
ある日、Aさんは長年の親友であるBさんの家に一晩泊めてもらうことになりました。久しぶりに夜通し語り明かし、昔話に花を咲かせた翌朝、Aさんは少し寝坊してしまいました。
慌ただしく仕事へ向かう準備をするAさん。Bさんから「今日の午後から台風が来るから、窓は絶対に閉めておいてね」と念を押されていたことを思い出しましたが、出かける直前にクライアントから電話が入り、対応に追われるうちに、窓のことをすっかり忘れてしまったのです。その日午後、Aさんが仕事に集中している間に、台風は予報よりも早く勢力を増して上陸し、記録的な豪雨が街を襲いました。
Bさんが帰宅すると、目に飛び込んできたのは信じられない光景でした。閉め忘れた寝室の小窓から猛烈な雨が吹き込み、部屋は水浸しでした。連絡を受けたAさんは血の気が引きました。親しい友人に取り返しのつかない損害を与えてしまった場合、一体どのような責任が生じるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
不注意であれば過失とは認められにくい
ー過失によって友人宅に損害を与えた場合、法的に賠償する義務はありますか
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台風によって友人の家が水浸しになった場合、民法第709条の不法行為責任に基づき、法的な賠償義務が生じる可能性があります。ただし、故意または過失が認められるか、状況によって判断が分かれるため、必ずしも賠償責任が認められるとは限りません。
このケースで争点となるのは、窓を閉め忘れたことが法的な「過失」にあたるかどうかです。Bさんから台風が来ることを知らされ、窓を閉めるよう注意されていたにもかかわらず閉め忘れた点は、過失と判断される一因になります。
一方で、窓を意図的に開けたわけではなく「うっかり忘れた」という不注意によるものであり、積極的な加害行為とは異なります。また、予報を大きく超える記録的な豪雨であったなど、損害の発生を予見するのが困難だったといえる事情があれば、過失が否定される可能性もあります。
ー仮に「過失」が認められた場合、賠償すべき損害の範囲はどこまでですか
もしAさんが故意に窓を開けた場合など、過失が認められた場合は、その行為によって生じた、社会通念上相当と認められる範囲の損害すべてが対象となります。
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具体的には、濡れた床や壁の修繕費用、水浸しになった家具や家電製品の買い替え費用などが考えられます。さらに、下の階の部屋まで水漏れしてしまった場合の損害や、Bさんが自宅の修繕工事が終わるまでホテルでの生活を余儀なくされた場合の宿泊費用なども、賠償の範囲に含まれる可能性があります。
ーこのような場合に利用できる保険はありますか
このケースでは、Bさんの火災保険と、Aさんの個人賠償責任保険が利用できる可能性があります。Bさんは自身の火災保険(風災補償や水災補償)を確認すべきですが、保険会社がAさんに賠償を求める(求償権の行使)可能性があります。その場合、友人の個人賠償責任保険(火災保険や自動車保険、クレジットカードの特約として付帯していることが多い)が役立ちます。
現実的な流れとしては、まずBさんの火災保険で対応できるかを確認し、それが無理な場合や保険会社から請求があった場合に、Aさんの個人賠償責任保険の利用を検討することになるでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
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(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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