3専用の新しい文字盤「Waypoint」も追加されている。
これら全ての新機能に加え、アウトドア派だけでなく、アーバンなシーンにも“映える”Apple Watch Ultra 3のデザインも含めた本来の魅力もそのまま継承している。
頑丈さを感じさせるチタニウム製のケースや、最大3000ニトの画面の明るさを活用したフラッシュライトとしての役割、Apple Watch Series 11の安全機能に加えて、緊急時にけたたましいサイレン音を鳴らして周囲に助けを求める機能、2つの周波数を使った精度の高いGPS、よく使う機能を簡単に呼び出せるアクションボタン、ランニング/サイクリング/プールや海での水泳を記録し補助するさまざまな機能だ。
Apple Watchの中では最も高価なUltra 3だが、優れたダイバーズウォッチとしての側面も備えていると考えると、12万9800円からという値段を大きく上回る価値を備えた製品で究極のApple Watchとなる。
タフな分、大きくて重い製品だが、それが気にならない人なら、少し背伸びをして買っても後悔をさせないはずだ。
なお、例年通りエルメスコラボモデルも用意されている。2024年まではセイリングをモチーフにした「En Mer」1種類だけだったが、2025年はそこにスキューバダイビングをモチーフにした大胆に穴をあけたラバーバンドが魅力の「Scub'H Diving」というモデルが加わった。
SE 3の大幅な進化でApple Watchのベースライン(最低限の機能の水準)が大きく引き上げられた新型Apple Watchだが、一方でUltra 3も大きく飛躍し、Apple Watchの可能性の新たな境地を広げている。その間をバランス力でカバーする、多彩なモデルを持つSeries 11――2025年のApple Watchは、どれもかなり魅力的だ。
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